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ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元

2019年05月03日 17時53分19秒 | 物理学、数学
ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元」(Kindle版

内容紹介:
天才という呼称すら陳腐なものとする人物が歴史上には存在する。十九世紀、十代にして数学の歴史を書き替えたガロアは、まぎれもなくその一人だ。享年二十。現代数学への道を切り拓く新たな構想を抱えたまま、決闘による謎の死で生涯を閉じる。不滅の業績、過激な政治活動、不遇への焦りと苛立ち、実らなかった恋―革命後の騒乱続くパリを駆け抜けた、年若き数学者が見ていた世界とは。幻の著作の序文を全文掲載。

2010年12月1日刊行、293ページ。

著者について:
加藤 文元: HP: http://www.math.titech.ac.jp/~bungen/index-j.html
1968年、宮城県生まれ。東京工業大学理学院数学系教授。97年、京都大学大学院理学研究科数学数理解析専攻博士後期課程修了。九州大学大学院助手、京都大学大学院准教授などを経て、2016年より現職。著書『ガロア 天才数学者の生涯』『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』『数学する精神 正しさの創造、美しさの発見』(以上、中公新書)『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)、『天に向かって続く数』(共著日本評論社)など。

加藤先生の著書: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で409冊目。令和最初の紹介記事だ。

ひとつ前の記事「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃: 加藤文元」の中で、IUT理論の中で重要な役割を果たす「対称性」という性質。これを数学的に表すための「群」という概念を発見したのが19世紀初頭を生きた数学者ガロアである。20歳という若さで命を落としたこの天才の人生を知りたくなった。群論やガロア理論はすでに学んでいたし、ガロアの人生のあらましも知っている。伝記本はすでにいくつか刊行されている。加藤先生はどのような本を書かれたのだろうか?これが本書を読んだきっかけである。

中公新書は縦書きだから群論やガロア理論を解説する本ではない。書籍のほうはアマゾンでは品切れ中であるし、書店で実物を見たことがない。GW中ということもあり入手しやすいKindle版で読んでみた。新書だと300ページ近くあるから、そこそこ読み応えがある。

加藤先生はパリで学んでいらっしゃったこともあり、仕事で訪れることもしばしばあるそうだ。本書ではパリ郊外にあるガロアが生まれ育った村や墓、そして亡くなる前に住んでいたパリ市内のアパートを2010年2月に訪れたときに撮影された写真が冒頭で紹介されている。数学ファンであれば、著名な数学者の足跡をたどる旅は、さぞ楽しいことだろう。


ガロアが生まれたのは1811年、決闘の末に命を落としたのは1832年5月31日だ。1789年~1799年のフランス革命、ナポレオン1世の第1帝政が1814年にその退位で終わった後、フランスで復活したブルボン朝のルイ18世・シャルル10世の時代。七月革命が起こる1830年までの「復古王政」の時代にガロアが生きた時代は重なる。

復古王政は絶対王政を倒したフランス革命の揺り戻しであり、圧政の復活によってパリ市民は貧困にあえいでいた。パリ市内が汚物と悪臭に満ちていたおぞましい時代である。ビクトル・ユゴー作の小説『レ・ミゼラブル』で当時のパリの様子を知ることができる。

ガロアが生まれたのはパリ郊外のブール・ラ・レーヌという村だ。彼の父は地元の名士であり村長でもあった。実家で過ごす幼年期と少年期のガロアは順調に育ったが、リセに入学して寄宿舎生活を始めてからの生活は一変する。キリスト教の厳しい戒律に縛られた窮屈な生活は彼から自由を奪った。ガロアの父はやがて自殺に追い込まれ、その死が陰謀によってもたらされたものであることを知り、ガロアの人生に暗い影を落とす。

このように始まる本書は、当時のフランスの教育制度、リセでのガロアの生活、数学との出会い、エコール・ポリテクニークの入試に2度失敗したこと、エコール・プレパラトワールにお目こぼしで入学したことなど、エリート・コースから落ちていく不運続きのガロアの成長過程が物語として進行する。

章立ては次のとおりだ。

第1章 少年時代
第2章 数学との出会い
第3章 数学史的背景
第4章 デビューと挫折
第5章 一八三〇年
第6章 一八三一年
第7章 一八三二年


もちろんすべてが「不運」で片付けられるわけではない。ガロア自身にも非はあったし、その非が許されない厳しい学校規則、社会的背景があったのも事実だ。ガロアが精魂をつぎこんだのは、独自の数学理論だけであったし、それ以外の勉強にはまったく身が入らなかった。

彼が書いた論文の査読者は、当時の著名な数学者コーシーであったが、タイミングが悪くコーシーの亡命により論文は失われてしまった。アカデミーに再々提出した論文の査読者はフーリエであったが突然死してしまう。その後、論文の査読をしたポアソンは、論文の目的と意義をじゅうぶんに理解できなかった。ガロアのあまりの間の悪さに唖然とさせられる。

繰り返される不運と不幸は、父の死によって蒔かれた憎しみと反抗心の種を育てていった。学校での評価が悪くなるだけでなく、七月革命に結びつく政治運動への参加によって、警察からもマークされるまでに落ちていくのだ。決闘で命を落とす前には投獄されている。

他の科学者、数学者とガロアがいちばん違う点は、ガロアの論文はまったく一人だけで学び、書き上げたことにある。学校の授業での学びはほとんど役に立っていない。普通は所定の学業を終えた後、師のもとに弟子入りし、論文を書いて名を成していくのだから。短い人生の最後のたった数年間の独学だけで、彼は後の数学や科学に大きな影響を与える理論を構築してしまったのだ。

また本書にはガロアの時代に至るまでの数学史も概説されている。数学史の中で彼が成したことの意義が理解できるようにするためだ。もっと詳しく知りたい方は、加藤先生の著書「物語 数学の歴史―正しさへの挑戦 (中公新書) 」をお読みになるとよいだろう。

物語 数学の歴史―正しさへの挑戦(中公新書): 加藤文元」(Kindle版


本書の読みどころは第6章に書かれている「幻の著作の驚くべき序文」である。これを読むとガロアがその時代の数学者のはるか先を進んでいたこと、数学の未来をどのように見通していたかがわかり、「神がかっていたのではないか」とさえ思えてしまう。

そして、この類いまれな才能の対極として突然訪れたのが決闘の末の死である。生涯にたった一度の恋に破れ、おそらくその女性をめぐる何らかのトラブルがおきてしまった。経緯はいまだに謎なのだが、本書では3つの仮説(陰謀説、自殺説、恋愛説」とそれら3つの推理の妥当性が議論されている。決闘が合法の時代であったにせよ、あまりにも残念な結末だ。

20歳というのは当時であれ現代であれ若気の至り、熱くのめり込みやすい年齢だ。『レ・ミゼラブル』では革命で命を落としかけた青年マリユスには庇護者となるジャン・ヴァルジャンがいた。しかしガロアには手を差し伸べる大人、庇護する大人は最期のときまでいなかった。


この本をきっかけにPrime Videoで『レ・ミゼラブル(2012)』を見ることになった。革命を起こすまでに市民の生活が困窮していたことがよくわかる映画だ。たまたま帝国劇場でも上演中のようだ。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』
https://www.tohostage.com/lesmiserables/

さて、日本はどうだろうか?幕末の倒幕運動は武士が主体となったもので貧困が理由ではない。百姓一揆がフランスの歴史での革命にあたるのだろうが、国全体を動かすような一揆は一度もおきなかった。昨年から続いているフランス全土(やヨーロッパの)「黄色いベスト運動」のデモや警官隊との衝突の光景をニュースでみるとき、革命運動のDNAは今でもフランスの国民に息づいていると感じる。

平成から令和に変わり、天皇制は(一部の人を除いて)国民全体から支持されていることを強く感じた。天皇陛下が政治的実権を持たない日本では、与党による政治が今後の経済や外交を左右する。経済が縮小していくにつれて格差はさらに広がっていくことだろう。革命には至らなくても不満をもつ国民は増えていくに違いない。そうなってしまうのを食い止めるのは産業の回復であり、理工学を中心とした学問の発展だと思う。それを底から支える数学は、そして理工学のさまざまな分野に影響を与える群論は、線形代数や微積分に次いで若者が習得すべき必須教科だと僕は信じている。

本書は数式がまったくない本だから、どなたでもお読みになれる。ぜひご一読を!


関連書籍:

本書はガロアの伝記本だが、巻末には他のガロア伝記本が紹介されている。本書を書くにあたり加藤先生も参考にされた。本書を読むのがいちばんだと思うが、参考文献として紹介しておこう。

ガロアの時代 ガロアの数学 第一部 時代篇: 彌永昌吉」(シュプリンガー版
ガロアの時代 ガロアの数学 第二部 数学篇: 彌永昌吉」(シュプリンガー版
 


ガロアの生涯―神々の愛でし人: レオポルト・インフェルト
ガロア―その真実の生涯: デュピュイ
 

このほか「数学をつくった人びと: E.T. ベル」にガロアの伝記が含まれている。このベルの本やインフェルトの本はかなりフィクション化されているそうだ。


ガロア理論はすでに3冊で学んでいる。数学本として僕が気になっているのはこの本だ。

ガロアの夢―群論と微分方程式: 久賀道郎



ガロアの遺書は日本語に翻訳されており、次の専門書で読むことができる。

アーベル/ガロア 楕円関数論 (数学史叢書)



関連記事:

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃: 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f77f5bd8e1b3c96acd62fba729dc9b4e

数学する精神―正しさの創造、美しさの発見: 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d706bf3aeba7eb5fe876b55b8a8496c

天に向かって続く数: 加藤文元、中井保行
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3d059b0a114b4bd712291a7fb81269e5

ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be7d2e4dbc9a86966cad1356025d4525

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

代数系入門: 松坂和夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055c0887eb88f94bceb53b859524c952


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ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元」(Kindle版


はじめに

第1章 少年時代
- ガロアとその家族
ガロアの生きた時代、ガロア家、ドマント家、ガロア生まれる、ガロア村長、ガロアの生地ブール・ラ・レーヌ
- リセでの生活
フランスの教育制度、ナポレオンの教育改革、リセ「ルイ・ル・グラン」、その学校生活、一八三四年一月二十八日の事件、学生たちの態度、<優等生>ガロア、ラボリー校長の意見

第2章 数学との出会い
- 数学者ガロア誕生
メートル法とルジャンドル、数学との出会い、幾何学の芸術的世界
- ルジャンドル『幾何学原論』
過渡期の著作、初等幾何学の<エスプリ>、新しい感性と伝統的形式美融合
- 数学への渇望
孤独な数学少年、<不良少年>ガロア

第3章 数学史的背景
- エコール・ポリテクニーク
科学技術専門の高等教育機関、数学基礎教育の重要性、ナポレオンの庇護
- 西洋数学の流れ
西洋数学史のエポック、西洋数学の源流、十二世紀ルネッサンス、十七世紀--西洋数学の本格的始動、十八世紀と十九世紀革命、ガロアの位置
- 方程式を解く
代数方程式とは、同じようには解けない、根の置換、不可能性の証明、ニールス・ヘンリック・アーベル

第4章 デビューと挫折
- <数学者ガロア>デビュー
間違い、最初のエコール・ポリテクニーク受験、リシャール先生、最初の成果、決定的な結果、アカデミーに提出、コーシーの反応、コーシーの判断
- 二つの不幸
父の死、葬列、エコール・ポリテクニーク再受験、その経緯、世間の反応
- エコール・ノルマル入学
リシャール先生との関係、エコール・プレパラトワール、入学までの経緯、特別扱い、試験の答案、バカロレア問題、リセのガロア

第5章 一八三〇年
- 七月革命
パリの市壁、関の酒場、騒乱の火種、七月勅令、<栄光の三日間>、七月王政
- 革命の傍らで
矢継ぎ早の論文発表、フーリエの死、革命・監禁、ギニョー校長の転身
- 放校
オーギュスト・シュヴァリエとサン・シモン主義、「人民の友社」、ある投書、放校処分、学友たちの反応

第6章 一八三一年
- 三度目の論文
七月体制初期のパリ、ガロア数学塾、アカデミーへの再々提出、提出直後の経緯
- 『ルイ・フィリップに乾杯!』
国家警備砲兵隊、乾杯事件、公判
- 獄舎の中で
再び逮捕、サン・ペラジー監獄、ラスパイユの獄中記、魂の叫び、銃声事件、焦燥の日々、幻の著作の驚くべき序文
- ガロアの黙示録
千八三一年の論文、「構造主義的」視点、対称性<だけ>が重要、本当に<理解不能>だったのか?、「難しさ」を記述する、ガロアの黙示録、「曖昧の理論」、ガロアの夢

第7章 一八三二年
- 恋愛事件
病めるパリ、フォートリエ療養所、破局、破かれた手紙、
- 決闘
ガロアの死の謎、決闘の歴史、遺書、決闘、陰謀説、自殺説、恋愛説、その後

あとがき
参考文献
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2 コメント

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他説 (hirota)
2019-05-04 13:36:00
ガロアの決闘は陰謀説しか知らなかったけど、他の説があったのね。
でも、あまりの運の悪さを見ると陰謀なしでも納得。
悪運のおすそ分けで人類絶滅しそうだ。
返信する
Re: 他説 (とね)
2019-05-04 13:49:30
hirotaさんへ

決闘の相手はガロアが加わった「人民の友社」という政治団体にいた男のようです。
本書の解説では「恋愛説」が有望でした。ガロアは告白した女性から断りの手紙を受け取って嘆いていたのですが、その後、何かあったのかもしれませんね。若い男女の間のこと、政治団体に入るような正義感が強い若者どうしのことなので、何がおきても不思議ではありません。

> あまりの運の悪さを見ると陰謀なしでも納得。

同感です。当時の決闘だと死亡するのは6人に1人だそうです。ガロアは決闘のルールに従って25メートルの距離から撃たれたそうです。この距離で当たってしまったのだから、不運に違いありません。
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