![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/4d/5beea4747c183eb28aa2fb48d053af95.jpg)
第16章:相対論的エネルギーと運動量
この章の冒頭3ページでファインマン先生は哲学者を皮肉たっぷり馬鹿にしまくっている。その言いっぷりからみて先生みずからの体験なのだろう。
哲学者の言う「相対的」とは一般常識で言う相対的であって、アインシュタインの理論で使われている相対的とは似ていて全く異なるものであること、いくら説明しても哲学者は理解しないことを具体例で述べている。
けれどもそのように不毛な経験談で終わるのではない。言葉や思想だけで「相対的」を論じたり、数式を使って「相対的」を仮説として考えているだけではだめで、定量的に実験することによってのみその本当の意味がわかってくるのだということを述べて、哲学者批判を上手に締めくくっている。僕には少しだけ数学者批判も混じっているようにも読み取れた。
次にファインマン先生は「ふたごのパラドックス」を紹介する。後に説明するように地球上に残った「山彦」と宇宙船で地球から離れる「海彦」とでは時間の進行具合が異なってくる。特殊相対論の主張するところによれば「山彦に対して海彦の時間は遅れ、かつ海彦に対して山彦の時間も遅れる。」という不思議な現象が生じるはずなのだ。お互いの時間が遅れるというのは常識では考えられないことである。
この矛盾は速度を一定とした状況で思考実験したことによる。実際には宇宙船は加速度運動をして地球を飛び立ち、どこかで減速してから地球に戻ることになる。そのような条件で計算しなおすと矛盾は生じず「山彦のほうが海彦よりも早く年をとる」ことがわかるのだ。計算方法は特殊相対論の範囲を超えているので講義では述べられていない。
しかし山彦と海彦の位置関係が一定速度で移動している場合「お互いの時間が遅れる」というのは真実である。それは次の式に示されている。まず海彦の世界 K' を山彦の世界 K からの変換式で記述すると次のようになる。
![](http://img2.atwiki.com/_math/x%27%3D%5Cfrac%7Bx-ut%7D%7B%5Csqrt%7B1-u%5E%7B2%7D%252Fc%5E%7B2%7D%7D%7D%20%5C%5C%0D%0Ay%27%3Dy%20%5C%5C%0D%0Az%27%3Dz%20%5C%5C%0D%0At%27%3D%5Cfrac%7Bt-ux%252Fc%5E%7B2%7D%7D%7B%5Csqrt%7B1-u%5E%7B2%7D%252Fc%5E%7B2%7D%7D%7D.png)
ところが山彦の世界 K を海彦の世界 K' から見た場合の変換式はどうなっているかを考えると不思議なことに気がつかされる。この逆変換の式は簡単に求められ次のようになる。
![](http://img2.atwiki.com/_math/x%3D%5Cfrac%7Bx%27%252But%27%7D%7B%5Csqrt%7B1-u%5E%7B2%7D%252Fc%5E%7B2%7D%7D%7D%20%5C%5C%0D%0Ay%3Dy%27%20%5C%5C%0D%0Az%3Dz%27%20%5C%5C%0D%0At%3D%5Cfrac%7Bt%27%252Bux%27%252Fc%5E%7B2%7D%7D%7B%5Csqrt%7B1-u%5E%7B2%7D%252Fc%5E%7B2%7D%7D%7D.png)
一部プラスとマイナスの符号が違うだけで正変換と逆変換の式はほぼ同じ形をしている。符号が違う箇所はガリレイ変換でも同様なので特殊相対論にとって本質的な違いではない。
つまり山彦にとっても海彦にとっても自分から離れていくのは相手であり、両者の関係は完全に対等なのだ。つまり相手の時間は自分より遅れるということが山彦と海彦の双方について言えることをこの変換式は示している。
またこれらの式をそれぞれの時間 t や t' で微分することによってそれぞれの世界における「速度」が求められるが、それが光速度を超えることがないことや速度の加法が単純な足し算で求められないということを具体的な計算でファインマン先生は説明している。
余談だがこの「山彦」や「海彦」という変な名前は英語版では「ピーター(Peter)」と「ポール(Paul)」、フランス語版では「ピエール(Pierre)」と「ポール(Paul)」である。
次に紹介している「相対論的質量」の箇所の説明はとても興味深い。質量 m の物体二つが正面衝突して一緒になると質量の合計は 2m よりも大きくなるというのだ。このことを第15章で導入した相対論的運動量の保存則から明解に導いている。質量というものの正体がわかっていないにもかかわらず、物質の種類によらずこれが一般的に成り立つのだ。この箇所はぜひ実際のテキストでお読みになるとよい。
相対論的運動量とは次の式であらわされるベクトル量である。
![](http://img2.atwiki.com/_math/%7B%5Cbf%20p%7D%20%3D%20m%20%7B%5Cbf%20v%7D%20%3D%20%5Cfrac%7Bm_%7B0%7D%7B%5Cbf%20v%7D%7D%7B%5Csqrt%7B1-v%5E%7B2%7D%252Fc%5E%7B2%7D%7D%7D.png)
運動量が「相対論化」されるならエネルギーもそうだろうと思うのは自然な発想で実際に正しい推論だ。これについての詳細は次の章で述べられるのだが、運動量 P とエネルギー E の間に次のような美しい関係が成り立っていることを紹介してこの章は締めくくられている。次回に乞うご期待!というわけだ。
![](http://img2.atwiki.com/_math/E%5E%7B2%7D-P%5E%7B2%7Dc%5E%7B2%7D%3D%7BM_%7B0%7D%7D%5E%7B2%7Dc%5E%7B4%7D.png)
![](http://img2.atwiki.com/_math/Pc%5E%3D%5Cfrac%7BEv%7D%7Bc%7D.png)
なお、日本では8月6日と9日が近づいているので少し補足させていただく。質量 m の物体二つが正面衝突して一緒になると質量の合計は 2m よりも大きくなるということの逆過程、すなわち質量はエネルギーに変換し得ということをアインシュタインが発見したこというだけで彼が「原爆の父」であるとするのは正しくない。特殊相対性理論のこの部分を理解してわかるように、これがわかったからと言ってとても原子爆弾を作れるなどというものではない。それに彼自身はその開発や製造には全くたずさわっていない。原爆開発と投下の責任はそれを実行に移したマンハッタン計画であり、当時のアメリカ政府にある。
しかし、アインシュタインに全く責任がなかったとは言い切れない。原爆開発のきっかけを作ったのはアインシュタイン自身だった。1939年8月、彼は数名の科学者たちの代表として、アメリカ大統領ルーズヴェルトに原爆の製造を進言した。ドイツ系ユダヤ人である彼は、ヒトラーが政権を取った1933年にナチス・ドイツを逃れてアメリカに移住していたが、ユダヤ人迫害を進めるドイツが原爆開発に着手したとの情報に接し、強い危機感をいだいたのである。
原爆が広島と長崎に投下されたというニュースをアインシュタインは痛恨の思いで聞いた。その後、彼は残りの人生を平和運動に捧げたことは有名な話である。
ところで広島に落とされた原爆はウラン型で、長崎に落とされたのはプルトニウム型であること知っている人は少ないように思う。マンハッタン計画ではプルトニウム型の実験しか行われていなかった。詳細は1982年に放送されたNHK特集「私は日本のスパイだった──秘密諜報員ベラスコ」の第7章「広島原爆はナチス製だった」で読むことができる。僕自身はこの記事について自分の意見を述べるのを控えさせていただくが、このような説もあるのだということだけは紹介することにした。
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