「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」(Kindle版)
内容紹介:
センター試験廃止で「民間試験」導入、小学校英語、グローバル人材育成戦略……
2020年、この国の英語教育はどうなる?
子供たちの未来を左右する2020年施行の新学習指導要領からは、この国の英語教育改悪の深刻さが見てとれる。たとえば、中学校・高校では「英語は英語で教えなければならない」という無茶なルールを作り、小学校で「英語」は教科としてスタートするのに、きちんとした教師のあてはない。また学習指導要領以外にも、2020年度からは現在の「センター試験」は廃止されて、どれも入試として問題含みの「民間試験」を導入するという。どうして、ここまで理不尽なことばかりなのか?第一人者が問題点を検証し、英語教育を問いなおす。
2018年1月10日刊行、220ページ。
著者について:
鳥飼玖美子(とりかい くみこ): ウィキペディアの記事
東京都生まれ。立教大学名誉教授。上智大学外国語学部卒業、コロンビア大学大学院修士課程修了、サウサンプトン大学大学院博士課程修了(Ph. D.)。NHK「ニュースで英会話」監修およびテレビ講師。著書に『英語教育論争から考える』『戦後史の中の英語と私』『通訳者と戦後日米外交』(みすず書房)、『危うし! 小学校英語』(文春新書)、『歴史をかえた誤訳』(新潮文庫)、『国際共通語としての英語』『本物の英語力』『話すための英語力』(講談社現代新書)などがある。現在、NHK Eテレの『世界へ発信!SNS英語術』という番組に出演中。Twitter: @nhk_snsenglish
鳥飼先生の著書検索: 書籍版 Kindle版
鳥飼先生の講演: 動画を検索
10年ほど前に「英語の授業は英語で - 新学習指導要領案」という記事を書いたことがある。このとき発表された新学習指導要領では、小学校5、6年生から英語を教えるだけでなく、中学と高校では英語だけを使う英会話の授業を始めるということだった。「そんな無茶な!」という気持で書いたのがこの記事だった。すでにこの方針で授業が行われ始めてずいぶん経つわけである。その後どうなったのだろうと気になっていた。
また、今年になってから気になっているのは2020年から行われる大学入試制度が問題だらけだということ。数学に関しては「次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと」という記事を書いたことがある。特にいまニュースやSNSで話題になっているのは大学入学共通テストの英語の試験についてだ。センター試験が廃止され、この新しい試験制度が来年から施行されようとしている。
本書はこの大学入学共通テストの英語に関して、そして日本の英語教育の現状に非常な危機意識をもっている鳥飼玖美子先生が昨年初めにお書きになった本だ。鳥飼先生は英語教育の第一人者として知られているが、もともとは有名な同時通訳者である。僕は受験生の頃から大学時代にかけて文化放送の「百万人の英語」というラジオ番組で先生の授業を聞いていた。他にはこの番組で鳥飼先生のほか、國弘正雄先生とJ・B・ハリス先生の授業を聞いていた。(「百万人の英語」の録音を検索)
「まえがき」と章立て
本書の「まえがき」で鳥飼先生は次のようにお書きになっている。少し長いが引用しておこう。
「英語教育改革がここまで来てしまったら、どうしようもない。もう英語教育について書くのはやめよう、と本気で思った。それなのに書いたのがこの本である。
英語教育についての書を何冊も刊行し、あちこちの講演で語ってきて、もうやめよう、と思うようになったのは、英語についての思い込みの岩盤は突き崩せないと悟り、諦めの境地に達したからである。
どんなに頑張って書いても話しても、人々の思い込みは強固である。曰く「グローバル時代だから英語を使えなければ」「でも日本人は、英語の読み書きは出来ても話せない」「文法訳読ばかりやっている学校が悪い」「だから、英語教育は会話中心に変えなければ」という信条を多くの人たちが共有している。
そうではない、英語をコミュニケーションに使うというのは、会話ができれば良いというものではない、しかも今の学校は文法訳読でなく会話重視で、だからこそ読み書きの力が衰えて英語力が下がっている、といくら説明しても、岩盤のような思い込みは揺るがない。政界、財界、マスコミ、そして一般世論は、ビクともしない。
結果として的外れの英語教育改革が繰り返され、行きついた先は、教える人材の確保も不十分なまま見切り発車する小学校での英語教育であり、大学入試改革と称する民間英語試験の導入である。ここまで来てしまったら打つ手はない。英語教育について書いたり話したりは無駄な努力だと考えざるをえなかった。
それでも、何とか気力を奮い立たせて本書を書いた。この危機的状況にあって、言うべきことは言っておこうと考え直したからである。英語教育における改革は不断に必要だが、それには英語教育の実態や改革の成果などを十分に検証した上で議論を尽くすべきであろう。皆さんにも英語教育の課題を知っていただき考えていただくほかはないと考えるに至り、現状分析と批判を提示し私なりの代案も示した。
一般読者にはなじみがない新学習指導要領をあえて取り上げたのは、学校の先生たちは、このような指針に沿って英語を教えることになるのだ、と知っていただきたいからである。英語教育の専門家であっても、これほどの英語を教えるにはどうしたら良いだろうと悩むような内容が記載されている。英語教員の心中を察して余りある。
学習指導要領では「批判的思考」の育成を掲げているが、学校現場では、文科省や教育委員会には逆らえないと感じている教員が多いし、学習指導要領を批判することに否定的な感情を抱く英語教員もいて、疑問や不安の声はなかなか表に出ない。しかし、肝心の教師が批判を避けていると現場の声が伝わらず、教育は良くならない。
被害を受けるのは生徒たちである。特に可哀想なのが小学生である。何も分からない子供たちが、あまり自信のない先生から中学レベルの英語を習う。嫌いにならなければ誠に幸いであるが、中学に進む頃には英語嫌いになっている児童が今より増える懸念がある。ゆとり教育のように、始まった途端から軌道修正を余技なくされることになるかもしれないが、一人の子供にとっては間に合わない。その子が受ける英語教育は、たった一回きりなのである。救いようのない気持ちにならざるをえない。何とかしなければ、と本書を書きながら思い続けた。
英語教育の問題は、実は日本の将来に関わることであり、未来を担う世代をどう育てるかの問題である。先が見通せない不確実な時代、これまでにもまして多様性に満ちた世界に生きることになる世代を、どのように育てるのか、皆で考えていただきたい、というのが本書に託した私の願いである。」
そして章立てはこのとおり。
序章 英語教育は今、どうなっているのか?
第1章 英語教育「改革」史
第2章 2020年からの英語教育―新学習指導要領を検証する
第3章 大学入試はどうなるのか?―民間試験導入の問題点
第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して
感想と解説
僕が中学で英語を学び始めたのは1975年。世代的には「読み書きと文法しか習わなかった」ことになるが、幸い中学2年のときに出会った同級生のおかげで、英語好きになりラジオ講座に集中して、高校生の頃には日常英会話は自由にできるようになった。つまり英語は独学でマスターし、その後も仕事を通じて学び続けたからビジネス英語は問題なしというレベルになった。
僕の勉強法はとにかく教科書や教材の丸暗記、オウムのように喋ること、そしてディクテーションである。それを繰り返しているうちに喋れるようになった。またNHKで放送されている外国語学習の放送も継続的に活用していた。(英語学習のためのページを開く)鳥飼先生は現在、NHK Eテレの『世界へ発信!SNS英語術』という番組に出演中である。Twitter: @nhk_snsenglish
しかし、たいていの大人は僕と同様「読み書きと文法だけの授業」を受けた世代だから、日本の英語教育では英語は話せない、会話重視にすべきだと信じ込んでいるのだと思う。
そして、実際に会話重視の授業が行われてきた結果が惨憺たるものであることを知らない。会話力は身に付かず、逆に読み書きの能力が低下してしまったのだ。基礎的な英語力が身についておらず、英文科、英語学科なのに原書を読めない学生が入学してくるため、中学レベルの英語から教えなおす授業を行っている大学すらあるという。
問題の本質は根深いことが本書を読んで理解できた。学習指導要領はおよそ10年ごとに改正されるのだが、過去10年の結果に関する検証や行われておらず、十分な議論もなされないまま、新たな方針が思いつきのように打ち出され施行されていく。これを何度も繰り返しているのだという。これが「序章 英語教育は今、どうなっているのか?」と「第1章 英語教育「改革」史」に書かれていることだ。そして省庁間や省内での定期的な人事異動によって、せっか議論をしたとしても引き継がれないという状況がある。
今回の改正では現在小学校高学年の児童に対して行われているた授業を中学年で行い、中学レベルの英語を高学年で教えることになるという。学習指導要領には1980年代から一貫して「読み、書き、リスニング、会話」の4技能による総合的コミュニケーションの育成が重要だと書かれているが、実際には会話重視に偏重しているという。
また、文部科学省は「コミュニケーションを行う目的・場面・状況などに応じて理解したり伝え合ったりする能力を育成する」という目標を掲げて会話の授業をするよう指導している。その方針に従い中学校で会話の授業は日本人の先生によって行われている。熱心でやる気のある先生もいれば、上手にできなくて苦心惨憺の先生もいる。
しかし、その内容は小学生の「買い物ごっこ」を英語でやっているだけだ。中学3年生の教室内で繰り広げられているのは「魚屋さん」「八百屋さん」「花屋さん」などの店を設定して行うやり取りだ。そこでは「ハウマッチ?」「ワオー!」「チープ、チープ、プリーズ」などのブロークン英語が行き交い、文部科学省が目標に掲げる「英語文化で規範となる話し方の規則を学び、適切に英語を使いコミュニケーションを図る能力」とは程遠い。
僕個人の考えを言えば、文法や単語の知識なしに英会話や英語学習はあり得ないと思う。日本語と英語の文法が大きくかけ離れているわけだから文法の学習は重要だ。生活に必要な単語数はどうしたって暗記に頼らざるを得ない。学校の授業時間数では全く足りない。英語の学習はどのような方法をとるのであれ、家で毎日の自習が必要だ。学校の授業は自習をする動機付け、モチベーションアップにつながるようなものであるのがベストだと思うのだ。せっかくの時間を子供のお遊びのような会話の授業で浪費するのは、まったく無駄である。
政府が掲げる「グローバル人材育成戦略」に沿って大学の授業も変わることになる。英語以外の授業も英語で講義を行うようにするようになっているそうだ。ところが、実際に行われているのは海外である程度の経験を積んだ日本人の教師による英語での講義なのだという。著者はこれを「和製グローバル人材育成」だと批判している。こうなってしまったのは、予算を削減した結果の英語ネイティブ教員不足のためだ。その結果、掲げた大きな目標とはかけ離れた表面的な改革にどどまっているそうだ。
第3章から「大学入学共通テスト」の問題が指摘される。まず、最大の問題がセンター試験を廃止した後に行われる「民間試験」の導入だ。試験業者は複数あるが、どれをとってみても高校までの授業内容に沿って作られた英語試験ではない。TOEFLは留学生向けの試験であるし、TOEICはビジネス英語の能力を測るための試験だ。その他の試験も大学入試のために作られた試験ではない。
また、検定料は自己負担。親への経済的負担がかかる。そして民間の試験業者により年間の実施回数がまちまち、試験会場が少ない業者があるため、受験生が住んでいる地域から遠すぎるケースがでてくる。つまり受験生にとって極めて不公平、不公正な状況が生じるのだ。
本書刊行後の話
本書が刊行されて以降、今日までに次のようなニュースがあった。
- 記述式問題を含め答案の採点を民間業者が採用する大学生アルバイトが行うことがわかった。(まとめページ)
- 東大と京大が民間英語試験を使わないことを表明した。(ニュース記事)
- TOEICが英語民間試験から撤退することを発表した。(解説記事)
- 英語民間試験にはケンブリッジ英検、英検CBTとS-CBT(新型英検)、GTEC、IELTS 、TEAP 、TEAP CBT、TOEFL iBTの7つが使われることになる。(ニュース記事)
- 全国高校長協会が英語民間検定試験の不安解消求め要望書を提出した。(ニュース記事)
- 民間英語試験の利用は中止すべき…大学教授ら請願。(ニュース記事)
最大の被害者は高校生、受験生である。SNS上でも英語民間試験に反対する人のツイートが目立っている。これに対する柴山文部科学大臣(@shiba_masa)は8月16日に「サイレントマジョリティは賛成です。」というツイートをされた。(ツイートを開く)これはつまり「物言わぬ大多数の人は英語民間試験に賛成である。」という意味で、批判にはまったく耳を貸すつもりはないということだ。
来年から実施されるにもかかわらず詳細はまだ決まっていないため、高校や受験生、現場の教師たちは大混乱している。英語民間試験が行われるようになると、高校の授業もそれを意識して授業内容が大きく歪められることになる。
ちなみに英検で受験する場合、予約開始は来月だ。見切り発車であることは明らかだ。同種の試験を2回受けても、1回ずつ違う試験を受けてもよいのだという。どのようにしたら公平性を保てるのか、さっぱりわからない。
拡大
最新の情報は、以下のタグでツイート検索していただきたい。またKIT Speakee Project(@KITspeakee)によるツイートは、情報が整理されていて読みやすい。
ツイッター検索: #英語民間試験 #民間英語試験 #英語民間試験いらない #大学入試共通テスト #大学入学共通テスト
おわりに
この国の英語の入学試験と英語教育が破壊されようとしている。小中高のお子さんや受験生をもつ方や教育関係者でないと教育問題には関心をもたないのかもしれない。そして教育関係者だとしても英語以外を担当している先生には関心がない問題なのかもしれない。けれども、教育は将来の日本の社会、方向を決めるとても大切な問題だ。ぜひ関心をもってほしい。
本書の「第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して」で鳥飼先生は、英語教育はどうあるべきかというご自身のお考えを専門家らしい知見で紹介している。ここでは伏せておくので、気になる方は本書をお読みいただきたい。しかし、差し当たりは現在直面している問題の解決に全力を尽くすべきだと僕は思った。
次の3つの動画は、とても参考になる。ぜひご覧いただきたい。
英語公用語 ひろゆき 鳥飼玖美子
#001-2 「国際共通語としての英語」 鳥飼玖美子教授 講演会(30分ダイジェスト版)
(5分ダイジェスト版)
鳥飼玖美子氏 記念講演「AFSの100年:留学から異文化理解へ」
本書に書かれているのは1970年代以降の英語教育史である。その根っこはどうなっているのか、時代を遡って英語教育の歴史を知りたくなった。8月ということもあり戦争関係の番組を見聞きすることが多い。これは英語教育、英語以外の外国語教育の視点から、幕末以降の日本の近代史・現代史を紹介する本だ。次はこれを読むことにした。
「英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄」(Kindle版)(紹介記事)
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2019年8月27日に追記:
鳥飼玖美子先生の他6名による本がKindleで緊急出版された。300円である。
事態は急を要するということだろう。
「間違いだらけの英語学習(Kindle版)」
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2019年10月18日に追記:
鳥飼先生はNHKの「視点・論点」に出演され、英語民間試験導入の問題点を解説された。以下のページで全文をお読みいただける。
「大学入学共通テスト 英語民間試験導入を考える」(視点・論点)
2019年10月16日 (水)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/414086.html
関連記事:
英語の授業は英語で - 新学習指導要領案
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f40af01f96de42d43000248e8b310478
次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89d69b96a16b12ec3901564f09785874
英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f6ec131cc401ec90fb390a62bed94456
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「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」(Kindle版)
まえがき
序章 英語教育は今、どうなっているのか?
- 「コミュニケーションに使える」英語教育への大変身
- 「英語は英語で」教えよう
- 「英語で授業」のDVD
- 大学入学者の英語力低下
- 小学校英語の導入
- 民間英語試験の導入
第1章 英語教育「改革」史
- 見果てぬ夢を追って
文科省は慢性改革病
英語教育改革の内なる蹉跌
- 英語教育改革の歩み
平泉・渡部論争
「平泉・渡部論争」の社会的意義
臨時教育審議会
1989年学習指導要領改訂
「「英語が使える日本人」育成のための行動計画」
- 「グローバル人材育成戦略」
「グローバル人材育成」のための英語教育
国をあげての危機感
文科省「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」(2013)
「スーパーグローバル大学創成支援事業」
和製グローバル人材育成
表面的な改革
「専門の講義を英語で」という陥穽
第2章 2020年からの英語教育―新学習指導要領を検証する
- 新学習指導要領とはどんな内容か?
「学習指導要領」とは何?
2020年からの新学習指導要領--全体の方針
「思考力・判断力・表現力」
「学びに向かう力」
「これからの時代に求められる資質・能力」
- 新学習指導要領に見る英語教育
小学校での英語教育
「目標」
何を育成するのか
高度な小学校英語
- 新学習指導要領の課題
実施にあたっての課題
「英語の授業は英語で」の是非
「英語で授業」の何が問題か
「英語で英語を教える」のは時代遅れ
「音声指導をどうするのか」
教員養成と教員研修のあり方
習得語彙の大幅な増加
複言語主義の理念なくCEFRを部分的に導入
理念なきCEFR導入の問題点
「やり取り」(interaction)という技能の追加
- その他の事柄
国語教育との連携
文法はコミュニケーションを支える
発音記号
筆記体
新学習指導要領から、その後へ
第3章 大学入試はどうなるのか?―民間試験導入の問題点
- 変わるセンター試験
「大学入学共通テスト」に民間試験!?
現実を把握せず論評するメディア報道
- なぜ民間試験は問題か
民間検定試験は目的が違う
目的基準テストと集団基準テストの違い
検定料の負担がかかる
高校英語教育は検定試験を目的とする受験勉強になる
大学での現状は数値で測定できない
第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して
- コミュニケーションとは何か
「コミュニケーションに使える英語」
学習指導要領に見る「コミュニケーション」
文化とコミュニケーション
- コミュニケーション能力と異文化能力
「コミュニケーション能力」の四要素
「コミュニケーション能力」と「異文化能力」
ベネットとディアドーフのモデル
「異なる文化を理解する」は可能か
グローバル都市ロンドンと寛容性
- 異文化コミュニケーションと協同学習
異文化コミュニケーションと国際共通語としての英語
これからの英語教育への試案
「内容中心の指導法」
「内容と言語統合学習」
4つのC
自律性と共同学習
共同学習と能力別クラス
今後の課題
あとがき
参考文献
内容紹介:
センター試験廃止で「民間試験」導入、小学校英語、グローバル人材育成戦略……
2020年、この国の英語教育はどうなる?
子供たちの未来を左右する2020年施行の新学習指導要領からは、この国の英語教育改悪の深刻さが見てとれる。たとえば、中学校・高校では「英語は英語で教えなければならない」という無茶なルールを作り、小学校で「英語」は教科としてスタートするのに、きちんとした教師のあてはない。また学習指導要領以外にも、2020年度からは現在の「センター試験」は廃止されて、どれも入試として問題含みの「民間試験」を導入するという。どうして、ここまで理不尽なことばかりなのか?第一人者が問題点を検証し、英語教育を問いなおす。
2018年1月10日刊行、220ページ。
著者について:
鳥飼玖美子(とりかい くみこ): ウィキペディアの記事
東京都生まれ。立教大学名誉教授。上智大学外国語学部卒業、コロンビア大学大学院修士課程修了、サウサンプトン大学大学院博士課程修了(Ph. D.)。NHK「ニュースで英会話」監修およびテレビ講師。著書に『英語教育論争から考える』『戦後史の中の英語と私』『通訳者と戦後日米外交』(みすず書房)、『危うし! 小学校英語』(文春新書)、『歴史をかえた誤訳』(新潮文庫)、『国際共通語としての英語』『本物の英語力』『話すための英語力』(講談社現代新書)などがある。現在、NHK Eテレの『世界へ発信!SNS英語術』という番組に出演中。Twitter: @nhk_snsenglish
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10年ほど前に「英語の授業は英語で - 新学習指導要領案」という記事を書いたことがある。このとき発表された新学習指導要領では、小学校5、6年生から英語を教えるだけでなく、中学と高校では英語だけを使う英会話の授業を始めるということだった。「そんな無茶な!」という気持で書いたのがこの記事だった。すでにこの方針で授業が行われ始めてずいぶん経つわけである。その後どうなったのだろうと気になっていた。
また、今年になってから気になっているのは2020年から行われる大学入試制度が問題だらけだということ。数学に関しては「次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと」という記事を書いたことがある。特にいまニュースやSNSで話題になっているのは大学入学共通テストの英語の試験についてだ。センター試験が廃止され、この新しい試験制度が来年から施行されようとしている。
本書はこの大学入学共通テストの英語に関して、そして日本の英語教育の現状に非常な危機意識をもっている鳥飼玖美子先生が昨年初めにお書きになった本だ。鳥飼先生は英語教育の第一人者として知られているが、もともとは有名な同時通訳者である。僕は受験生の頃から大学時代にかけて文化放送の「百万人の英語」というラジオ番組で先生の授業を聞いていた。他にはこの番組で鳥飼先生のほか、國弘正雄先生とJ・B・ハリス先生の授業を聞いていた。(「百万人の英語」の録音を検索)
「まえがき」と章立て
本書の「まえがき」で鳥飼先生は次のようにお書きになっている。少し長いが引用しておこう。
「英語教育改革がここまで来てしまったら、どうしようもない。もう英語教育について書くのはやめよう、と本気で思った。それなのに書いたのがこの本である。
英語教育についての書を何冊も刊行し、あちこちの講演で語ってきて、もうやめよう、と思うようになったのは、英語についての思い込みの岩盤は突き崩せないと悟り、諦めの境地に達したからである。
どんなに頑張って書いても話しても、人々の思い込みは強固である。曰く「グローバル時代だから英語を使えなければ」「でも日本人は、英語の読み書きは出来ても話せない」「文法訳読ばかりやっている学校が悪い」「だから、英語教育は会話中心に変えなければ」という信条を多くの人たちが共有している。
そうではない、英語をコミュニケーションに使うというのは、会話ができれば良いというものではない、しかも今の学校は文法訳読でなく会話重視で、だからこそ読み書きの力が衰えて英語力が下がっている、といくら説明しても、岩盤のような思い込みは揺るがない。政界、財界、マスコミ、そして一般世論は、ビクともしない。
結果として的外れの英語教育改革が繰り返され、行きついた先は、教える人材の確保も不十分なまま見切り発車する小学校での英語教育であり、大学入試改革と称する民間英語試験の導入である。ここまで来てしまったら打つ手はない。英語教育について書いたり話したりは無駄な努力だと考えざるをえなかった。
それでも、何とか気力を奮い立たせて本書を書いた。この危機的状況にあって、言うべきことは言っておこうと考え直したからである。英語教育における改革は不断に必要だが、それには英語教育の実態や改革の成果などを十分に検証した上で議論を尽くすべきであろう。皆さんにも英語教育の課題を知っていただき考えていただくほかはないと考えるに至り、現状分析と批判を提示し私なりの代案も示した。
一般読者にはなじみがない新学習指導要領をあえて取り上げたのは、学校の先生たちは、このような指針に沿って英語を教えることになるのだ、と知っていただきたいからである。英語教育の専門家であっても、これほどの英語を教えるにはどうしたら良いだろうと悩むような内容が記載されている。英語教員の心中を察して余りある。
学習指導要領では「批判的思考」の育成を掲げているが、学校現場では、文科省や教育委員会には逆らえないと感じている教員が多いし、学習指導要領を批判することに否定的な感情を抱く英語教員もいて、疑問や不安の声はなかなか表に出ない。しかし、肝心の教師が批判を避けていると現場の声が伝わらず、教育は良くならない。
被害を受けるのは生徒たちである。特に可哀想なのが小学生である。何も分からない子供たちが、あまり自信のない先生から中学レベルの英語を習う。嫌いにならなければ誠に幸いであるが、中学に進む頃には英語嫌いになっている児童が今より増える懸念がある。ゆとり教育のように、始まった途端から軌道修正を余技なくされることになるかもしれないが、一人の子供にとっては間に合わない。その子が受ける英語教育は、たった一回きりなのである。救いようのない気持ちにならざるをえない。何とかしなければ、と本書を書きながら思い続けた。
英語教育の問題は、実は日本の将来に関わることであり、未来を担う世代をどう育てるかの問題である。先が見通せない不確実な時代、これまでにもまして多様性に満ちた世界に生きることになる世代を、どのように育てるのか、皆で考えていただきたい、というのが本書に託した私の願いである。」
そして章立てはこのとおり。
序章 英語教育は今、どうなっているのか?
第1章 英語教育「改革」史
第2章 2020年からの英語教育―新学習指導要領を検証する
第3章 大学入試はどうなるのか?―民間試験導入の問題点
第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して
感想と解説
僕が中学で英語を学び始めたのは1975年。世代的には「読み書きと文法しか習わなかった」ことになるが、幸い中学2年のときに出会った同級生のおかげで、英語好きになりラジオ講座に集中して、高校生の頃には日常英会話は自由にできるようになった。つまり英語は独学でマスターし、その後も仕事を通じて学び続けたからビジネス英語は問題なしというレベルになった。
僕の勉強法はとにかく教科書や教材の丸暗記、オウムのように喋ること、そしてディクテーションである。それを繰り返しているうちに喋れるようになった。またNHKで放送されている外国語学習の放送も継続的に活用していた。(英語学習のためのページを開く)鳥飼先生は現在、NHK Eテレの『世界へ発信!SNS英語術』という番組に出演中である。Twitter: @nhk_snsenglish
しかし、たいていの大人は僕と同様「読み書きと文法だけの授業」を受けた世代だから、日本の英語教育では英語は話せない、会話重視にすべきだと信じ込んでいるのだと思う。
そして、実際に会話重視の授業が行われてきた結果が惨憺たるものであることを知らない。会話力は身に付かず、逆に読み書きの能力が低下してしまったのだ。基礎的な英語力が身についておらず、英文科、英語学科なのに原書を読めない学生が入学してくるため、中学レベルの英語から教えなおす授業を行っている大学すらあるという。
問題の本質は根深いことが本書を読んで理解できた。学習指導要領はおよそ10年ごとに改正されるのだが、過去10年の結果に関する検証や行われておらず、十分な議論もなされないまま、新たな方針が思いつきのように打ち出され施行されていく。これを何度も繰り返しているのだという。これが「序章 英語教育は今、どうなっているのか?」と「第1章 英語教育「改革」史」に書かれていることだ。そして省庁間や省内での定期的な人事異動によって、せっか議論をしたとしても引き継がれないという状況がある。
今回の改正では現在小学校高学年の児童に対して行われているた授業を中学年で行い、中学レベルの英語を高学年で教えることになるという。学習指導要領には1980年代から一貫して「読み、書き、リスニング、会話」の4技能による総合的コミュニケーションの育成が重要だと書かれているが、実際には会話重視に偏重しているという。
また、文部科学省は「コミュニケーションを行う目的・場面・状況などに応じて理解したり伝え合ったりする能力を育成する」という目標を掲げて会話の授業をするよう指導している。その方針に従い中学校で会話の授業は日本人の先生によって行われている。熱心でやる気のある先生もいれば、上手にできなくて苦心惨憺の先生もいる。
しかし、その内容は小学生の「買い物ごっこ」を英語でやっているだけだ。中学3年生の教室内で繰り広げられているのは「魚屋さん」「八百屋さん」「花屋さん」などの店を設定して行うやり取りだ。そこでは「ハウマッチ?」「ワオー!」「チープ、チープ、プリーズ」などのブロークン英語が行き交い、文部科学省が目標に掲げる「英語文化で規範となる話し方の規則を学び、適切に英語を使いコミュニケーションを図る能力」とは程遠い。
僕個人の考えを言えば、文法や単語の知識なしに英会話や英語学習はあり得ないと思う。日本語と英語の文法が大きくかけ離れているわけだから文法の学習は重要だ。生活に必要な単語数はどうしたって暗記に頼らざるを得ない。学校の授業時間数では全く足りない。英語の学習はどのような方法をとるのであれ、家で毎日の自習が必要だ。学校の授業は自習をする動機付け、モチベーションアップにつながるようなものであるのがベストだと思うのだ。せっかくの時間を子供のお遊びのような会話の授業で浪費するのは、まったく無駄である。
政府が掲げる「グローバル人材育成戦略」に沿って大学の授業も変わることになる。英語以外の授業も英語で講義を行うようにするようになっているそうだ。ところが、実際に行われているのは海外である程度の経験を積んだ日本人の教師による英語での講義なのだという。著者はこれを「和製グローバル人材育成」だと批判している。こうなってしまったのは、予算を削減した結果の英語ネイティブ教員不足のためだ。その結果、掲げた大きな目標とはかけ離れた表面的な改革にどどまっているそうだ。
第3章から「大学入学共通テスト」の問題が指摘される。まず、最大の問題がセンター試験を廃止した後に行われる「民間試験」の導入だ。試験業者は複数あるが、どれをとってみても高校までの授業内容に沿って作られた英語試験ではない。TOEFLは留学生向けの試験であるし、TOEICはビジネス英語の能力を測るための試験だ。その他の試験も大学入試のために作られた試験ではない。
また、検定料は自己負担。親への経済的負担がかかる。そして民間の試験業者により年間の実施回数がまちまち、試験会場が少ない業者があるため、受験生が住んでいる地域から遠すぎるケースがでてくる。つまり受験生にとって極めて不公平、不公正な状況が生じるのだ。
本書刊行後の話
本書が刊行されて以降、今日までに次のようなニュースがあった。
- 記述式問題を含め答案の採点を民間業者が採用する大学生アルバイトが行うことがわかった。(まとめページ)
- 東大と京大が民間英語試験を使わないことを表明した。(ニュース記事)
- TOEICが英語民間試験から撤退することを発表した。(解説記事)
- 英語民間試験にはケンブリッジ英検、英検CBTとS-CBT(新型英検)、GTEC、IELTS 、TEAP 、TEAP CBT、TOEFL iBTの7つが使われることになる。(ニュース記事)
- 全国高校長協会が英語民間検定試験の不安解消求め要望書を提出した。(ニュース記事)
- 民間英語試験の利用は中止すべき…大学教授ら請願。(ニュース記事)
最大の被害者は高校生、受験生である。SNS上でも英語民間試験に反対する人のツイートが目立っている。これに対する柴山文部科学大臣(@shiba_masa)は8月16日に「サイレントマジョリティは賛成です。」というツイートをされた。(ツイートを開く)これはつまり「物言わぬ大多数の人は英語民間試験に賛成である。」という意味で、批判にはまったく耳を貸すつもりはないということだ。
来年から実施されるにもかかわらず詳細はまだ決まっていないため、高校や受験生、現場の教師たちは大混乱している。英語民間試験が行われるようになると、高校の授業もそれを意識して授業内容が大きく歪められることになる。
ちなみに英検で受験する場合、予約開始は来月だ。見切り発車であることは明らかだ。同種の試験を2回受けても、1回ずつ違う試験を受けてもよいのだという。どのようにしたら公平性を保てるのか、さっぱりわからない。
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最新の情報は、以下のタグでツイート検索していただきたい。またKIT Speakee Project(@KITspeakee)によるツイートは、情報が整理されていて読みやすい。
ツイッター検索: #英語民間試験 #民間英語試験 #英語民間試験いらない #大学入試共通テスト #大学入学共通テスト
おわりに
この国の英語の入学試験と英語教育が破壊されようとしている。小中高のお子さんや受験生をもつ方や教育関係者でないと教育問題には関心をもたないのかもしれない。そして教育関係者だとしても英語以外を担当している先生には関心がない問題なのかもしれない。けれども、教育は将来の日本の社会、方向を決めるとても大切な問題だ。ぜひ関心をもってほしい。
本書の「第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して」で鳥飼先生は、英語教育はどうあるべきかというご自身のお考えを専門家らしい知見で紹介している。ここでは伏せておくので、気になる方は本書をお読みいただきたい。しかし、差し当たりは現在直面している問題の解決に全力を尽くすべきだと僕は思った。
次の3つの動画は、とても参考になる。ぜひご覧いただきたい。
英語公用語 ひろゆき 鳥飼玖美子
#001-2 「国際共通語としての英語」 鳥飼玖美子教授 講演会(30分ダイジェスト版)
(5分ダイジェスト版)
鳥飼玖美子氏 記念講演「AFSの100年:留学から異文化理解へ」
本書に書かれているのは1970年代以降の英語教育史である。その根っこはどうなっているのか、時代を遡って英語教育の歴史を知りたくなった。8月ということもあり戦争関係の番組を見聞きすることが多い。これは英語教育、英語以外の外国語教育の視点から、幕末以降の日本の近代史・現代史を紹介する本だ。次はこれを読むことにした。
「英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄」(Kindle版)(紹介記事)
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2019年8月27日に追記:
鳥飼玖美子先生の他6名による本がKindleで緊急出版された。300円である。
事態は急を要するということだろう。
「間違いだらけの英語学習(Kindle版)」
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2019年10月18日に追記:
鳥飼先生はNHKの「視点・論点」に出演され、英語民間試験導入の問題点を解説された。以下のページで全文をお読みいただける。
「大学入学共通テスト 英語民間試験導入を考える」(視点・論点)
2019年10月16日 (水)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/414086.html
関連記事:
英語の授業は英語で - 新学習指導要領案
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f40af01f96de42d43000248e8b310478
次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89d69b96a16b12ec3901564f09785874
英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f6ec131cc401ec90fb390a62bed94456
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「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」(Kindle版)
まえがき
序章 英語教育は今、どうなっているのか?
- 「コミュニケーションに使える」英語教育への大変身
- 「英語は英語で」教えよう
- 「英語で授業」のDVD
- 大学入学者の英語力低下
- 小学校英語の導入
- 民間英語試験の導入
第1章 英語教育「改革」史
- 見果てぬ夢を追って
文科省は慢性改革病
英語教育改革の内なる蹉跌
- 英語教育改革の歩み
平泉・渡部論争
「平泉・渡部論争」の社会的意義
臨時教育審議会
1989年学習指導要領改訂
「「英語が使える日本人」育成のための行動計画」
- 「グローバル人材育成戦略」
「グローバル人材育成」のための英語教育
国をあげての危機感
文科省「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」(2013)
「スーパーグローバル大学創成支援事業」
和製グローバル人材育成
表面的な改革
「専門の講義を英語で」という陥穽
第2章 2020年からの英語教育―新学習指導要領を検証する
- 新学習指導要領とはどんな内容か?
「学習指導要領」とは何?
2020年からの新学習指導要領--全体の方針
「思考力・判断力・表現力」
「学びに向かう力」
「これからの時代に求められる資質・能力」
- 新学習指導要領に見る英語教育
小学校での英語教育
「目標」
何を育成するのか
高度な小学校英語
- 新学習指導要領の課題
実施にあたっての課題
「英語の授業は英語で」の是非
「英語で授業」の何が問題か
「英語で英語を教える」のは時代遅れ
「音声指導をどうするのか」
教員養成と教員研修のあり方
習得語彙の大幅な増加
複言語主義の理念なくCEFRを部分的に導入
理念なきCEFR導入の問題点
「やり取り」(interaction)という技能の追加
- その他の事柄
国語教育との連携
文法はコミュニケーションを支える
発音記号
筆記体
新学習指導要領から、その後へ
第3章 大学入試はどうなるのか?―民間試験導入の問題点
- 変わるセンター試験
「大学入学共通テスト」に民間試験!?
現実を把握せず論評するメディア報道
- なぜ民間試験は問題か
民間検定試験は目的が違う
目的基準テストと集団基準テストの違い
検定料の負担がかかる
高校英語教育は検定試験を目的とする受験勉強になる
大学での現状は数値で測定できない
第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して
- コミュニケーションとは何か
「コミュニケーションに使える英語」
学習指導要領に見る「コミュニケーション」
文化とコミュニケーション
- コミュニケーション能力と異文化能力
「コミュニケーション能力」の四要素
「コミュニケーション能力」と「異文化能力」
ベネットとディアドーフのモデル
「異なる文化を理解する」は可能か
グローバル都市ロンドンと寛容性
- 異文化コミュニケーションと協同学習
異文化コミュニケーションと国際共通語としての英語
これからの英語教育への試案
「内容中心の指導法」
「内容と言語統合学習」
4つのC
自律性と共同学習
共同学習と能力別クラス
今後の課題
あとがき
参考文献
思い出してみると英語教育も昔から問題視されてたから、これも当然だった!
すると、国語社会も同じわけだ。スゴイ国としか言えません。
そうなのですよ。まったくひどいことになっています。理数系教科以外の教育問題は、たまにしか確認しないので、今回は唖然としました。
調査をしないのは英語力が数値化、データ化できないのではなく、単なる怠慢だと思います。あるいは過去の方針決定を誤りだという結果が出ると都合が悪いから調査すらしないのかもしれません。
新共通テストでは英語や数学だけでなく、国語や社会科、理科なども記述式の答案を大学生アルバイトが採点するという話も聞きました。いいかげんに採点する学生もいるでしょうし、大学教師でさえ判断に迷うほど専門的知識が要求される採点作業を学生バイトにやらせるのは無茶苦茶ですね。
英語教育の危機を訴えておられるのですか。入試制度変更は受験生の側も大変そうです。
日本は高等教育が殆ど母国語で受けられ、外国の書物も翻訳書が出ていることが多いので、外国語で学ばなくても済むというある意味で恵まれた環境にある様です。一方、海外の多くの国は、大学の講義も参考書も自国語でなく英語で学ぶことが多いので英語が上達するとも聞かれます。
全く違う観方になりますが、将来は(もう今でも)機械翻訳・機械通訳が進んでくる時代になります。必ずしも多くの日本人が英語堪能を目指さなくても良い様にも思うのですが・・・。
鳥飼先生は今もNHKの番組に出演されているのですね。NHKのサイトを調べて記事本文に追記しておきました。教えていただき、ありがとうございます。
おっしゃるとおり、日本では専門の勉強はほとんど翻訳書やもともと日本語で書かれた本で間に合ってしまいます。英語で出版されたばかりの本や、翻訳されない本を読む必要があるとき以外は、英語読解力がなくてもすんでしまいますね。ただし、科学者、研究者になるのであれば論文は英語で書かなければなりませんから英語学習は必須です。
ただし、一般のほとんどの日本人、海外の事情に関心がない人は、英語と無縁でも人生を終えることが可能です。義務教育で英語が必須になったのは、終戦後のGHQによる指導によること、戦後すぐアメリカの豊かな生活にあこがれて英語の学習が大ブームになったことがあると思います。1947年にNHKで始まったラジオ英会話の番組は「カムカム英語」と呼ばれて大人気だったそうです。
カムカムエヴリボディ [平川唯一、坂田真理子]
https://www.youtube.com/watch?v=E7CCXhRyACc
> 将来は(もう今でも)機械翻訳・機械通訳が進んでくる時代になります。必ずしも多くの日本人が英語堪能を目指さなくても良い様にも思うのですが
そうですね。翻訳が難しい表現、込み入った文章でなければ、機械翻訳・機械通訳だけですんでしまいそうです。
使えるのは検証済みの定型文だけです。
日本では日本語で間に合ってしまうため、教育に関しても外からの批判が届きにくく身内だけの理屈でバカをやるのが止まらないんでしょう。
教育以外でも今西進化論とか地震予知とか日本でしか通用しないモノが色々ありましたね。
ますます英語教育が必要ですが、英語が論文発表に必要と言っても現実は日本人にしか通じない英語ではないかという疑いが捨てきれません。
日本人が先に発見したはずのものが全然認められてないのは、そもそも通じてないんじゃないかと思ってます。
僕はもともと機械翻訳ソフトを開発するプログラマーでした。1987年から1988年にかけてのことです。当時は構文解析して単語を置き換えるだけのものでしたが、現在のGoogle翻訳をみても「ほんの少しマシになった程度」だと判断しています。現在の翻訳精度は「トラベル英会話」を翻訳できるのが限度だと思っています。今後20年たっても同じ状況でしょうね。「使えるのは検証済みの定型文だけです。」というお考えに賛成です。もう少し精度を上げるためにはプレエディット、つまり翻訳前の文章を機械翻訳向きに手直しする作業が欠かせません。
> 日本では日本語で間に合ってしまうため、教育に関しても外からの批判が届きにくく身内だけの理屈でバカをやるのが止まらないんでしょう。
おっしゃるとおりだと思います。そして議論している当人たちは英語が上手ではないのだと思います。
> 教育以外でも今西進化論とか地震予知とか日本でしか通用しないモノが色々ありましたね。
今西進化論というのは知りませんでしたが、ウィキペディアを読んで理解しました。今西進化論も地震予知もおっしゃるとおりだと思います。
> ますます英語教育が必要ですが、英語が論文発表に必要と言っても現実は日本人にしか通じない英語ではないかという疑いが捨てきれません。
外国人に通用する論文が書ける人は研究者のうち一握りだと思います。
> 日本人が先に発見したはずのものが全然認められてないのは、そもそも通じてないんじゃないかと思ってます。
そうかもしれませんね。日本人はその意味を含めて「発信力」が断然弱いです。今はインターネット時代になったのに、実にもったいないことです。
原文:The success of the wireless revolution is visible in the number of devices we use every day: smartphones, tablets, e-readers, GPS units, wearable patient monitors, heart-rate monitors, and many more. Some attribute this success to the long-awaited convergence of highly integrated technology, wide bandwidths, application rich content, and attractive pricing.
2016年11月のGoogle翻訳
スマートフォン、タブレット、eリーダー、GPSユニット、着用可能な患者モニター、心拍モニターなど、私たちが毎日使っているデバイスの数は、ワイヤレス革命の成功を目の当たりにしています。 この成功は、高度に統合された技術、広帯域幅、アプリケーション豊富なコンテンツ、そして魅力的な価格設定が待望のコンバージェンスにあると考えています。
2016年11月の市販の機械翻訳ソフト
無線革命の成功は、我々が毎日使う装置の数で見えます:多機能電話、タブレット、電子書籍端末、GPS単位、着用できる患者モニター、心拍数モニターとより多く。いくつかは、この成功の原因を高度に統合されたテクノロジー、広い帯域幅、アプリケーションの豊富な内容と魅力的な価格設定の待望久しい収束にあると考えます。
2016年11月の会社のエース翻訳者
無線技術の進歩により、スマートフォン、タブレット、eリーダー、GPSユニット、着用型患者モニター、心拍数モニターなど、毎日使用する多くのデバイスに無線技術が使用されています。このように使用されるようになった要因として、長い間待ち望まれていた、高度に統合されたテクノロジー、広い帯域幅、アプリケーションの豊富なコンテンツ、魅力的な価格がすべて実現できたことが挙げられます。
現時点のGoogle翻訳
ワイヤレス革命の成功は、スマートフォン、タブレット、電子リーダー、GPSユニット、ウェアラブル患者モニター、心拍数モニターなど、毎日使用するデバイスの数に現れています。 この成功は、高度に統合されたテクノロジー、広い帯域幅、アプリケーションの豊富なコンテンツ、魅力的な価格設定の待望の収束に起因するものもあります。
Google翻訳もかなり進歩していると思うけどな。
コメントありがとうございます。翻訳の具体例を提示していただき、ありがとうございました。
おっしゃるとおりニューラルネットワークが導入されてからGoogle翻訳は劇的に品質が上がりました。例示していただいた文章のように説明文、製品マニュアルなど分野を限定した文章だと、実用上問題のないレベルに達しつつあると思います。
けれども、一般的に「翻訳が悪い」とか「機械翻訳はまだまだ使えない」というのは、映画やドラマの脚本、コピーライティング的要素が強い広告文など文法をある程度逸脱して書かれた文章に対して言われていることです。機械翻訳がこのレベルに達するのはかなり先の未来になると僕は考えています。
英語教育の現状、全くもって酷い話があるというのを初めて知りました。驚いています。
外国語、まあ英語に絞っても良いと思いますが、文学や文化論をやらない限り、単なるコミュニケーションツールなんだろうと思います。
私は英語や外国語学習が、嫌で嫌で、できるだけ避けるようにしてきましたが、嫌うと逆に追いかけられる...犬に追いかけられる感じで、気がついたらビジネス英語に困らないようになっていました。
英文法だけはきっちり勉強していたし、大学受験の前には、とにかく英文を覚えまくりました。
大学の専門課程では、専門の有機化学の教科書がアメリカの教科書で、さらに訳本がないものだったので、苦労しましたが、おかげで科学技術の英語への敷居がとても低くなりました。
文法の大切さは実感しています。それ以上に話すべき内容をしっかりと持っていないと、英語でのコミュニケーションはうまくいきませんよね。
上っ滑りの旅行・買い物英語だと、馬鹿にされるだけです。
きちんと読み書きができないと、大人の英語を話すのは難しいと思います。
我が社は海外の会社との英語での技術的内容のやりとりが多いのですが、仕事を始めて英語コミュニケションが上達する人は、偏差値の高い大学出身だというのが経験的に分かっています。
きちんと読み書きの英語を勉強していると、ビジネス英語や技術英語は覚えるのが速いということです。
私ごときでも分かることが、分からない人達は英語を活用する現場を全く知らないということでしょうね。
そんな役人の集まりである文科省はもういらないと思います。
やすさんがこの問題をご存知なかったとすると、やはり一般市民の認知度は低いのですね。困ったものです。
やすさんは英語や外国語学習から逃げていた時期があったのですね。なんだか可笑しいです。
この記事を投稿して以降、埼玉県の知事選に応援演説に来ていた文部科学大臣の演説でトラブルがあり、朝日新聞やAERAで報じられています。また、明日金曜日には閣議後に文部科学大臣の記者会見があるそうです。
そして、明日の夜には文部科学省の前で抗議が行われるそうです。どうなるのかわかりませんが、ツイッターを通じてこの問題を引き続き見守ることにします。
https://twitter.com/tqc_4/status/1167033746345713664
【拡散希望】
#0830文科省前抗議
日時
8/30(金)19時〜
場所
文部科学省前
受験制度改悪が杜撰なままに進む中、柴山文科相に直接抗議した学生が拘束され、しかも文科相は開き直る。
猛抗議します。
高校の先生、制度改悪に反対しロビーを行う関係者、憲法学の教授にもスピーチしてもらいます。