
関数電卓マニアが高じて、ついに計算尺にも手をだしてしまった。ブログの更新がしばらく途絶えていたのはヤフオクでの買い物で忙しかったからである。(今回の取引の中で、出品者の方との交流も生まれ、単なる買い物以上のものになりそうだ。)
計算尺は僕にとってノスタルジアではないけれども、僕より5歳以上年上の人は中学や高校時代に数学の授業で教えられたのだという。1970年頃までは理工系の学生をはじめ、技術者、電気技師、そして一般事務員にいたるまで計算尺を使っていたそうだ。
足し算、引き算はソロバンで、掛け算と割り算は計算尺で行うということも聞いていた。なぜなら対数法則 log(ab)=log(a)+log(b) を使えば対数目盛を使って掛け算は長さの足し算に、割り算は長さの引き算になるからだ。通常の計算尺の精度は有効数字3桁である。
だから僕は計算尺でできるのは掛け算、割り算までだと誤解していた。今回調べてみてはじめて、平方根や立方根、指数関数、対数関数、三角関数、そして物によっては双曲三角関数まで計算できることを知り、これはすごいと思ったわけだ。つまり昔の関数電卓である。マンハッタン計画で中心的役割を果たしたエンリコ・フェルミは計算尺に熟練していて、精度の良い大型計算尺を使って世界初の原子炉CP-1(1942年)を設計したという。
コンサイス円型計算尺
計算尺という言葉から連想される棒型の計算尺は残念ながら現在販売されていない。新品で購入できるのはコンサイス社から出ている円型計算尺のみ。用途別にいくつかの種類が販売されている。
コンサイス円形計算尺:
https://www.concise.co.jp/feature/slide_rule/
a href="https://www.concise.co.jp/fs/concise/c/gr231" target="_blank">hhttps://www.concise.co.jp/fs/concise/c/gr231
このうち最もハイスペックなNo.300(一般および技術者用)とNo.480(日数計算および一般計算)を購入した。それぞれ科学計算用と金融計算用という役割にしたつもり。
目盛の種類や使い方は中途半端に僕が説明するより「計算尺推進委員会」内の解説を読むのがいちばんだ。とてもわかりやすく書かれている。棒状計算尺でも円型計算尺でも使い方は同じだ。それぞれの目盛のことを「尺」という。各尺の用途はウィキペディアの記事を参照。
計算尺推進委員会:
http://www.pi-sliderule.net/
掛け算、割り算についてだけなら、次のページがわかりやすい。
計算尺の使い方(基本編):
http://www.keisanjyaku.com/sliderule/tukaikata/howto.html
「とね書店」にも専用売り場を設けておいた。
コンサイス計算尺コーナー(とね書店)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=32
ヘンミ計算尺
どうせ使うならより計算尺らしい棒型のものも欲しい。ヤフオクで落札したのが掲載画像の2つである。(ヤフオクで検索してみる。)
ヘンミ計算尺:No.P45D(中学生用、片面)
ヘンミ計算尺:No.259D(機械技術用、両面)
日本ではヘンミ社のものが主流であった。次のサイトをみるとわかるように実にさまざまなものが発売されていた。購入されるときは、用途を十分に考え自分に合ったものを選ぶとよい。落札相場は種類によってまちまちで2000円~50000円程度だ。
計算尺愛好会:
http://www.keisanjyaku.com/
計算尺資料館:計算尺の種類と用途はこちらで確認。
http://www.keisanjyaku.com/sliderules.htm
科学ブログ仲間の271828さんは、なんと教師用として使われていた大型ヘンミ計算尺をお持ちである。極めて貴重な品だ。
大きな古い計算尺(271828さんのブログ):
https://blog.goo.ne.jp/slide_271828/e/837781b6808489d6255559b5155da51a
計算尺Javaアプレット
パソコンで無料で使える計算尺Javaアプレットもある。買う前にこちらで試してみるとよい。
Derek's Virtual Slide Rule Gallery: 両面使えるものばかり。
http://www.antiquark.com/sliderule/sim/
Googleのサイト内にも見つけた。:
http://code.google.com/p/java-slide-rule/
スマートフォン用の計算尺アプリ
もしやと思い、スマートフォン用アプリも探してみたらあった!それぞれ次のものが僕のお勧めするアプリだ。
iPhone/iPad用計算尺アプリ:Cube Slide Rule(85円)
https://itunes.apple.com/jp/app/cube-slide-rule-lite/id400303509?mt=8
表: T1,T2,K1,A [B,BI,K2,CF,CI,C] D,P,S,ST
裏:LL00,LL01,LL02,A [B,LLO3,L,LL,LL3,C] D,LL2,LL2,LL0
クリックで拡大

Androidスマートフォン用計算尺アプリ:Slide Rule(無料)
https://market.android.com/details?id=com.timscott.sliderule&hl=ja
表:LL1,A [B,ST,T,S,C] D,DI,K
裏:LL2,DF [CF,Ln,L,CI,C] D,LL3
クリックで拡大

アポロ計画と計算尺
実をいうと紹介したAndroidアプリやDerek's Virtual Slide Rule Gallery内のいちばん下のJavaアプレットはPickett N600-ESという黄色いポケット型計算尺のシミュレータになっている。
Pickett N600-ES Javaアプレット:
http://www.antiquark.com/sliderule/sim/virtual-slide-rule.html

Pickett N600-ESの詳細:
http://www.kkdepot.com/Product.asp?Key=1037
この計算尺は人類初の月面着陸・帰還をなしとげたアポロ計画においてコンピュータが故障した時のために非常用として司令船に搭載されていたものだ。世界初のポータブル関数電卓HP-35が発売されたのはアポロ計画末期の1972年なので、当時は計算尺がいちばん適していたからである。HP社初のプログラミング可能な卓上科学電卓(HP 9100A 拡大写真1 拡大写真2)は1968年に発売されていたが、アポロに搭載するには大きすぎた。(アポロに搭載されていた本体のコンピュータはAGC(Apollo Guidance Computer)というもので、その詳細はウィキペディアの記事で読むことができる。)
とはいっても、命を失うかもしれない状況の中で計算尺って。。と僕は思ってしまうわけだが。
実際にアポロ11号(1969)に搭載されたN600-ESは2007年に行われたオークションで $77,675 で落札された。
月へ向かう途中で酸素タンクの爆発と電源の喪失に見舞われ、奇跡的に地球に帰還したアポロ13号(1970)にもN600-ES計算尺が積まれ、これは現在スミソニアン博物館に展示されている。
スミソニアン博物館(Pickett N600-ES)
http://americanhistory.si.edu/collections/search/object/nmah_694174
https://airandspace.si.edu/collection-objects/slide-rule-5-inch-pickett-n600-es-apollo-13
このような歴史的逸話を持つN600-ES計算尺は、現在アメリカのeBayサイトで出品されているものを購入することができる。(検索してみる。)ただし、アメリカ在住でないと購入できないので、どうしてもという場合は代行業者かアメリカ在住の知り合いに依頼するしかない。(その後、この計算尺を入手した。「アポロに搭載された計算尺(Pickett N600-ES)」という記事を参照。)
トム・ハンクス主演の映画「アポロ13号(1995年)」では、地上にいる管制官が計算尺を使うシーンがでてくる。映画が始まって1時間経ったあたりだ。ヘンミ社製のように見える。


この映画は実際に起きた事実を忠実に再現して製作された。爆発事故が起きて姿勢制御ができなくなった船の角度を知るために、司令船内のジム・ラヴェル船長(トム・ハンクス)が読み上げる数値をもとに、ヒューストンの司令室のエンジニアが計算するシーンである。(だから実際には船内に搭載された計算尺は使われなかった。)
「アポロ13 【プレミアム・ベスト・コレクション】 [DVD]」(Blu-ray)(デジタル・リマスター版Blu-ray)(Amazonプライムビデオ)

映画アポロ13 打ち上げシーン
映画ではないが、詳細はこの動画でご覧いただける。
最新版 アポロ13号 奇跡の生還
このように計算尺の世界は奥が深い。僕の計算ツールへの興味は募るいっぽうだ。
関連リンク:
計算尺リンク集
http://www.keisanjyaku.com/link.htm
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
関連記事:
アポロに搭載された計算尺(Pickett N600-ES)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3898318d7f4b3e84900d9ae2cb80d816
関数電卓ノスタルジア (HP-12C, HP-15C, HP-16C)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/03e84c4fe4608f263779c5f442bf29f9
ついに入手!:HP-12C(金融電卓)、HP-15C(科学電卓)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fd85dc6fb9d752e66342666970fa18b0
プログラム電卓ノスタルジア (TI-59, HP-67): Android携帯アプリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0ad3750a80319805913264169939ea93
算数チャチャチャ(NHKみんなのうた)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f45451ee92873728f3046ed36cdce71
祖父が船乗りだったからなのか、
某船舶装備品の会社のロゴが入っています。
見かけはだいぶ違いますけど、
機能も大きさも No.27N と同じです。
私も学校で習った世代ではないので、
とねさんと歳が近いんだなあ。
noboshemonさんも計算尺お持ちでしたか。
僕たちの父、祖父の時代のものは貴重です。
父は工業高校で計算尺使ったそうですが、残念ながら捨ててしまったそうです。
僕は昭和37年10月生まれですよ。ブログは若いスタイルで書きたいので「私」ではなく「僕」と書いています。
ヘンミN101教師用大型計算尺を持っている271828です。この計算尺で「何でも鑑定団」に応募しましたが、あえなく不採用でした。
さて以下の記事で書いた『フランス百科全書絵引』にアナログ計算機=代数関数作図機が掲載されていたことを最近になって気がつきました。
http://blog.goo.ne.jp/slide_271828/e/f5b351b9e43320ef421c5f7b3700488d
少し調べて記事にします。
おはようございます。
271828さんの教師用計算尺は No.100の後継機のNo.101だったのですね。
N.101
http://www.keisanjyaku.com/sliderule/hemmi100k/hemmi_100k.html
おそらく正しく鑑定できる人が見つからなかったから番組不採用になったのではと思います。271828さんのはカーソルもついていますから、さらに貴重ですね。
T_NAKAさんは昔からヘンミ計算尺㈱のことをご存知だったわけですね。僕のほうは計算尺のことは知っていてもメーカーとかは意識したことがありませんでした。
現在は特殊用途の計算尺しか販売していず、売上のほとんどは計算尺以外です。それにもかかわらず社名に「計算尺」を残していることに会社の昔の業績を尊重する気持がこめられていると思いました。
うわ。私は前年の 4 月であります。
歳と体重以外ではとても敵いませんが ^_^;
体重は秘密ですけど、同じくらいかもしれませんよ。
ソフトウェア開発の技は、僕よりnoboshemonさんのほうがはるかに上だと思いました。
昨年 4 月末から腰の具合が悪くて
まともに動けず、
最初はさすがに減少しましたが、
飯を食うのが平気になったら急上昇し、
100 kg を超えてしまいました。。。
> ソフトウェア開発の技は、僕より
> noboshemonさんのほうがはるかに上だと
ソフトを生業としていた時期もありましたが、
大昔の 640 KB の壁の時代で、
こじんまりしたものでした。
最近の仕事は、ハードウエア記述言語ばかり。
最早、ソフトの状況はさっぱりわかりません。
それでしたら僕はnoboshemonさんの体重を√2で割ったくらいですね。