とね日記

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「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット

2019年03月09日 17時27分46秒 | 小説、文学、一般書
「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット

内容紹介:
2010年の夏、87歳のルース・S・ガネットさんが来日されました。あんなに素敵な本は、どうして生まれたのだろう?ガネットさんは、どんな子どもだったのだろう?通訳をしていた前沢明枝さんは、ガネットさんにインタビューをします。そこからわかったのは…?ガネットさんが初めて書いたエルマーの手書きの原稿など、写真も一杯です。さあ、一緒に「『エルマーのぼうけん』が生まれるまで」を楽しんでください!

2015年11月20日刊行、184ページ。

著者について:
前沢明枝(まえざわ あきえ): ウィキペディアの記事
アメリカのウェスタンミシガン大学で英米児童文学、ミシガン大学院で言語学を学ぶ。帰国後は海外の絵本や児童文学の紹介・翻訳をし、絵本を題材に比較文化の研究を続ける。
翻訳絵本に『みっつのねがい』『ピンクだいすき』(以上福音館書店)、『いつか空のうえで』(小学館)など多数がある。東京都在住。

前沢さんの訳書、著書: Amazonで検索


小学生のときに熱中して読んだ児童書「エルマーのぼうけんシリーズ3冊」は昨年9月に「「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット」という記事で紹介した。この作品は2人の妹にとってもお気に入りだった。この本が書店に相変わらず並んでいるのを見ると、親から子へ、そして孫へと読み継がれている名作だとわかる。昨年は英語版で読み直していた。

原作者のルース・S・ガネットさんは現在95歳である。昨年8月にはガネットさんを招いてイベントが行われた。

【紀伊國屋ホール】 「エルマーのぼうけん」原作者ルース・S・ガネットさん 来日記念パネルディスカッション(2018年8月4日)
https://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20180706100000.html

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当日のレポート: ページを開く

「エルマーのぼうけん」シリーズ:福音館書店のページ
https://www.fukuinkan.co.jp/ninkimono/detail.php?id=4


子供のころ読んだときにも原作者のことは気になっていたが、英語版を読んでますます気になってきた。ということで翻訳家の前沢明枝さんがお書きになった原作者ガネットさんの伝記「「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット」を読むことにしたわけだ。

章立ては次のとおり。

第1部 『エルマーのぼうけん』が生まれるまで

むかしむかし…ちいさなルーシー
ルーシー 学校へ行く
ルーシー ハイスクールへ行く
ルーシー 大学へ行く
エルマーの物語のたんじょう
『エルマーのぼうけん』本になる

第2部 イサカの町で―今のガネットさん


生まれて間もないころから子供時代、少女時代をへて現在に至るまでの写真、子供の頃に書いた物語、家族写真、エルマーのぼうけんの原稿など、貴重な写真が載せられている。この自伝をお書きになった前沢さんは、長時間にわたってガネットさんをインタビューし、どのような人生を送ってきたかをガネットさん自身が語るスタイルで1冊の本にまとめた。小学生でも読みやすいように、ひらがな表記を多めにしている。

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ガネットさんの両親は2人も職業につていた。1920年代に女性が仕事をするというのはアメリカであっても、とても珍しいことで、ともに雑誌記者をしていた両親のもとで恵まれた幼少期をすごされていた。

ところが両親はガネットさんが5歳のときに離婚をしてしまう。父親と母親の家を行き来する生活の中でも、彼女はすくすくと育っていった。幼少期からお話をつくるのが好きな少女だった。そして10歳のとき父親が再婚。この新しい母は当時活躍していた挿絵画家で、後に『エルマーのぼうけんシリーズ3冊』の挿絵を描くことになるルース・クリスマン・ガネットさんである。3人の親を持っていたことについて、ガネットさんは肯定的にとらえている。

愛情に恵まれ、自分で考え、みずから実践するという教育の中でガネットさんは情緒豊かに育っていった。怪我をした動物を見ると助けずにはいられず、小学校でも盗みを働いた新入りの転校生をどのようにしたら仲間になってもらえるかを、友達とたっぷり時間をかけて考えていた。そのような彼女の資質は他人への思いやり、思春期から20代前半にかけておこる第二次世界大戦中のユダヤ人差別への反感としてあらわれることになる。22歳で結婚した相手はユダヤ人男性だ。

いちばんの読みどころは、もちろん「エルマーのぼうけん」を書き始める頃のことである。この伝記本を読んでいると、エルマーの物語にでてくる地名や果物、食べ物がなぜそうなったのか、なぜりゅうやその家族を助ける話なのか、2冊目の「エルマーとりゅう」がなぜカナリヤを助ける話なのか、3冊とも最後では家に帰ってお父さん、お母さんにあたたかく迎えられる場面で終わるのかがわかるようになる。


インタビューを終え、現在のガネットさんの生活ぶりを紹介する第2部が、また面白い。著者の前沢さんは年齢不詳だが、1996年頃から翻訳書を出されていることからみてガネットさんには孫の世代だと思う。そのような前沢さんがガネットさんが運転するクルマに乗り、雪道で動けなくなったときの顛末、自宅前にゴミを不法投棄しようとした強そうな若者をガネットさんが叱りつける話など、前沢さんがじかに見て驚いたガネットさんの姿がとても頼もしかった。現代女性が身につけていない、筋を通す昔かたぎの生き方を大切にお守りになっている。

なお、ガネットさんは「理系」であることを強調しておこう。大学での専攻は化学、卒業はボストン市立病院にあるソーンダイク記念研究所の研究員として勤務された。この研究所では病気の治療方法の効き目を試験したり、予防法を確認などを行っていた。


本書は「エルマーのぼうけんシリーズ3冊」を読んでからお読みになるほうが楽しめると思う。ぜひお読みいただきたい。


ご自身の思い出の発掘、お子さんへの読み聞かせのため、大切な人への贈り物として日本語版をお買い求めになる方は、ハードカバーの本をこちらからどうぞ。日本語版の初版が刊行されたのは1963年から1965年にかけてのことだ。

エルマーのぼうけん」(Kindle版
エルマーとりゅう」(Kindle版
エルマーと16ぴきのりゅう」(Kindle版
  


3冊セットだと次のものが買える。1冊ずつ買うより少し安くなる。

エルマーのぼうけんセット


3冊セットには「愛蔵版」というのを見つけた。少し高いのでコレクター向きだ。

愛蔵版 エルマーのぼうけんセット



英語版は版型が違うものが発売されているのでご注意いただきたい。次の3冊は出版社が同じで版型を揃えることができる。ソフトカバーの本だ。僕が買ったのはこの組み合わせである。英語版の初版が刊行されたのは1948年から1951年にかけてのことだ。

My Father's Dragon
Elmer and the Dragon
The Dragons of Blueland
  

英語版には3冊合本版がある。こちらはハードカバー。Kindle版としても購入できるのがうれしい。

Three Tales of My Father's Dragon」(Kindle版



伝記本と3冊のエルマー本を贈り物用にラッピングしたらこうなった。(3月13日に追記)

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本の読み聞かせ動画

「エルマーのぼうけん」シリーズの日本語と英語の読み聞かせ動画がYouTubeにアップされている。英語のほうはリスニングの練習にちょうどよい。

エルマーの冒険: 再生リスト


エルマーとりゅう: 再生リスト


エルマーと16ぴきのりゅう: 再生リスト



My Father Meets the Cat: 再生リスト1 再生リスト2


My Father's Dragon - Free AudioBooks Full Length



関連記事:

「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d7e850de5b1469a8a99e88d00e177699

トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8f1223f0242059f6d3a9abe61c26e85

だれも知らない小さな国: 佐藤さとる、村上勉
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9297ca496ec1f4069614e2452b28a8ef

だれもが知ってる小さな国(コロボックル物語):有川浩、村上勉
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ca8ad5b02a398bbafad942587907bc92


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「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット


第1部 『エルマーのぼうけん』が生まれるまで

むかしむかし…ちいさなルーシー
- インタビューのはじまり
- お母さんとルシール
- ひとりでできる!
- お話だいすき
- お父さん家を出る
- お父さんとドライブ

ルーシー 学校へ行く
- ちょっと変わった小学校
- いたずら
- 考えて考えて
- お父さんの再婚
- こびと村
- ひとりの旅、船の旅

ルーシー ハイスクールへ行く
- 初めての寮生活
- 社会のために

ルーシー 大学へ行く
- 冒険旅行
- クマを救え!
- 戦争
- お父さんたんじょう日

エルマーの物語のたんじょう
- 研究所からレストランへ
- 『エルマーの冒険』のはじまりはじまり

『エルマーのぼうけん』本になる
- エルマーの物語完成
- 家内工業
- 『エルマーのぼうけん』の受賞と七人の子ども
- ルーシーの夢

第2部 イサカの町で―今のガネットさん
- イサカの家
- しかる人
- 雪のなかのドライブ
- 寄付

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2 コメント

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エルマー (冬野)
2019-03-10 21:24:50
「エルマー」シリーズは長男が小学3年の時に3冊とも読み聞かせしていました。
ところで『クローディアの秘密』を書いたE・L・カニグズバーグ(Elaine Lobl Konigsburg)も大学で化学専攻ですね。
私が小学生の頃に好きだったのは「きかんしゃ1414」と「チョンドリーノ君の不思議な冒険」でした。
返信する
Re: エルマー (とね)
2019-03-11 00:38:13
冬野様

お子さんへの読み聞かせとかもなさっていたのですね。とても大切なことだと思います。

『クローディアの秘密』、『きかんしゃ1414』、『チョンドリーノ君の不思議な冒険』は読んだことがありませんが、『クローディアの秘密』をアマゾンで家訓人したところ、いかにも理系のアイデアが盛り込まれていそうな本だと思いました。

そういわれてみるとエルマーのシリーズも、救出のために準備する物の数、食べ物の数など「数」や段取りにこだわりがあるなぁと今になって気がつきました。これらも理系的発想だと思います。
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