「Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫」
これはT_NAKAさんからブログのコメント欄を通じて紹介していただいたネルソンの確率力学をテーマにした本である。良い本を紹介していただき、ありがとうございました。
ブルーバックスながらこれはすごい本だと思った。電子の様子を見たい!という欲求を十分満足させるだけでなく、予想していなかった新たな事実のいくつかを見せてくれるからだ。読み始めた晩はドキドキして眠れなかった。
電子をはじめ微小な素粒子はすべて、波動的性質と粒子的性質の両方が同時に成り立っているという奇妙な状況が量子力学によって得られている。波動的性質は「シュレディンガーの方程式」で、粒子的性質は「ハイゼンベルクの運動方程式(行列力学)」によって基礎付けられ、これら2つの方程式は数学的に等価であることが証明されたからだ。
シュレディンガー方程式およびハイゼンベルク方程式の立場を本書ではそれぞれ量子力学の第1の枠組み、第2の枠組みと呼んでいる。ファインマンの経路積分の立場をとったものを第3の枠組みとしている。経路積分とシュレディンガー方程式が導けるので、これら3つの枠組みは等価である。
そして本書で紹介されるのが数学者Edward Nelsonの「確率力学」である。英語では「Stochastic Dynamics」といい、量子力学に確率過程論をブレンドしたものだ。これまで確率過程論を勉強してきたことがここにきて活きてくる。
この確率力学というものは「確率量子力学」ともいうべきもので、ボルンの確率解釈とは別の話。量子力学の第4の枠組みとなる。もちろんシュレディンガー方程式とも整合性がとれているだけでなく、古典力学(ニュートン力学)と量子力学をひとつの力学にまとめてしまうのだ。古典力学で得られる運動に量子的なゆらぎによる運動の揺動を加えることで、ブラウン運動をする電子の軌跡(軌道)を得ることができる。式のイメージとしては次のような感じだ。
古典力学では時刻tにおける物体の位置の座標を(X(t),Y(t),Z(t))、速度を(Vx(t),Vy(t),Vz(t))とすると時刻 t+Δt のときの座標は次のような式になる。(この式は有名な F=ma という運動方程式から得られる。)
X(t+Δt)=X(t) + Vx(t)*Δt
Y(t+Δt)=Y(t) + Vy(t)*Δt
Z(t+Δt)=Z(t) + Vz(t)*Δt
その結果、古典力学では時間の経過に従いなめらかな連続曲線を描きながら物体は運動する。
同様の運動方程式を確率力学版にすると次のようになる。右辺の第3項が量子力学的なゆらぎによる影響だ。電子は分子と分子の間でおこる化学反応の発生の有無や原子と原子の衝突後の運動に影響を持つわけだから、このゆらぎが私たちの世界の未来を不確定にしている理由のひとつなのだ。(参考記事:「どうして未来は決まっていないのだろうか?」)
X(t+Δt)=X(t) + Vx(t)*Δt + Qx(X(t),Y(t),Z(t),t)*√(Δt)
Y(t+Δt)=Y(t) + Vy(t)*Δt + Qy(X(t),Y(t),Z(t),t)*√(Δt)
Z(t+Δt)=Z(t) + Vz(t)*Δt + Qz(X(t),Y(t),Z(t),t)*√(Δt)
量子力学的なゆらぎの影響は時間幅の√に比例することが確率過程論から得られる。ブラウン運動の軌跡は本来微分不可能なのでVx(t)は無限大に発散してしまうのだが、平均前方微分や平均後方微分という手法を使うと発散せずに有限の値で計算できるようになる。基本はたったこれだけ。第3項を無視すれば古典力学になるし、第3項を加えてもシュレディンガーの方程式を満たしている。
波動力学の立場をとっている限り、運動する電子に軌跡(軌道)は存在しないとこれまでは考えられてきた。これまでも電子の運動の視覚化はなされてきたが、それらは次のページのようにどれも波動力学から計算したものばかりだ。
電子のカタチ:悪魔の妄想
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20101226/p1
原子の電子雲(原子核のまわりの空間の各点における電子の存在確率を点の濃度で表現する。極座標系式のシュレディンガーの波動方程式を解いて得られる「球面調和関数」を立体グラフにしたもの。)
http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=814
量子トンネル効果(Javaアプレット):分子のおもちゃ箱
http://mike1336.web.fc2.com/app/j851_900/883_tunnelEffectQED1DP/tunnelEffectQED1D.html
電子がブラウン運動していることを最初に考えついたのは誰なのだろう?少なくともファインマンは経路積分の考察の中でこのことについて解説している。(参考記事:「量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」)
本書で電子のブラウン運動を視覚化できることは冒頭で述べた。なんとそれがExcelのグラフウィザードを使ってできるのだ!タバコの煙や水面上の花粉のブラウン運動の原因は周囲の原子や分子だが、電子をブラウン運動させているのものは何なのだろう?それが確率的に振る舞う「量子的ゆらぎ」であり実体のあるものではないところが不思議だ。ゆらぎの背後にはシュレディンガーの波動関数が確かに息づいていることがわかる。
付属のサンプルファイルをいくつか実行してみた。パラメータに乱数を使っているからグラフを描くたびに違う模様が現れる。自由電子の単純なブラウン運動の軌跡は普通のランダムウォークだから目新しくはない。しかし、電子の二重スリット実験による干渉縞や、調和振動子、バリアー散乱、量子トンネル効果、水素原子の電子雲などが電子の軌跡として描かれる様子には驚かされた。実行結果を2つだけ紹介しておこう。
電子の二重スリット実験:
水素原子の電子雲(311軌道):
電子の二重スリット実験については有名な初心者向け説明動画(日本語字幕付き)がある。(ただしこの動画には批判記事もあるのでご注意いただきたい。)
量子力学のこれまでの枠組みでは「1つの電子は同時に2つのスリットを通り抜ける波動性をもつ」と考えられてきた。しかし確率力学での実行結果で考える限り、電子は上下のスリットのどちらか一方を通り抜けていたことになる。多世界解釈は否定されるのだろうか?
1989年に外村彰らによって行われた実験結果は次のページでご覧いただける。
二重スリットの実験(日立製作所)
http://www.hitachi.co.jp/rd/research/em/doubleslit.html
量子的ゆらぎをゼロにして電子を古典力学に従う形で実行するためのサンプルも用意されている。これは比較としてとても面白い。電子雲のサンプルファイルで描かれる電子は量子ゆらぎをゼロにするとケプラーの法則に従って運動を始めるのだ。(水素原子の古典軌道)
つまりネルソンの確率力学はニュートンの運動方程式がシュレディンガーの波動方程式と等価であることを示している。また、ボルンの確率解釈もこの第4の枠組から導かれるのだ。(本書91ページの記述を参照。)ただしニュートン力学と量子力学が等価になったからといって、すべてが解決したわけではない。「質量の起源」は依然謎のままである。
冒頭で述べた「予想していなかった新たな事実」については明かさないでおくことにしよう。実験をしてはじめてわかることというのもあるのだ。「古典的運動にゆらぎが加わった」では説明のつかない異質な現象が起きることがあるのだ。ぜひ本書で確認してみてほしい。
「目で見る美しい量子力学:外村彰」という記事で量子力学現象の視覚化について紹介したことがある。このように大規模な実験設備がなくても、Excelだけで仮想実験できてしまうのが本書のすごいところだ。
僕が試したのはシングルコア CPU Pentium 2.8GHz, メモリー2GBのWindows XP 32-bit, Excel 2007という環境だったが、それぞれ1Mバイト近くあるサンプルファイルは重たく、条件を変えてグラフを再描画させるのに30秒から1分くらいかかる。ディスクへのスワップもかなり起きていた。計算している間はハングアップしているのか計算中なのか判断がつかない。本書が出版された2001年当時のパソコンだとずっと重たかったことだろう。とはいえ僕のパソコンも2003年頃のスペックなわけだが。。。
参考:2001年頃の標準的なパソコンのスペック
http://prius.hitachi.co.jp/prius/pc/2001may/750u/index3.html
残念ながら本書は現在絶版のようである。格安のものが中古でアマゾンから数冊買えるだけだ。復刊ドットコムに登録しておいたので是非ご協力いただきたい。書店で立ち読みできない状態なので書いておくが、第1部は数式がかなりたくさんあるので抵抗感をお持ちの方は「ミクロの世界(九州大学)」レベルのサイトで目を慣らしてから注文するとよいだろう。
復刊ドットコム(Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫)
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=54269
確率力学について書かれた日本語書籍はほとんどない。比較的新しい理論であるためだと思うのだが、物理学者の間でどれくらい受け入れられているのか僕にはよくわからない。より深く学んでみたい方のために何冊か紹介しておこう。
保江先生による本:
確率論:保江邦夫(第18章の確率変分学の章の中で「平均微分」について解説している。)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e61db01708357715d1d758b5c1308f5
量子力学:保江邦夫(第15章から第17章が確率力学の解説に割かれている。)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/656d4a16c716a6add4884326e6efa2dd
確率力学を提唱したEdward Nelsonご自身による本。(洋書):
Dynamical Theories of Brownian Motion (1967)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/0691079501
Quantum Fluctuations (1985)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/0691083797
Diffusion, Quantum Theory, and Radically Elementary Mathematics (2006)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/0691125457
似たようなタイトルで次のような本が出ている。こちらは従来のように波動力学を使って量子力学の視覚化を行いながら学ぶ本なので本書と混同されないようご注意いただきたい。こちらはこちらで良さそうだ。
「Excelで学ぶやさしい量子力学:新田英雄、工藤知草」(この本の詳細)
最後にネルソンの確率力学のが手短かにわかるPDF資料を見つけたのでリンクを紹介しておこう。
量子ポテンシャル理論と確率力学(この資料の中には二重スリット実験での電子の軌跡がずっと鮮明にわかるシミレーション結果が掲載されている。)
http://wwwndc.jaea.go.jp/JNDC/ND-news/pdf76/No76-08.pdf
Nelson's Stochastic Quantization in Thermo Field Dynamics
http://www.riise.hiroshima-u.ac.jp/TQFT/ohp2010/kobayashi.pdf
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「Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫」
プロローグ:失われた自然観を求めて
第1部:量子力学百面相
- ヘルゴランド島=ハイゼンベルク
- 調和振動子
- 行列力学
- 行列を求める
- アルプバッハの夜=シュレーディンガー
- 波動力学
- 波動関数の意味
- ナッソー酒場の夜=ファインマン
- 波動関数の時間的変化
- 経路積分
- 空白の夜=ネルソン
- 確率力学の意義
- 確率力学での水素原子
- 電子のジグザグ運動
- ニュートンの運動法則の普遍化
- シュレーディンガー方程式
第2部:Excelで覗き見る量子の姿
- 確率力学の裏技
- はだかの量子の動き
- 自由運動をする電子
- 一様乱数
- 確率分布と確率法則
- 正規乱数
- 自由運動
- 量子力学における運動状態の重ね合わせ
- 量子力学の観測問題
- 確率力学における重ね合わせ
- 反対向きの自由運動の重ね合わせ
- 二重スリット実験
- バリアー散乱
- 量子トンネル効果
- 調和振動子
- 水素原子
- 水素原子の古典軌道
エピローグ:忘れもの
参考文献:
CD-ROMの使い方
さくいん
これはT_NAKAさんからブログのコメント欄を通じて紹介していただいたネルソンの確率力学をテーマにした本である。良い本を紹介していただき、ありがとうございました。
ブルーバックスながらこれはすごい本だと思った。電子の様子を見たい!という欲求を十分満足させるだけでなく、予想していなかった新たな事実のいくつかを見せてくれるからだ。読み始めた晩はドキドキして眠れなかった。
電子をはじめ微小な素粒子はすべて、波動的性質と粒子的性質の両方が同時に成り立っているという奇妙な状況が量子力学によって得られている。波動的性質は「シュレディンガーの方程式」で、粒子的性質は「ハイゼンベルクの運動方程式(行列力学)」によって基礎付けられ、これら2つの方程式は数学的に等価であることが証明されたからだ。
シュレディンガー方程式およびハイゼンベルク方程式の立場を本書ではそれぞれ量子力学の第1の枠組み、第2の枠組みと呼んでいる。ファインマンの経路積分の立場をとったものを第3の枠組みとしている。経路積分とシュレディンガー方程式が導けるので、これら3つの枠組みは等価である。
そして本書で紹介されるのが数学者Edward Nelsonの「確率力学」である。英語では「Stochastic Dynamics」といい、量子力学に確率過程論をブレンドしたものだ。これまで確率過程論を勉強してきたことがここにきて活きてくる。
この確率力学というものは「確率量子力学」ともいうべきもので、ボルンの確率解釈とは別の話。量子力学の第4の枠組みとなる。もちろんシュレディンガー方程式とも整合性がとれているだけでなく、古典力学(ニュートン力学)と量子力学をひとつの力学にまとめてしまうのだ。古典力学で得られる運動に量子的なゆらぎによる運動の揺動を加えることで、ブラウン運動をする電子の軌跡(軌道)を得ることができる。式のイメージとしては次のような感じだ。
古典力学では時刻tにおける物体の位置の座標を(X(t),Y(t),Z(t))、速度を(Vx(t),Vy(t),Vz(t))とすると時刻 t+Δt のときの座標は次のような式になる。(この式は有名な F=ma という運動方程式から得られる。)
X(t+Δt)=X(t) + Vx(t)*Δt
Y(t+Δt)=Y(t) + Vy(t)*Δt
Z(t+Δt)=Z(t) + Vz(t)*Δt
その結果、古典力学では時間の経過に従いなめらかな連続曲線を描きながら物体は運動する。
同様の運動方程式を確率力学版にすると次のようになる。右辺の第3項が量子力学的なゆらぎによる影響だ。電子は分子と分子の間でおこる化学反応の発生の有無や原子と原子の衝突後の運動に影響を持つわけだから、このゆらぎが私たちの世界の未来を不確定にしている理由のひとつなのだ。(参考記事:「どうして未来は決まっていないのだろうか?」)
X(t+Δt)=X(t) + Vx(t)*Δt + Qx(X(t),Y(t),Z(t),t)*√(Δt)
Y(t+Δt)=Y(t) + Vy(t)*Δt + Qy(X(t),Y(t),Z(t),t)*√(Δt)
Z(t+Δt)=Z(t) + Vz(t)*Δt + Qz(X(t),Y(t),Z(t),t)*√(Δt)
量子力学的なゆらぎの影響は時間幅の√に比例することが確率過程論から得られる。ブラウン運動の軌跡は本来微分不可能なのでVx(t)は無限大に発散してしまうのだが、平均前方微分や平均後方微分という手法を使うと発散せずに有限の値で計算できるようになる。基本はたったこれだけ。第3項を無視すれば古典力学になるし、第3項を加えてもシュレディンガーの方程式を満たしている。
波動力学の立場をとっている限り、運動する電子に軌跡(軌道)は存在しないとこれまでは考えられてきた。これまでも電子の運動の視覚化はなされてきたが、それらは次のページのようにどれも波動力学から計算したものばかりだ。
電子のカタチ:悪魔の妄想
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20101226/p1
原子の電子雲(原子核のまわりの空間の各点における電子の存在確率を点の濃度で表現する。極座標系式のシュレディンガーの波動方程式を解いて得られる「球面調和関数」を立体グラフにしたもの。)
http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=814
量子トンネル効果(Javaアプレット):分子のおもちゃ箱
http://mike1336.web.fc2.com/app/j851_900/883_tunnelEffectQED1DP/tunnelEffectQED1D.html
電子がブラウン運動していることを最初に考えついたのは誰なのだろう?少なくともファインマンは経路積分の考察の中でこのことについて解説している。(参考記事:「量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」)
本書で電子のブラウン運動を視覚化できることは冒頭で述べた。なんとそれがExcelのグラフウィザードを使ってできるのだ!タバコの煙や水面上の花粉のブラウン運動の原因は周囲の原子や分子だが、電子をブラウン運動させているのものは何なのだろう?それが確率的に振る舞う「量子的ゆらぎ」であり実体のあるものではないところが不思議だ。ゆらぎの背後にはシュレディンガーの波動関数が確かに息づいていることがわかる。
付属のサンプルファイルをいくつか実行してみた。パラメータに乱数を使っているからグラフを描くたびに違う模様が現れる。自由電子の単純なブラウン運動の軌跡は普通のランダムウォークだから目新しくはない。しかし、電子の二重スリット実験による干渉縞や、調和振動子、バリアー散乱、量子トンネル効果、水素原子の電子雲などが電子の軌跡として描かれる様子には驚かされた。実行結果を2つだけ紹介しておこう。
電子の二重スリット実験:
水素原子の電子雲(311軌道):
電子の二重スリット実験については有名な初心者向け説明動画(日本語字幕付き)がある。(ただしこの動画には批判記事もあるのでご注意いただきたい。)
量子力学のこれまでの枠組みでは「1つの電子は同時に2つのスリットを通り抜ける波動性をもつ」と考えられてきた。しかし確率力学での実行結果で考える限り、電子は上下のスリットのどちらか一方を通り抜けていたことになる。多世界解釈は否定されるのだろうか?
1989年に外村彰らによって行われた実験結果は次のページでご覧いただける。
二重スリットの実験(日立製作所)
http://www.hitachi.co.jp/rd/research/em/doubleslit.html
量子的ゆらぎをゼロにして電子を古典力学に従う形で実行するためのサンプルも用意されている。これは比較としてとても面白い。電子雲のサンプルファイルで描かれる電子は量子ゆらぎをゼロにするとケプラーの法則に従って運動を始めるのだ。(水素原子の古典軌道)
つまりネルソンの確率力学はニュートンの運動方程式がシュレディンガーの波動方程式と等価であることを示している。また、ボルンの確率解釈もこの第4の枠組から導かれるのだ。(本書91ページの記述を参照。)ただしニュートン力学と量子力学が等価になったからといって、すべてが解決したわけではない。「質量の起源」は依然謎のままである。
冒頭で述べた「予想していなかった新たな事実」については明かさないでおくことにしよう。実験をしてはじめてわかることというのもあるのだ。「古典的運動にゆらぎが加わった」では説明のつかない異質な現象が起きることがあるのだ。ぜひ本書で確認してみてほしい。
「目で見る美しい量子力学:外村彰」という記事で量子力学現象の視覚化について紹介したことがある。このように大規模な実験設備がなくても、Excelだけで仮想実験できてしまうのが本書のすごいところだ。
僕が試したのはシングルコア CPU Pentium 2.8GHz, メモリー2GBのWindows XP 32-bit, Excel 2007という環境だったが、それぞれ1Mバイト近くあるサンプルファイルは重たく、条件を変えてグラフを再描画させるのに30秒から1分くらいかかる。ディスクへのスワップもかなり起きていた。計算している間はハングアップしているのか計算中なのか判断がつかない。本書が出版された2001年当時のパソコンだとずっと重たかったことだろう。とはいえ僕のパソコンも2003年頃のスペックなわけだが。。。
参考:2001年頃の標準的なパソコンのスペック
http://prius.hitachi.co.jp/prius/pc/2001may/750u/index3.html
残念ながら本書は現在絶版のようである。格安のものが中古でアマゾンから数冊買えるだけだ。復刊ドットコムに登録しておいたので是非ご協力いただきたい。書店で立ち読みできない状態なので書いておくが、第1部は数式がかなりたくさんあるので抵抗感をお持ちの方は「ミクロの世界(九州大学)」レベルのサイトで目を慣らしてから注文するとよいだろう。
復刊ドットコム(Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫)
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=54269
確率力学について書かれた日本語書籍はほとんどない。比較的新しい理論であるためだと思うのだが、物理学者の間でどれくらい受け入れられているのか僕にはよくわからない。より深く学んでみたい方のために何冊か紹介しておこう。
保江先生による本:
確率論:保江邦夫(第18章の確率変分学の章の中で「平均微分」について解説している。)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e61db01708357715d1d758b5c1308f5
量子力学:保江邦夫(第15章から第17章が確率力学の解説に割かれている。)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/656d4a16c716a6add4884326e6efa2dd
確率力学を提唱したEdward Nelsonご自身による本。(洋書):
Dynamical Theories of Brownian Motion (1967)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/0691079501
Quantum Fluctuations (1985)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/0691083797
Diffusion, Quantum Theory, and Radically Elementary Mathematics (2006)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/0691125457
似たようなタイトルで次のような本が出ている。こちらは従来のように波動力学を使って量子力学の視覚化を行いながら学ぶ本なので本書と混同されないようご注意いただきたい。こちらはこちらで良さそうだ。
「Excelで学ぶやさしい量子力学:新田英雄、工藤知草」(この本の詳細)
最後にネルソンの確率力学のが手短かにわかるPDF資料を見つけたのでリンクを紹介しておこう。
量子ポテンシャル理論と確率力学(この資料の中には二重スリット実験での電子の軌跡がずっと鮮明にわかるシミレーション結果が掲載されている。)
http://wwwndc.jaea.go.jp/JNDC/ND-news/pdf76/No76-08.pdf
Nelson's Stochastic Quantization in Thermo Field Dynamics
http://www.riise.hiroshima-u.ac.jp/TQFT/ohp2010/kobayashi.pdf
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「Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫」
プロローグ:失われた自然観を求めて
第1部:量子力学百面相
- ヘルゴランド島=ハイゼンベルク
- 調和振動子
- 行列力学
- 行列を求める
- アルプバッハの夜=シュレーディンガー
- 波動力学
- 波動関数の意味
- ナッソー酒場の夜=ファインマン
- 波動関数の時間的変化
- 経路積分
- 空白の夜=ネルソン
- 確率力学の意義
- 確率力学での水素原子
- 電子のジグザグ運動
- ニュートンの運動法則の普遍化
- シュレーディンガー方程式
第2部:Excelで覗き見る量子の姿
- 確率力学の裏技
- はだかの量子の動き
- 自由運動をする電子
- 一様乱数
- 確率分布と確率法則
- 正規乱数
- 自由運動
- 量子力学における運動状態の重ね合わせ
- 量子力学の観測問題
- 確率力学における重ね合わせ
- 反対向きの自由運動の重ね合わせ
- 二重スリット実験
- バリアー散乱
- 量子トンネル効果
- 調和振動子
- 水素原子
- 水素原子の古典軌道
エピローグ:忘れもの
参考文献:
CD-ROMの使い方
さくいん
良い本を紹介していただき、ありがとうございました。ワクワクしながらあっという間に読んでしまいました。
確かにこれは量子力学の入門書ではありませんね。現在のタイトルを活かしてタイトルをつけるとするとしたら
「Excelで量子の世界を覗き見る確率力学入門」
あるいは
「Excelで量子の世界を覗き見る確率力学へのいざない」
あたりでしょうか。
ご参考までに。
とても参考になるページを紹介いただき、ありがとうございます。記事本文中に「注意」として追記させていただきました。