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アインシュタイン選集(2): [A4]: 水星の近日点の移動に対する一般相対性理論による説明

2008年06月07日 16時57分35秒 | 物理学、数学
アインシュタイン選集(2): [A4]: 水星の近日点の移動に対する一般相対性理論による説明(1915年)

1つ前の[A3]の論文で一般相対性理論はひとまず完成したのだが、その最後の部分で触れられている「水星の近日点の移動」について、具体的な計算をしてみせているのがこの[A4]の論文である。発表年としては[A3]よりも1年前の論文だ。

ご存知のとおり惑星は太陽を1つの焦点においた楕円軌道上を運動する。太陽のまわりには複数の惑星が公転しているので、実際には惑星どうしの重力の影響で、それぞれの惑星が描く楕円軌道の近日点は移動してしまい、この楕円軌道自体の回転のことを天文学では「歳差運動」と呼んでいる。この現象はアインシュタイン以前のニュートン力学でも計算されていたことであった。しかし、実際の観測と理論的な計算結果との間にはわずかなずれがあることが、ルヴェリエという天文学者によって指摘されていた。そのわずかなずれの理論的な説明が一般相対性理論によってなされたわけである。蛇足的であるが、アインシュタインが取り扱ったのは太陽と1つの惑星で構成される「2体問題」における歳差運動の微小なずれである。

前にも述べたがアインシュタインの時代には科学計算を行えるような計算機はなく、彼は自分が導いた重力場の方程式を近似的に計算するしか手段を持っていなかった。重力場の方程式は4次元時空の微分方程式として表現されている。高校で微分方程式を勉強した方ならばご存知だろうが、物理現象で具体的な値を計算するためには方程式の解となる関数に値を代入する必要があり、そのための関数は微分方程式を解くことによって求められる。

ところがアインシュタインの重力場の微分方程式は、時空がどのように曲がっていても当てはまるような一般的な数式表現となっているために、数式的な変形だけでは具体的な関数が求められないのだ。したがって彼がとったのは近似的にそれを解くというアプローチとなったのだ。

彼が前提とした重力場の方程式で重要なのは、変換行列式(=基本計量テンソルg(u,v)の行列式)が1である任意の座標変換に対して共変形になっているということだ。つまりこれは変換が任意の「4次元時空の双曲回転」であることを示している。

以下は、それまでに導かれた重力場の方程式から彼が具体的な計算をする過程である。

§1 重力場

一般相対性理論の重力場の方程式は、クリストッフェル記号Γ(接続係数)を含んだ微分方程式によって記述され、クリストッフェル記号Γ(接続係数)は4次元時空の各点での空間の曲がりを意味する基本計量テンソルg(u,v)の時間と空間成分による偏微分によって記述されている。いわば4次元時空の幾何学的な記述である。(1)





また、一般相対性理論では「物質=エネルギー」という根拠に基づき、運動量・エネルギー・テンソル T なるものを導き、T も根源的には基本計量テンソルg(u,v)によって記述されることを示した。この段階で、4次元時空の幾何学と物質の物理現象は結びつきを持ったわけである。(2)

さらに別の論文で、物質のエネルギー・テンソルから作られるスカラーが常に0になると仮定することによって基本計量テンソルg(u,v)の行列式の値は-1になる。(3)

水星の近日点の移動を計算するにあたり、アインシュタインは座標系の原点に質点としての太陽を置いた。この太陽を中心に重力場を考え、無限の遠方でその影響は0になる。

ここで彼はひとつの疑問を提示する。それは上記の(1)と(3)で与えられる方程式と太陽の質量を与えて、基本計量テンソルg(u,v)は数学的には完全に規定することができないのではないかという疑問だ。この疑問は変換行列式が1である任意の座標変換に対して共変であるという事実にその原因がある。けれども彼は数学的に厳密な考察を進めずに、(1)の方程式のすべての解はそれぞれ形式的には異なっていても、物理学的には同等であると考えた。この考えのもとに1つの解を導くことにした。

アインシュタインはまず重力場の微分方程式ではなく、そのもととなる基本計量テンソルg(u,v)の値を近似計算で求めていった。第0次、第1次、第2次と近似精度を上げていくことにしたがって、いくつかの物理現象をそれぞれ具体的に計算してみせた。

第0近似

「第0近似」では基本計量テンソルg(u,v)の値を特殊相対性理論における値とした。g(u,v)の初期値と言ってもいいかもしれない。この値を(4)としよう。本物の値はこれよりわずかにずれているとし、その差は1にくらべて充分に小さいものと仮定する。このずれを「1次」の小さい量として扱う。また、このずれの量のn次の関数は「n次」の小さな量として扱うことにする。このようにすれば0次の値を出発点として(1)と(3)の微分方程式を逐次近似法で解くことによって、重力場をn次の量まで正確に計算することが可能になる。

近似計算を進めるにあたり、彼はg(u,v)に対して次のような条件を課した。

1)g(u,v)のすべての成分はx4に無関係とする。つまりg(u,v)は時刻にかかわらず同じように記述される。

2) 求める解(すなわちg(u,v))は空間的な座標原点に対して対称である。すなわち、空間座標に1次直交変換(つまり回転)をほどこしてもg(u,v)の関数形は変わらないものとする。

3)g(4,ρ)=g(ρ,4)=0 は正確に成り立つものとする。ただし、ρ=1,2,3

4)g(u,v)は空間的に無限の遠方において次のようになるとする。

g(u,v) = -δ(u,v), g(u,4)=0, g(4,4)=1

第1近似

第1次近似を求める計算式は、このブログの記事で紹介するには難しすぎるので具体的に紹介できないのだが、第1次の量について、方程式(1)と(3)および上記の4つの条件を満足する近似式をアインシュタインは紹介した。

この第1次の近似式においてもすでにg(u,v)は(4)からずれている。しかし、このことから光線に対する重力場の影響について、以前の論文とは異なった結果が出てくる。それは以前の論文では、太陽による光線の曲がりを0.85秒と求めたのだが、今回の第1次近似では1.7秒(以前求めた値の2倍)となる。

g(u,v)が第1次近似で求められたことにより、これを使って重力場の方程式を第1次近似で計算できるようになった。

第2近似

惑星の軌道を第2近似まで正確に計算するためには、クリストッフェル記号Γ(接続係数)のみについて第2近似まで正確に計算する必要がある。このためには重力場の方程式の第(4,4)成分と求めている解に対して設けた一般条件を一緒に考えればよい。アインシュタインは重力場の方程式の第(4,4)成分に第2近似の量を与え、3次以上の量を無視してクリストッフェル記号Γ(接続係数)の第2近似の式を導いた。

§2 惑星の運動

一般相対性理論における重力場中の質点の運動方程式から、ニュートンの運動方程式は第1近似として導かれる。質点の速度が光の速度にくらべて十分に小さいときはdx4にくらべてdx1~dx3は小さい値となり、第1近似としてニュートンの運動方程式が得られる。

第2次の量までを考慮した場合の運動方程式もアインシュタインは導いた。詳しい計算手順はこのブログのレベルを超えるので紹介できないが、2ページほどの計算の後に彼は水星の近日点移動のずれが、100年間に43秒であることを計算してみせた。


関連リンク:

アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

とね書店:

アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144


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