とね日記

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ファインマン物理学 I: 第3章: 物理学と他の学問との関係

2009年06月18日 01時18分30秒 | ファインマン物理学

この章でファインマン先生は物理学と他の学問との関係について解説する。他の学問とは化学、生物学、天文学、地学、心理学のことである。数学については自然を扱うものではないから(自然)科学ではない、と述べて締めくくっている。数学を語り出すとそれだけで1章になってしまうからだろう。

化学、生物学、天文学、地学、心理学の基礎として物理学がある。

化学:

化学も物理学も原子や分子を研究対象としていることを述べ、両者が交差するところに統計力学と量子力学があると説明している。統計力学は多数の原子や分子を確率論の法則に従って計算し、どのような現象がおきるかを予測する。量子力学はミクロな世界で成り立つ不確定な世界を解き明かし、量子化学にも応用される。

無機化学と有機化学の違いにも言及している。生物は有機物質の集まりであるので生物学との境界があいまいになる。無機物質と有機物質の境界もあいまいなので、生物と物質の境界というのはいったいどうなるのだろう、化学の発達によって生命とは何かという問題がクローズアップされてきた。

現代でも物理学にとって化学が重要なのは言うまでもない。新素材の開発は物性物理学のひとつのテーマだが、これには周辺知識として化学が不可欠である。


生物学:

ダーウィンの進化論に代表されるように生物学は生物を系統立てながら分類することからはじまった。

生物がもつさまざまな機能のからくりはまだまだ解明されていないが、物理学的、化学的手法を取り込むことで、そのいくつかがわかってきている。それでもなお未知の領域が多い。

特筆すべきはDNAの構造と役割の発見であろう。この講義が行われたのはそれが発見された時代である。

先日の足利事件のニュースのことを思わずにはいられなかった。1990年の時点でさえDNAによる鑑定は不正確さを残していたこと、そしてそれをほぼ100パーセント確実なものと当時の人が誤解していたということに驚かされてしまった。

科学や物理学の正確な知識を持っていることが重要なのだが、先入観や常識、そして人間組織のしがらみにとらわれないで判断、行動するのがいかに難しいことかということを教えてくれる。少なくとも裁判所や検察、警察組織、DNAの鑑定を行う研究所で理系と文系の人材の権限が平等であることで、そのリスクを抑えることができるのだと思った。(参考:「理系バカと文系バカ」:竹内薫著)

最近の生物学で特筆すべきは万能細胞技術とクローン技術だ。万能細胞の研究は再生医療によって人類に多大な恩恵をもたらすが、クローン技術のほうはこれ以上進めるべきではない。現在すでに動物のクローンは商業化してしまっている。死んだペットをよみがえらせることが可能なのだ。人間には応用しないと法律で定めてもお金さえ積めばどんなことでもしてしまう闇業者があらわれるのは目に見えている。善悪を決めるのは人間で、科学はその善悪の可能性を広げるだけだ。

しかし科学技術の変化は人間の社会常識に影響を与えるものだが、ときどきそれとは違う要因で社会常識はくつがえされてしまう。政治や経済がカネと縁を持ち続けるかぎり、その都合で生活環境が変化し、社会常識はいくらでも変えられてしまう。政治と経済の両方に共通している少子化問題が将来クローン技術で解決されないことを僕は切に願っている。まあ、政治家や経営者は目先の利益にとらわれる場合がほとんどだ。だからクローン人間が成人する20年を先を見越すことがないので心配する必要はないのかもしれないが。。。

翌日追記:上のように書いたのだが、今日「臓器移植法改正案」でA案が衆議院で可決された。脳死を人間の死と認め、15歳以下でも臓器移植提供が可能になる。「死」についての社会通念が変わり始めてしまうのかもしれない。


天文学:

天文学で発見されたことのうちいちばん大したことは「星も地球や人間と同じく原子でできている。」ということだとファインマン先生は言う。言われてみればそのとおりだ。地動説の発見やケプラーの法則よりも重要であるに違いない。

次のくだりにファインマン先生のユーモアが見られる。星の輝きが内部の核反応であることを発見した科学者が夜、彼女と一緒に歩いているときに「まぁ、なんて星がきれいなんでしょう!」と感嘆する彼女に彼は核反応のことを告げる。そんな彼に彼女は何の興味ももたなかったというありそうな話。

僕の知り合いに天文ファンの男がいるが、彼は木星の話だけで2時間もたせることができる。僕も天文学は好きであるが、だいぶ以前にこの話を延々とされてうんざりしたことがある。彼は今も独身である。

また、僕の同僚に釣りが大好きな男がいて、彼は釣り糸の結び方の話だけで2時間おしゃべりが止まらない。酒が入ると4時間になる。「凝る」というのはこういうことだ。釣りキチの彼は結婚していて子供もいる。

僕も女性に物理学の話すときは食いつき加減を見ながらすることにしよう。彼女の表情だけで判断してはいけない。「食いつき具合」を見るのが大切だ。こういうことは人生を左右する大きな要因である。結婚して生まれる3人の女の子にそれぞれ陽子、光子、量子と名付けようなどと思っている男はおそらく結婚できないのである。

ファインマン先生がこの講義を行ったのは1961~62年にかけてのこと。はじめての人工衛星は1957年のスプートニク1号、人類をはじめて月面に送ったアポロ11号は1969年だ。1986年のスペースシャトル、チャレンジャー事故の事故調査委員会でファインマン先生は大きな役割を果たした。(参照ページ


地学:

この部分でファインマン先生は地学の中でも特に地震と気象にフォーカスして説明している。

地震については当時まだ原因がはっきりわかっていなかった。マントル対流によるプレートの移動と摩擦が地震や火山活動、造山活動の原因であると予想されていたにすぎない。その後、地球物理学は進歩し当時よりは少し地震予知技術が進歩した。

気象については乱流についての予測が計算できないことを述べている。今でこそスーパーコンピュータを使って天気の数値予報が可能になったが、それでもなお不十分で「ゲリラ豪雨」が予測できないのがこれを示している。

1960年当時利用できたコンピュータはDECのPDP-1IBM 7030だった。計算速度は性能は1~2 MIPSくらいである。1 MIPSでは1秒間に100万回の命令を処理できる。1980年代前半のパソコンくらいの速度だ。これらのコンピュータでは3次元の流体力学の問題を計算していたそうだ。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはまだ5歳の幼児にすぎなかった。


心理学:

ひとつ前の章でファインマン先生は「科学的に物事を考えるのは大切だ。」と主張する哲学者こそ科学的でない場合が多いと皮肉っていたが、この章では精神分析のことを「科学ではない。」と断定し、さらにそれを「まじないの一種」であるとこき下ろしている。歯に衣を着せずに自分の意見をずばっと言う彼の性格が色濃くでている。

最近 MR.BRAIN というテレビドラマがはじまったが、脳科学が科学なのか僕にはよくわからない。けれども脳から取り出した電気信号から映像を再現させることに成功したニュースを読む限り、この分野は確実に進歩しているのは確かだ。(関連記事


本章の最後でファインマン先生は次のようにしめくくる。人間を含めて自然の有様をこれらの学問のように分類したのは人間であって、自然そのものは何も分かれていない。それはしっかり覚えておくべきだ。だからこのような分類はすっかり忘れて楽しもうではないか。酒について分析するのはやめて、もともと酒が何のためにあるのを思い出そうではないか。乾杯!

このような感じである。おそらくこの講義が行われたのは夕方だったのだ。先生は早々に授業を切り上げて飲みに繰り出したかったのではなかろうか。


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