とね日記

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相対論的量子力学:西島和彦

2010年11月23日 13時21分14秒 | 物理学、数学
相対論的量子力学 (共立物理学講座):森田 正人, 森田 玲子」の次に読み比べとして選んだのは「相対論的量子力学:西島和彦」だ。前者が学部3、4年生向けであるのに対し後者は学部4年もしくは院生向けと思われる。昨年2月に逝去されたわが国を代表する物理学者である西島和彦先生が1973年に出された教科書だ。次期ノーベル賞候補かと噂されていただけに突然の訃報は残念としか言いようがなかった。

そのように素晴らしい先生のお書きになった教科書だから、きっちり読み込んでみようと意気込んだのだが、読み始めてすぐ本書は独学向きではないことに気づいた。「量子力学 I:猪木慶治、川合光」と同様、学生は自ら手を動かして数式を計算しないとついていけない。大学のゼミや輪講に向いた教科書である。

カバーしている範囲は「相対論的量子力学 (共立物理学講座):森田 正人, 森田 玲子」よりも広く、そのぶん説明や計算手順が省略されている。

森田先生の教科書の第3章~第6章まででは、相対論的量子力学の本編として「ディラック方程式」から「光子と物質の相互作用」まで、そして第6章後半から第7章の仕上げとしてトムソン散乱からコンプトン散乱の計算、そして特殊相対論を加味した結果としてのクライン・仁科の公式を求めている。クライン・仁科の公式は相対論を加味した電子による光子のより精密な散乱公式である。また、第5章ではディラック場の量子化、付録で多粒子系の量子力学から第2量子化など場の量子論に向けた解説を含んでいる。

註:トムソン散乱とコンプトン散乱の違いは以下のページの中ほどをお読みになるとよい。

物理II 改訂版>第3部 原子・分子の世界>第2章 原子と電子>第3節 X線
http://www.keirinkan.com/kori/kori_physics/kori_physics_2_kaitei/contents/ph-2/3-bu/3-2-3.htm

一方、西島先生の教科書では森田先生の教科書の第3、4、6章に相当する相対論的量子力学の本編が第1、第2章にまとめられ、森田先生の教科書の第6章後半と第7章の光と物質の相互作用、トムソン散乱、コンプトン散乱、クライン・仁科の公式までが第3章に含められている。第4章では散乱の一般論が展開されているが、この部分は難しく未消化に終わってしまった。なお西島先生の教科書では無限自由度を扱う量子論の必要性を明確にするために基本的には場の量子化は行っていないが、電磁場に関しては例外的に量子化されている。

付録で取り上げられているのが「時間反転」について。古典力学、電磁気学、量子力学、電磁場、ディラック粒子のそれぞれの場合に時間の対称性や因果律の法則がどのように数式的に記述されているかを述べている。この付録は特に僕の興味をひいた。しかし、ここで時間の謎についてのすべてが解決されていないことをおことわりしておく。

摂動論や散乱の一般論などは次の段階に進む上で重要であるが、僕には複雑で難しすぎた。何とかしなければ。第1章から第3章についても森田先生の教科書で学んでいたから理解できたのだと思っている。

なお、初学者のために補足しておくが、相対論的量子力学を学ぶためには、量子力学はもちろん古典力学、解析力学、電磁気学、特殊相対性理論を学んでおく必要がある。それぞれ「EMANの物理学」のサイトで学ぶとよいだろう。

相対論的量子力学の理論が始められたのは1929年頃からだが、この理論から予想されたのが陽電子と呼ばれる反粒子であり、つい最近CERNではじめて「反水素原子」が作り出されたり、水素原子の写真撮影に成功したりというニュースが飛び込んできた。ディラック先生や西島先生が存命されていたら、この現実をどのような感じで受け止めただろうか。

動きがのろい冷反水素原子を38個も磁気瓶に閉じ込める!
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101118/index.html
http://slashdot.jp/science/article.pl?sid=10/11/20/0315246

最小の元素・水素原子とらえた 東大チームが撮影成功
http://sammy-p.at.webry.info/201011/article_32.html


僕にとっては理解不足な本書も名著には違いない。道半ばで逝去された西島先生のご遺志を継ぐという意味でも、ぜひ本書で学んでほしい。

相対論的量子力学:西島和彦


第1章:Dirac方程式
 - 自然単位
 - 非相対論的量子力学
 - Klein-Gordon方程式
 - 荷電粒子に対するKlein-Gordon方程式
 - Dirac方程式の導入
 - Weyl方程式の導入
 - Dirac方程式の相対論的共変性
 - Dirac行列の性質
 - 自由粒子に対するDirac方程式
 - 静電磁場におけるDirac方程式
 - 負エネルギー解の物理的解釈 
 - 中心的静電場におけるDirac方程式の解
 - 断面積の定義
 - 外場によるDirac粒子の散乱
 - 電子 - 電子散乱
 - 空孔理論におけるDirac粒子の散乱

第2章:電磁場の量子論
 - 古典電磁力学の正準形式
 - 電磁場の量子化
 - 電磁場と電子との相互作用
 - 摂動論

第3章:電磁場の量子論の応用
 - 輻射の放出と吸収
 - 摂動論の改良と共鳴散乱
 - 光電効果
 - Thomson散乱
 - 非相対論的近似における光子の散乱
 - Klein-Nishinaの公式

第4章:散乱の一般論
 - 散乱問題と因果律
 - 散乱振幅の部分波展開
 - Born近似
 - S波散乱の例題
 - effective rangeの理論
 - S行列と束縛状態
 - Fredholm理論の応用
 - 重心系と実験室系
 - スピン依存力
 - 同種粒子
 - Lippmann-Schwinger方程式
 - 組み替え反応の理論

付録
A.時間反転


ネット上には相対論的量子力学を学ぶためのホームページやPDFファイルが公開されているので、このような資料で勉強されるのもよいだろう。

EMANの量子力学(第4部「相対論的量子力学」)
http://eman-physics.net/quantum/contents.html

相対論的量子力学入門(倉澤先生による講義資料)
http://physics.s.chiba-u.ac.jp/~kurasawa/#lecture

相対論的量子力学(物理のぺーじ?)
http://members3.jcom.home.ne.jp/nososnd/qu/qu.html

相対論的量子力学(坂井先生による資料)
http://www.th.phys.titech.ac.jp/~nsakai/rqm80128.pdf

余談であるが、「電子のスピン」は相対論を持ち出さなくても、つまり相対論的量子力学におけるディラック方程式を持ち出さなくても(通常の線形な)量子力学の範囲で導き出すことができるそうだ。このあたりのことは「EMANの物理学」の以下のページを参考にされるとよい。

非相対論的にスピンを導く(シュレーディンガー方程式の線形化)
http://eman-physics.net/quantum/linearize.html


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