とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

カシオミニのノスタルジア

2012年06月19日 13時12分28秒 | iPhone、携帯、電卓
左:初代CASIO MINI(1972年、12,800円)
中:第6代CASIO MINI CM-605(1974年、8,900円)
右:CASIO MINI ROOT M(1975年、14,800円)



昨日紹介した「雑居時代」などの石立鉄男ドラマが放送されていた頃がカシオミニが生まれ、進化していった時代である。

60年代後半は10万円以上する大きくて重たい卓上電卓の時代。1972年に登場した初代CASIO MINIは爆発的にヒットした。個人用電卓のビッグバンと言える。

カシオミニは2008年10月には国立科学博物館が認定する重要科学技術史資料(未来技術遺産)の一つに認定されている。

今日は初代も含め、その後発展したカシオミニの後継機のうち3つ紹介しよう。


初代CASIO MINI(1972年、12,800円)

クリックで拡大


6桁液晶表示の初代カシオミニ。単三電池4本を使い消費電力は0.85ワット。

1972年当時の物価は次のとおり。1万2800円はとても安いとは言えない。それでもこの電卓は70年代電卓戦争の起爆剤となった。

【交通】東京の営団地下鉄運賃最低区間30円から40円に値上げ。(8月1日)
【教育】国立大学授業料 年額3万6000円
【飲食】ビール 140円、かけそば 120円
【雑誌】「週刊朝日」90円(1月)、100円(9月)
【初任給】大卒 5万4001円

初代カシオミニのテレビCM。当時はメーカーが販売価格を決めていたのでテレビCMではたいてい「xxxxx円!」と値段を表示して視聴者にアピールしていた。







円周率の近似値355÷113を試してみたところ。。。



「3」?? 

ゆとり教育の時代じゃないんだから3はないだろう!

「右矢印」のキーがあったので押してみると小数点以下が表示された。



はぁ、こうやって使うんだ。。と納得。

LED表示部を目をこらして見ると、小数点を表示するセグメントがついていない。それに各桁ごとにLEDセグメントが分離していてそれぞれ結線されているようだ。

「右矢印」キーは小数部や桁あふれをした数字を表示するためのものだった。
しかし、キー配列をよく見ると重大なことに気がついた。小数点キーがない!

そうなのだ。この電卓は小数を入力できない「整数電卓」だったのである。こういう中途半端な製品でもヒット商品になったのだなぁと、平和な時代を回顧することになった。

初代カシオミニが発売された1972年は札幌オリンピック、あさま山荘事件、沖縄返還、日中国交正常化の年でもある。

また大事故を起こした福島第一原発が営業運転を開始したのは、この前年の1971年3月のことである。改修工事をしたとはいえ原子炉本体は当時の技術で作られたものを使っているわけだから、複雑な思いがする。ちなみに再稼働が決まった大飯原発の営業運転開始は1979年である。


CASIO MINI CM-605(1974年、8,900円)

クリックで拡大


初代から数えると6代目にあたるのがこの機種。デザインもカシオらしくなってきた。この機種は「カシオミニ」としては最終のものでここまでが直系の子孫。その後はカシオミニ・パーソナルやメモリー付き、ルート機能付き、縦型のものなどバリエーションを増やしていった。

6桁電卓で単三電池4本を使うのは同じだが、消費電力は0.18ワットで初代の頃より電池が4.7倍長持ちする。

この機種では浮動小数点が使える。カシオミニで浮動小数点が完全に使えるようになったのは、この機種の「祖父」にあたるCM-603からだ。

YouTubeにはこの機種の「父」のCM-604のテレビCMがアップされている。




円周率の近似値(355÷113)を実行してみるとちゃんと表示された。「右矢印」キーを押すとこれに続く桁の「2」が表示された。



初代から2年が経過しているわけだが、1974年当時の物価は次のとおり。電卓の価格は大卒初任給の1割程度だったことがわかる。

【交通】 国鉄 上野-青森間普通旅客運賃3410円。 都バス60円(10月)。
【飲食】ビール160円、かけそば150円
1月:インスタントラーメンメーカー、原料の小麦粉の高騰を理由に値上げ。袋入り40円から60円、カップ入り100円から130円に。
【雑誌】「週刊朝日」130円(3月)、150円(10月)
【新聞購読料】朝日新聞朝夕刊セット月決め1700円(7月)
【初任給】大卒 8万2629円


CASIO MINI ROOT M(1975年、14,800円)

クリックで拡大


その翌年、この機種が発売された。ルート計算ができるだけでなくメモリー機能も備えている。ただ、この2つは同時に使えないという制限があった。ルート計算をするかメモリー計算をするかは2段階切り替えタイプの電源スイッチで行う。

液晶表示は8桁になった。もちろん小数も使える。ただサイズが少し大きいので消費電力は0.23ワット。電池は相変わらず単三が4本である。

円周率の近似値を355÷113で計算してみる。



ルート2を試す。




計算結果を2乗してみると。。。



2に戻らない。ううむ、計算誤差はこんなにあったのか。。。大らかな時代だ。これでは数値積分やテイラー級数など繰り返しが必要な計算には使えなさそう。

ちなみに「LED表示の関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-15、Panac S-1)」という記事で紹介したfx-15という関数電卓もこの機種と同じ1975年に発売された機種である。

CASIO MINI ROOT Mは14,800円、関数電卓 fx-15は16,500円で販売された。これだったらfx-15のほうがお買い得ですね。

1975年の物価は次のとおり。高度経済成長期なので毎年物価は上昇していた。

【交通】 都バス70円(4月)
【飲食】ビール180円(4月)、かけそば150円
【たばこ】ピース(10本入)75円、ハイライト120円、セブンスター150円(12月)
【初任給】大卒 9万1272円


今日紹介した3機種の厚さはこのくらいだ。



初代から順に整数、小数(有理数)、ルート(無理数)と扱える数の世界が増えていくさまは、「数学ガール/ガロア理論:結城浩」で説明されていた「体の拡大」を見ているようで面白かった。


余談:今夜は台風4号が本州を直撃します。みなさま気をつけてご帰宅ください。


応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 




関連ページ:

『カシオミニ』の誕生
http://casio.jp/dentaku/info/history/casiomini/

Casio Mini Series
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/2-casio/2-casiomini/casiomini.html

歴代のCASIOパーソナル電卓
http://www.epocalc.net/pages/mes_calcs_03.htm

電卓博物館
http://www.dentaku-museum.com/

電卓の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/dentaku/index.html


関連記事:

機械式計算機ノスタルジア(タイガー計算器)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/226dd92e17d66ac624b7279776aa77f6

計算尺ノスタルジア (コンサイス計算尺、ヘンミ計算尺)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b91ae7814c1830a9aaf7da77aadf88a8

関数電卓ノスタルジア (HP-12C, HP-15C, HP-16C)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/03e84c4fe4608f263779c5f442bf29f9

ついに入手!:HP-12C(金融電卓)、HP-15C(科学電卓)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fd85dc6fb9d752e66342666970fa18b0

プログラム電卓ノスタルジア (TI-59, HP-67): Android携帯アプリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0ad3750a80319805913264169939ea93

プログラム関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-502P、fx-602P、fx-5800P)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c31d67db36639471e9bc3209f88b3de

LED表示の関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-15、Panac S-1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2a60e8fc5f3c47b37b30de07e4c8d76e

算数チャチャチャ(NHKみんなのうた)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f45451ee92873728f3046ed36cdce71
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 雑居時代 | トップ | 場の量子論〈第1巻〉量子電磁... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

iPhone、携帯、電卓」カテゴリの最新記事