「「集合と位相」をなぜ学ぶのか:藤田博司」(Kindle版)
内容紹介:
抽象的でわかりづらいと評判のよくない因果な科目「集合と位相」。
そもそもいったいなぜこんなことを学ぶの?
そんなあなたも本書を読めば「集合と位相」に刻まれた数学者たちの創意工夫、
そして数学の発展の過程がみるみる見えてきます!
2018年3月6日刊行、224ページ。
著者について:
藤田博司(ふじた ひろし)
1964年京都生まれ。 立命館大学理工学部卒。名古屋大学大学院理学研究科中退。 博士(学術)。
現在、 愛媛大学大学院理工学研究科特任講師。 専門は数学基礎論、 とくに集合論。
著書に『魅了する無限』(技術評論社、 2009年)、 訳書に『集合論-独立性証明への案内』
(ケネス・キューネン著、 日本評論社、 2008年)、 『キューネン数学基礎論講義』
(ケネス・キューネン著、 日本評論社、 2016年)がある。
理数系書籍のレビュー記事は本書で364冊目。
前回の紹介記事「素粒子論のランドスケープ2:大栗博司」と同様、こちらも「博司さん」がお書きになった本だ。これを言いたかったからこのタイミングで紹介したわけではない。たまたまである。
本書は #新入生に勧める数学書2018 というタグで僕を含め何人かの方がツイートしていた。
新学期が始まり、高校数学と大学数学のギャップに戸惑いを感じる新入生がでてくる頃だろう。1年次に学ぶ微積分や線形代数は想定の範囲だと思うが、集合論・位相を学ぶ意味を見出せず、学習意欲が落ちている学生はきっといるはず。また2年次の学生だと解析学で実数の連続性、ε-δ論法あたりで「もしかすると学部、学科選択を間違ってしまったかも。。。」と後悔している学生がいるかもしれない。
高校数学の基礎では実感や直観に照らして公式を理解・暗記し、応用問題では解法に慣れるための勉強していただろう。受験数学では問題のパターン別に、どれだけたくさんの解法を覚え、習熟することが求められていた。大学ではもっと複雑で高度な数学、抽象的で深淵な数学を学ぶのだと思っていたかもしれない。
実数や関数の連続性などは抽象的だと思えない、わかりきったことを、なぜこれほど細かくいくつも証明していかなければならないのか?モチベーション下がりまくり。そのような新入生に再びやる気をおこしてもらう本だ。高校数学と大学数学の橋渡しをしてくれる副読本。
大学数学をすでに一通り終えた方、本書の詳細目次を見ただけで何が書かれているかを想像できる人は、あえて本書を読む必要はない。しかし、そのような方でも楽しめ、自分が学生のときにこんな本があったらよかったなぁと、しみじみ感じるという読み方もできる。(もちろん僕は後者の人だ。)
僕は数学専攻だったから、本書に書かれている項目がシラバスにあったことを覚えているが、理学系の他の学科や工学部では何をどこまで深く学ぶのだろうと思い、シラバスを調べてみたくなった。
数学史や数学者の短い伝記を読みながら、現代数学が集合論や位相を起点にして、どのように構築されていったか、ブルバキの数学原論とは何か?数学の生の歴史として難しそうな概念や、考え方がどのように創られ、現代数学の発展を支えているかをおわかりいただけるだろう。
本書で解説される厳密な基礎づけの手法が、考え抜かれた末に得られたものであり、解析学をはじめ数学全体の構築、直観を裏切る状況をも含める形で一般化することに役に立っているとわかるのだ。可能な限りの一般化を目指した結果である。
各章で取り上げられているテーマは、それぞれ教科書1冊で学ぶべき内容だから本書で学べるのは一部分にすぎない。それぞれ教科書で網羅する形で学ぶのは自分の履修スケジュールに合わせ、導入的なことと、エッセンスをさしあたり本書で先取りしておくとよい。理工系の新入生にちょうどよいレベルで書かれている。
『数学ガイダンス201X』(数学セミナー増刊)は大学数学全体を俯瞰してみるのに良い本、本書はとりあえずもう一歩踏み込んで教科書や講義の背景を知っておくのによい本である。
章立てはこのとおり。
第1章 フーリエ級数と「任意の関数」
第2章 積分の再定義
第3章 実数直線と点集合
第4章 平面と直線は同じ大きさ?
第5章 やっぱり平面と直線は違う
第6章 ボレルの測度とルベーグの積分
第7章 集合と位相はこうして数学の共通語になった
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「「集合と位相」をなぜ学ぶのか:藤田博司」(Kindle版)
第1章 フーリエ級数と「任意の関数」
- フーリエの時代
- 熱伝導方程式とフーリエ級数
- フーリエ級数の実例
- フーリエ理論の問題点
第2章 積分の再定義
- 式としての関数:18世紀まで
- ディリクレの定理
- リーマン積分
- 積分可能性をめぐる混乱
第3章 実数直線と点集合
- 点集合
- 実数の連続性の3つの表現
- 実数は可算でない
第4章 平面と直線は同じ大きさ?
- 集合の用語と記号
- 集合とその濃度
- 数学の基礎としての集合論-デデキントの業績
- 直線と平面は同じ大きさ
第5章 やっぱり平面と直線は違う
- カントールの憂慮
- 平面の点集合、点列の収束とε-近傍
- 写像の連続性
- 内部と外部の境界
- 閉包
- 開集合と閉集合
- 位相同型写像と同相な点集合
- 連結性
- 平面と直線は同相ではない
- 位相ということば
第6章 ボレルの測度とルベーグの積分
- 新しい解析学
- 測度
- ハイネ-ボレルの定理
- ルベーグと測度の問題
- 可測関数とルベーグ積分
- ルベーグ積分の特長
- 測度と確率論
第7章 集合と位相はこうして数学の共通語になった
- ユークリッドと2000年間の難問
- 構造の研究としての数学
- まとめ:数学の共通語としての集合と位相
内容紹介:
抽象的でわかりづらいと評判のよくない因果な科目「集合と位相」。
そもそもいったいなぜこんなことを学ぶの?
そんなあなたも本書を読めば「集合と位相」に刻まれた数学者たちの創意工夫、
そして数学の発展の過程がみるみる見えてきます!
2018年3月6日刊行、224ページ。
著者について:
藤田博司(ふじた ひろし)
1964年京都生まれ。 立命館大学理工学部卒。名古屋大学大学院理学研究科中退。 博士(学術)。
現在、 愛媛大学大学院理工学研究科特任講師。 専門は数学基礎論、 とくに集合論。
著書に『魅了する無限』(技術評論社、 2009年)、 訳書に『集合論-独立性証明への案内』
(ケネス・キューネン著、 日本評論社、 2008年)、 『キューネン数学基礎論講義』
(ケネス・キューネン著、 日本評論社、 2016年)がある。
理数系書籍のレビュー記事は本書で364冊目。
前回の紹介記事「素粒子論のランドスケープ2:大栗博司」と同様、こちらも「博司さん」がお書きになった本だ。これを言いたかったからこのタイミングで紹介したわけではない。たまたまである。
本書は #新入生に勧める数学書2018 というタグで僕を含め何人かの方がツイートしていた。
新学期が始まり、高校数学と大学数学のギャップに戸惑いを感じる新入生がでてくる頃だろう。1年次に学ぶ微積分や線形代数は想定の範囲だと思うが、集合論・位相を学ぶ意味を見出せず、学習意欲が落ちている学生はきっといるはず。また2年次の学生だと解析学で実数の連続性、ε-δ論法あたりで「もしかすると学部、学科選択を間違ってしまったかも。。。」と後悔している学生がいるかもしれない。
高校数学の基礎では実感や直観に照らして公式を理解・暗記し、応用問題では解法に慣れるための勉強していただろう。受験数学では問題のパターン別に、どれだけたくさんの解法を覚え、習熟することが求められていた。大学ではもっと複雑で高度な数学、抽象的で深淵な数学を学ぶのだと思っていたかもしれない。
実数や関数の連続性などは抽象的だと思えない、わかりきったことを、なぜこれほど細かくいくつも証明していかなければならないのか?モチベーション下がりまくり。そのような新入生に再びやる気をおこしてもらう本だ。高校数学と大学数学の橋渡しをしてくれる副読本。
大学数学をすでに一通り終えた方、本書の詳細目次を見ただけで何が書かれているかを想像できる人は、あえて本書を読む必要はない。しかし、そのような方でも楽しめ、自分が学生のときにこんな本があったらよかったなぁと、しみじみ感じるという読み方もできる。(もちろん僕は後者の人だ。)
僕は数学専攻だったから、本書に書かれている項目がシラバスにあったことを覚えているが、理学系の他の学科や工学部では何をどこまで深く学ぶのだろうと思い、シラバスを調べてみたくなった。
数学史や数学者の短い伝記を読みながら、現代数学が集合論や位相を起点にして、どのように構築されていったか、ブルバキの数学原論とは何か?数学の生の歴史として難しそうな概念や、考え方がどのように創られ、現代数学の発展を支えているかをおわかりいただけるだろう。
本書で解説される厳密な基礎づけの手法が、考え抜かれた末に得られたものであり、解析学をはじめ数学全体の構築、直観を裏切る状況をも含める形で一般化することに役に立っているとわかるのだ。可能な限りの一般化を目指した結果である。
各章で取り上げられているテーマは、それぞれ教科書1冊で学ぶべき内容だから本書で学べるのは一部分にすぎない。それぞれ教科書で網羅する形で学ぶのは自分の履修スケジュールに合わせ、導入的なことと、エッセンスをさしあたり本書で先取りしておくとよい。理工系の新入生にちょうどよいレベルで書かれている。
『数学ガイダンス201X』(数学セミナー増刊)は大学数学全体を俯瞰してみるのに良い本、本書はとりあえずもう一歩踏み込んで教科書や講義の背景を知っておくのによい本である。
章立てはこのとおり。
第1章 フーリエ級数と「任意の関数」
第2章 積分の再定義
第3章 実数直線と点集合
第4章 平面と直線は同じ大きさ?
第5章 やっぱり平面と直線は違う
第6章 ボレルの測度とルベーグの積分
第7章 集合と位相はこうして数学の共通語になった
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「「集合と位相」をなぜ学ぶのか:藤田博司」(Kindle版)
第1章 フーリエ級数と「任意の関数」
- フーリエの時代
- 熱伝導方程式とフーリエ級数
- フーリエ級数の実例
- フーリエ理論の問題点
第2章 積分の再定義
- 式としての関数:18世紀まで
- ディリクレの定理
- リーマン積分
- 積分可能性をめぐる混乱
第3章 実数直線と点集合
- 点集合
- 実数の連続性の3つの表現
- 実数は可算でない
第4章 平面と直線は同じ大きさ?
- 集合の用語と記号
- 集合とその濃度
- 数学の基礎としての集合論-デデキントの業績
- 直線と平面は同じ大きさ
第5章 やっぱり平面と直線は違う
- カントールの憂慮
- 平面の点集合、点列の収束とε-近傍
- 写像の連続性
- 内部と外部の境界
- 閉包
- 開集合と閉集合
- 位相同型写像と同相な点集合
- 連結性
- 平面と直線は同相ではない
- 位相ということば
第6章 ボレルの測度とルベーグの積分
- 新しい解析学
- 測度
- ハイネ-ボレルの定理
- ルベーグと測度の問題
- 可測関数とルベーグ積分
- ルベーグ積分の特長
- 測度と確率論
第7章 集合と位相はこうして数学の共通語になった
- ユークリッドと2000年間の難問
- 構造の研究としての数学
- まとめ:数学の共通語としての集合と位相
この本を読もうと思っています。工学部出で、数学は解析学と代数学の一部しか履修していません。その他一部の分野は独学でした。位相というと分かり難いイメージがありました。ただ同書の目次をみると少しは馴染めるかとは思ったのですが、どうなるでしょうか。以上
抽象的な数学、一般化された形で記述された数学に慣れてない方が位相空間の教科書を読むと、面食らうと思いますが、この本だと集合論との関係がわかりますし、位相についての解説も「なぜそのように考えるのか?」を文章で解説しているので、すんなり頭に入ってくると思いますよ。
じっくり取り組んでみてください。
本文に書かれているε-δで数学の苦手意識ご芽生え、そのまま苦手科目へと転落してしまいました。一年生の必修科目で出会った高木先生の解析概論がいけません。大小関係なんて論じて何の意味があるのか分からなければ、意欲が湧くわけもありません。今思えば教え方が悪かったのだと確信しています。
工学部の有機化学が専門だったので、苦手意識の強い高等数学に悩まされることなく研究生活を楽しめました。
束縛系電子の量子力学は必修でしたが、それ自体の研究でなく、量子力学的世界観で分子や反応を理解するための道具として有用で、そのレベルではそれほど苦労しませんでした。恐らく正しい世界観は身に付いたらしく、思考実験で考え付いた新規な反応系が、現実に検証でき、特許にできたのがその査証だとおもっています。
道具としての数学の便利さ、偉大さは感じております。数学的思考への憧れは、今でも有ります。
だからとねさんにご紹介頂いた本を読んで、今更ながら目から鱗を楽しんでおります。
ありがとうございます。
この本のように「なぜこれを学ぶことが大事なのか?」という視点で書かれた本が、学生時代にあったらなぁと僕も思います。
高木先生の「解析概論」の素晴らしさは、学生時代に知っていましたが、数学専攻であってもそれは「名著だから」とか「先生や先輩が良い教科書だと言っているから」とかのように漠然とした評判を鵜呑みにしているに過ぎず、真の意義を理解していませんでした。
解析概論自体にしても自分自身を宣伝していることはほとんどなく、淡々と定理や証明を積み重ねているだけです。しかし、合間に高木先生のお気持をうかがわせる教科書らしからぬ記述があるのも本当のところです。けれど、それを初学者がくみ取るのは無理というものでしょう。
解析学に挑戦してから、数十年の時間が経ってしまいましたが、昔の自分を思い起こしながらこの本を読むのは楽しいものですね。
今回ご紹介の本のような"導入本"は、当時私も読めていたら解析概論への取り組み方も変わっていたと思います。
但し、昔もこの種の本が無かったのかといえは、あながちそうでもないとは思うんです。今と昔の違いは、インターネットでとね日記のような良質な情報源に出会う機会が圧倒的に少なかったということだと思います。
大学受験勉強中に、砂川先生の「電磁気学」だったと思いますが、(記憶があやふやです)、高校数学で完璧に理解できるのに、書かれてあることは高校の物理ではなくて、大学初年度レベルでした(と後で分かりました)。この本に偶然出会えて本当に楽しめました。
残念ながら、この本は今手元にありません。間違えて古本屋に売ったか、捨てたかだと思います。
もう一度入手したいと思って、以前少しネットで調べたのですが、同じ本は見つからずじまいでした。
ハードカバーの装丁で、チャート式シリーズや大学の教科書のような感じでした。但し高校数学で完璧に理解できたのは間違い無いので、"導入本"だったのではないかと思っています。
今であれば、おそらくとねさんがご紹介なさるに違いないと思える本です。
Amazonで検索すると砂川先生の電磁気学の本は次の5種類見つかります。やすさんが大学受験生の頃というと、どれになるのでしょうかね??
電磁気学の考え方 (物理の考え方 2)
電磁気学―初めて学ぶ人のために
電磁気学 (物理テキストシリーズ 4)
理論電磁気学
電磁気学 (1977年) (岩波全書)
> 今であれば、おそらくとねさんがご紹介なさるに違いないと思える本です。
「電磁気学の教科書談義」というタイトルで記事を書きたいところです。しかし、ファインマン物理学や太田先生の本や他の易しい入門書で既習であるにもかかわらず、肝心の砂川先生の本を読んでいないため記事を書くに至っていません。まず砂川先生の本を1~2冊は読んでから記事を書きたいですね。
お調べ頂き、ありがとうございます。リストアップされたのをみてみました。
amazonの説明を読む限りで、「電磁気学 - 初めて学ぶ人のために」あたりが、ひょっとしたら私が飛んだものの改訂版かも知れない?という感じです。
難易度の評価は読み手によって相対的なものなので判断材料になりにくいでしょうが、カスタマーレビューの1つには、
"少なくとも、高校の物理、数IIIレベルの知識は必要と思います。"
という記述があります。
また別のレビューでは 、
"理系の大学1年生(つまり高校の数学・物理はひととおり理解できているという前提)で、読む根気さえあれば、通読できます。"
とあります。
数IIIまでの高校数学は、当時しっかり理解していたと思うので、これらの書評は当時の私の感じと合致します。
なお、カバーには非常に大きなフォントで"電磁気学"とかかれていたのは間違いないです。"初心者のために"という副題は、無かったかどうか自身がなく、有ったかもしれませんが私は覚えていないんです。
ちなみに私が読んだのは1970年代後半で、古書店ではなくて普通の書店で買ったものです。なのでこの改訂版が1997/10に出ていますので、これの初版が私が読んだものの可能性がありそうですね。
今度大きめの書店で探してみて、もし有れば内容みてみようと思います。実際に手に取ってみないと、曖昧な記憶が戻ってこないと思います。
改訂されると表紙のデザインや副題がついたりして特定するのが難しいですね。
もし、砂川先生の電磁気学の本をまたお求めになるのでしたら、これまでに読んでいない新しいものをお読みになるとよいと思います。
1970年代後半ですか。懐かしいですね~。
自分には必要ないと思って買いませんでしたが、ホントに読んでたんだろかと今でも疑問に思ってます。
微積分は兄の高校の教科書を本人より先に読んで独習したんですが、教科書って分かり易く書かれてるんだなーと感心してました。
電磁気学は仕事で必要になった時に、教科書を探すのが面倒なので高校の記憶から自力で再構成しましたが、それで間に合いましたから「高校の授業って必要な基礎を充分に含んでたんだなー」と感心してます。
教訓:学校の教科書は馬鹿に出来ない。(大学は除く)
この記事で紹介した『「集合と位相」をなぜ学ぶのか』は、hirotaさんには易しすぎます。
> 微積分は兄の高校の教科書を本人より先に読んで独習したんですが
それって、滅茶苦茶自慢してますよ!!すごいなーといつも思います。
高校時代、学校の教科書は無味乾燥でつまらないと思っていて、大学受験ラジオ講座とか学習参考書のほうが好きでしたが、今になって思い返してみると教科書ってよく書かれていますね。昔の自分に説教してやりたいです。