大学受験生のときにお世話になった数学の鉄則
掲載写真は高校在学中から大学入試までの期間にお世話になった参考書。僕の世代にはおなじみの寺田文行先生の「数学の鉄則」シリーズだ。僕が使っていたのが表紙に「新研究」という文字の入った本だ。寺田先生は数学者で早稲田大学名誉教授。お名前の文行は「ぶんこう」と読む。
今日は寺田先生の命日である。昨年3月3日に89歳でお亡くなりになったことをツイッターで知って以来、鉄則シリーズを少しずつ集めてきた。
先生の教え子の方が書かれた「寺田文行先生を偲んで」というブログ記事に書かれているように、先生の息子「力」さんが重症身障者で、そのためのご不安や金銭的ご負担は大変なものだったことを最近知った。予備校で働いたり出版社から受験用の数学の本をお出しになったのも、そもそもは数学者がお金を稼ぐ手段としてお始めになったそうである。そして先生が48歳の時、ご子息、力さんを亡くされている。
さらにこのブログ記事から引用させていただくが、「数学の成績が悪くて落ち込んでいる生徒のための参考書を作って欲しい」と、当時旺文社にいた柴道生さんらの強い要望から作られたのが『寺田の鉄則シリーズ』だという。数学を鉄則という形で体系的にまとめた鉄則シリーズは、わかりやすく、かつ難問とされる問題もスラスラ解けるようになると、当時既に数学の参考書として確立していたチャート式と並び、受験生の数学のバイブルとなったのだ。
「コア-オプション方式」を提唱したのも寺田先生である。これは今も生きる高校数学の基本理念で、基準的なコアとなる教科(数I、数II、数III)と、専門性が高い選択制のオプション教科(数A、数B、数C)を分ける考え方。これにより数学をすべてのひとに分かりやすく教えるという意思が高校数学に埋め込まれたのだ。
学習指導要領の変遷(戦後始まった新制高校の数学)(ウィキペディア)
1949年:一般数学、解析(1)、幾何、解析(2)
1951年:一般数学、解析(1)、幾何、解析(2)
1956年:数学I、数学II、数学Ⅲ、応用数学
1963年:数学I、数学IIA、数学IIB、数学Ⅲ、応用数学
1973年:数学一般、数学I、数学IIA、数学IIB、数学III、応用数学
1982年:数学I、数学II、代数・幾何、基礎解析、微分・積分、確率・統計
1994年:数学I、数学II、数学III、数学A、数学B、数学C
2007年:数学基礎、数学I、数学II、数学III、数学A、数学B、数学C
2013年:数学I、数学II、数学III、数学A、数学B、数学活用
2022年:数学I、数学II、数学III、数学A、数学B、数学C
僕が使った記事トップの「新研究」の参考書は学習指導要領「1973年:数学一般、数学I、数学IIA、数学IIB、数学III、応用数学」に準拠している。
戦前、戦中の旧制中学、旧制高校の数学については「復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版)」を参照。
1970年代半ばから1990年代半ばまでおよそ20年間、寺田先生の「数学の鉄則」シリーズは学習指導要領が変わるたびに改訂を重ねた。入試問題もその都度新しいものを取り入れている。大学でご自身の研究を続け、教鞭をとりながら、たったひとりの著者が注いだエネルギーと熱意に今さらながら驚かされる。
また寺田先生は、「数学の鉄則」シリーズのほか、サイエンス社の「著者:「寺田文行(元早稲田大学教授)」書籍一覧」からわかるように大学数学の基礎固めに注力されていた。一般向けの教養書は書かれていない。先生は数学を必要とするあらゆる学部の大学生にとっても心強い教育者だった。そして「ガロア理論入門 (ちくま学芸文庫) 」の翻訳は寺田先生によるものだ。
受験数学は解法のパターン学習でもあり、その要点を効率的に学べるよう工夫した数学の鉄則は、僕がいちばん熱心に取り組んだ参考書だった。「鉄則」とは問題を解くためのアプローチを項目別に整理したものだ。
寺田先生は当時放送されていた旺文社の「大学受験ラジオ講座」(通称「ラ講」)にも出演され、毎回欠かさず聞かせていただいた。僕が聞いていた文化放送では毎晩科目別に午後11時枠で放送されていた。
代々木ゼミナールの夏期講習、冬季講習では「寺田の鉄則ゼミ」という人気講座で直接教えていただいたこともある。先生が55歳の頃だ。当時の代ゼミは日本最大のマンモス予備校だ。現役の大学教授が予備校で教えるのは今はもちろん、当時でも珍しいことだった。それも単発講座でなく集中特訓講座である。寺田先生は「代ゼミの名物講師」のおひとりでいらっしゃった。(ちなみに科学雑誌『Newton』を創刊された「竹内均先生」が代ゼミで教え始めたのは定年退官後のことだ。また僕は代ゼミやラジオ講座で名物講師「土師政雄先生」の授業も受けていた。)
数学の本質はもっと奥深いものだし、自由な発想が求められるのだから好きな数学書を読みたい。屁理屈をこねてパターン学習、暗記学習を見下して受験数学から逃げていた僕にとって、寺田先生の参考書や授業は、そのような思い込みを払拭し、気持ちを切り替えて受験勉強に没頭するきっかけになったのだ。代ゼミの講座で先生が「私の専門は整数論です。」とおっしゃったのを聞いて、整数論が何なのかわからないながらも寺田先生が教えるとおりに学んでいけばよいのだと理解できた。
先生の親身な語り口、受験生を勇気づけ不安を和らげてくれる教え方に、高校の先生にはない魅力と頼もしさを僕は感じた。受験数学のプロである。
先生が遺してくださった参考書を揃えて当時の自分を思い出し、物理や数学の勉強に行き詰まったときは初心にかえるきっかけにしたいと思う。
僕が大学在学中に刊行されていたのが、分野別の次のシリーズだ。(写真はクリックで拡大する。)これは学習指導要領「1982年:数学I、数学II、代数・幾何、基礎解析、微分・積分、確率・統計」に準拠している。
そして1990年代に学年別のシリーズとして刊行されたのがこちら。学年別の鉄則シリーズではこの表紙の本が最後のものになった。これは学習指導要領「1994年:数学I、数学II、数学III、数学A、数学B、数学C」に準拠している。
鉄則をまとめると次のようになる。
1970年代後半の参考書:
数学I・IIB・IIIの鉄則一覧(その1)
数学I・IIB・IIIの鉄則一覧(その2):微分方程式が教えられていたことがわかる。
1990年代後半の参考書:
数学Iの鉄則一覧: その1 その2
数学Aの鉄則一覧: その1 その2
数学IIの鉄則一覧: その1 その2
数学Bの鉄則一覧: その1 その2
数学III&Cの鉄則一覧: その1 その2
2015年度の高3生から数学Cは教えられなくなった。「大学への数学(研文書院)」、「数学の変更点」「学習指導要領の変遷」を参照。
1)数学Iに「データの分析」(分散・標準偏差や散布図・相関係数)が追加。
2)数学Aに「整数論」が新登場。
3)旧数学III&数学Cを新数学IIIとしてまとめ、「複素数平面」など、いわゆる「ゆとり」で削除した内容が復活。
4)数学Bから「統計とコンピュータ」が削除。統計学自体は残る。
ただし2022年度から「数学C」は復活する予定だ。「行列」が数学Cで復活するかは不明。
2022年度以降に導入される高校の次期学習指導要領で、現行の指導要領で廃止された選択科目の数学Cが復活する見通しとなった。現在は数学IIIの対象になっている「複素数平面」などを数学Cに移行する方針。数学IIIは学習範囲が多く、高校から「十分な授業時間を確保できない」との声があがっていたという。
数学Cは「行列」や「平面上の曲線」などを学ぶ科目として1994年度に設置されたが、2012年度に始まった現行指導要領で他科目と統合して廃止された。
高校で2022年度以降に始まる次期学習指導要領では、数学と理科を合わせた科目「理数探究(仮称)」が新設予定で、社会生活との関連から数学を学ぶ「数学活用」も廃止となる見込みだ。
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2018年2月に追記:
時期学習指導要領(案)が発表された。数学Cは復活するが、行列はそれに含まれていない。いろいろ問題がある。
次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89d69b96a16b12ec3901564f09785874
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1990年代の「最新シリーズ」の冒頭には「キミやあなたを 数学好きにしてあげよう・得意にしてあげよう」という学生への励ましの言葉が書かれている。
数学の鉄則シリーズ: Amazonで検索
数学の鉄則シリーズ: ヤフオクで検索
数学の鉄則シリーズ: 日本の古本屋で検索
寺田先生の著書: Amazonで検索
久しぶりに寺田先生の授業を受けてみようではないか。YouTubeには幸い2つ録音がアップされている。来年の大学受験に臨まれる方は、先生からみなさんへの応援メッセージだと思ってお聞きになるとよいだろう。
受験生への励まし、広島大の漸化式、北大の定積分の問題をお話しされている。(再生開始2分から始まる。)
空間図形(岐阜大と東大の問題)が少しだけ解説されている。
「大学受験ラジオ講座」で学んだ人には懐かしいオープニング曲だ。ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms/1833-1897)による1880年の演奏会用序曲『大学祝典序曲』(作品80)である。
寺田先生のご指導への感謝とともに、在りし日を偲び心からご冥福をお祈りいたします。
関連ページ:
寺田文行先生の最終講義、退任・古希を祝う会
http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~miya/terada/final.html
寺田文行先生を偲ぶ(足立恒雄先生のページ、足立先生は寺田先生の最初の教え子である。)
http://d.hatena.ne.jp/q_n_adachi/20170226/1488097502
2011年11月19日のツイート(足立恒雄先生のページ)
http://d.hatena.ne.jp/q_n_adachi/20111120/1321798250
寺田文行先生を偲んで
https://www.digital-knowledge.co.jp/blog/archives/2640/
死ぬまでに読みたい!『寺田の数学鉄則』
http://ameblo.jp/ihcoyc1986/entry-10961226528.html
寺田の数学合格鉄則96に関するメモ
http://blog.livedoor.jp/qkjm-terada96/
関連記事:
復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/709402c3bc0ad74ebb4fe0969f9f7e42
大学への数学(研文書院)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6124158481ed8d9d4655478643be0db8
学習参考書が電子書籍化され始めている件
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cdbd82914186c4b8dda69ab77e6efa07
出題者心理から見た入試数学: 芳沢光雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb84c7c5627fb06c83901d7f9dcc6b20
高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7
大学で学ぶ数学とは(概要編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55
大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
コメント公開と返信が遅くなり、失礼いたしました。
吉田様のブログ記事を、こちらの記事でも引用させていただき、後付けになりましたが、ありがとうございます。寺田先生のご子息の「力」さんが重症身障者だったことは吉田様のブログ記事で知りました。私は代ゼミで寺田先生の講義を受けただけですが、先生のそのようなご苦労は露ほども知らず、能天気だった予備校生時代を顧みると、今さらながら恥ずかしい想いをいたします。YouTubeにアップされている大学受験ラジオ講座で先生のお声を聴くと、懐かしいですし、当時にタイムスリップした感覚になれますね。
余談ながら私も長年IT企業に身を置いています。昨年再就職活動をする中で、吉田様がCOOとして取り仕切られている会社のすぐ近くの企業に面接に行ったことを思い出しました。前職ではeラーニング系のマテリアルの翻訳管理は、私の担当業務のひとつでした。コロナ禍ということ後押しして、eラーニングの役割はとても大きなものになっていると思います。吉田様のお仕事でのさらなるご活躍を願っています。
寺田先生のお仕事をご紹介いただき、ありがとうございます。
こんにちは。鉄則シリーズ、旺文社のラジオ講座、東後勝明先生のラジオ講座など、同じ参考書や番組で学ばれていたようですね。東後先生懐かしいです。ウィキペディアで調べると、現在は80歳になられているようです。画像検索もしてみました。
http://ux.nu/gL4zu
いまは、ネットを使ってどこに住んでいても学ぶことができますね。意欲さえあれば地域による格差がなくなっていると思います。けれども、親の収入の差による教育機会の差は、現在のほうが厳しいと思っています。総合すると昔のほうがよかったのでしょうね。
高校に入った途端、習うことが急に増え、進度が早いので大変でした。学校の授業だけでは足りないと思い、寺田先生の「鉄則」も買って勉強しました。
旺文社のラジオ講座もされていたのを覚えています。NHKの英語会話を同じ早稲田の東後勝明教授がされていたので、寺田先生が旺文社のラジオ講座をされていてもあまり違和感は覚えませんでした。
勉強はキツかったのですが、数学ができれば大学入試は圧倒的に楽になるので、頑張って勉強しました。今と違って、私立と公立の格差があまりなかった気がします。良い時代だったのかもしれません。
特定できてよかったです。
僕はこの記事で紹介したような年代の鉄則シリーズを持っていますが、背表紙の金文字を見たところ80年頃のは細い文字、80年代中ごろの分野別のシリーズは太い文字、90年代後半~2000年頃のシリーズは太い文字でした。
Amazonだとどの年代のかわかりにくいので、ヤフオクとか「日本の古本屋」で探すと品数が多いし、写真も掲載されているのでお勧めします。
私の少ない情報と不十分な説明にも関わらず、特定していただけた事に非常に興奮して、目が覚めてしまいました。
表カバーは兄が捨てたようで、すでに私が見たときにはなかったのです。なので、ご理解いただいた通り、カバーを取った状態の話でした。
ただ、背表紙の金の文字ですが、添付いただいたページのものより、控えめな大きさとフォントだった記憶なので、1990年代のものなのかもしれません。
最近になって仕事で数学を使用することになり、本屋さんで探していたのですが、絶版だったとは非常に残念です。アマゾンで探すことにします。
深夜にも関わらず、ご丁寧にありがとうございまいた。
青色の本というのは表の紙のカバーを取り去った、中身の部分の色のことですよね?そして背表紙もカバーではなく中身の背表紙ですよね?
だとしたら、その条件を満たすのは寺田先生の鉄則シリーズだと思うのです。中身は「青」というよりグレーと青の中間の色ですが、「青」と言ってもよい色です。鉄則シリーズの背表紙の文字は金色です。
これは1970年代のものですが、1990年代もカバーを取ればこの色と同じです。
https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/l369936465
私が高校時代(2000年頃)に3つ上の兄に借りて使用していた数学の参考書を探しています。もしお分かりになったら教えてください。私が覚えている情報は、
・ハードカバー
・青色の本(カバーは兄が捨てたのでわからない)
・背表紙に金の刻印で数学Ⅰとあった
・数学Ⅰ・Ⅱ・A・Bそれぞれ一冊ずつあった
・かなり難しかった気が
これくらいの情報ですが、このページにある鉄則が非常によく似ていたのでコメントしてしまいました。