「理論物理学のための幾何学とトポロジー I [原著第2版]」
「理論物理学のための幾何学とトポロジー II [原著第2版]」
内容紹介:
本書は1986年冬期にSussex大学数理物理科学教室で行った講義をもとに、その内容を大幅に進展させたものである。その際の聴衆は大学院生及び素粒子論、物性物理学あるいは一般相対論を専門とする当教室のメンバーであった。講義はインフォーマルな雰囲気の中で行われたが、本書においても出来うる限りこの点を守るように心がけた。定理の証明はそれが教育的であるものに限って与え、極端にテクニカルなものは省略した。省略した場合は定理の内容が確証できるようにいくつかの例を与えることにした。また、図を出来るだけ多く挿入することで、内容に関する具体的なイメージが把握できるように読者の便宜をはかった。
IIの第9章から第12章ではトポロジーと幾何学を統一的に扱い、第13章と第14章は現在盛んに研究されている物理学の分野におけるトポロジーと幾何学の最も魅力ある応用となっている。
理論物理学を学ぶ際に必須な現代数学のエッセンス。物理学に広く応用されるトポロジーと幾何学を解説。経路積分の説明を補い、内容を再編成した。数学的な補足も充実。
I: 2018年11月27日刊行、400ページ
II: 2021年9月18日刊行、264ページ
著者:
中原幹夫(なかはら みきお)
プロフィール:https://ss.scphys.kyoto-u.ac.jp/TQP/member/profile/profile_b01_nakahara.html
1981年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1983年イギリスロンドン大学数学Diploma課程修了。1981-82年南カリフォルニア大学物理学科研究員。1983-85年カナダアルバータ大学物理学科研究員。1985-86年イギリスサセックス大学数学物理教室研究員。1986-93年静岡大学教養部助教授。1993-99年近畿大学理工学部数学物理学科助教授。現在、近畿大学理工学部数学物理学科教授、理学博士。
通称「中原トポ」として知られる名著である。I巻が発売されたままII巻の発売を長い間待っていた。待望のII巻がようやく発売されたので発売情報記事を書いておこう。
勉強をする時間がなかなかとれないうちに、次々と良書、名著が刊行されていく。本書の旧版は2014年に読み、詳しい紹介記事を書いているので、新版との差分が気になるところだ。旧版の紹介記事は、下のほうの「関連記事:」からたどっていただきたい。
旧版は長らく絶版状態が続き、一時期転売屋が異様な高値で販売していた。このように不健全な状態が解消できたという意味でも、今回の新版刊行は物理学徒にとって喜ばしい限りである。
科学に馴染みのない一般の方に、この教科書で何が解説されているかを説明するとすれば、次のようになる。
高校までに幾何学では3次元空間内の図形の性質を学ぶが、大学や大学院以上では4次元以上、曲がったり伸び縮みする空間、複素数の座標軸をもつ空間、距離の概念を外したり穴が開いたりしているトポロジーの空間やそれらの空間にある形やそのつながり方を研究するようになる。トポロジーは位相幾何学とも呼ばれ、「距離」という概念を取り除き、形と形のつながり方だけに注目し、その一般的な性質を研究する分野である。
私たちの視覚や直観ではとらえることができない抽象化(一般化)された空間や図形がもつ性質、その抽象的な世界で普遍的に成り立つ定理を学ぶのが現代幾何学だ。これは純粋に数学の世界だけで成立している理論的な構築物である。
私たちは3次元空間やその中になる物の形を視覚を使って認識している。けれども全盲の視覚障碍者は、聴覚や歩き回るなどの運動を通じてそれらを把握する。視覚や直観ではとらえられない抽象的な空間、幾何学を研究する数学者は、いわば視覚障碍者に例えることができる。視覚や直観は頼りにすることができないから、数学者は論理的な思考、演繹など数学的な手段を手掛かりとして抽象的な幾何学がもつ性質を発見し、定理を証明しながら研究を進めていくのである。
しかし、これら純粋に数学の世界だけで証明され、発展してきた幾何学の理論や定理が、相対性理論、量子物理学、素粒子物理学、超弦理論など現代物理学で明らかにされてきたさまざまな法則と結びつき、物理法則の正当性を裏付けていることがわかってきた。この教科書は抽象的な現代幾何学を紹介し、現代物理学の法則との結びつきを解説した本なのである。
すでに発売されているI巻と合わせて購入される方は、このリンクを開いてほしい。
「理論物理学のための幾何学とトポロジー I [原著第2版]」
「理論物理学のための幾何学とトポロジー II [原著第2版]」
旧版との差分を目次レベルで比較してみた。左が旧版、右が新版の目次である。第9章からがII巻である。新版では各章に「補足」が追加されているから旧版をお読みの方でも新版はじゅうぶん買う価値があると思う。
今回発売された原書第2版は、もともと英語版が先に書かれている。英語版はKindle書籍でもお買い求めいただける。
「Geometry, Topology and Physics 2nd Edition (Paperback): Mikio Nakahara」(Hardcover)(Kindle版)
関連記事:
理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef0b2fcb7c87aabfcd68bbe2a567840e
理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fd93716929786316ee234a66ec4d32b
ゲージ理論とトポロジーの年表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1050f5ac88c40f83f566ba52c142c565
「理論物理学のための幾何学とトポロジー II [原著第2版]」
内容紹介:
本書は1986年冬期にSussex大学数理物理科学教室で行った講義をもとに、その内容を大幅に進展させたものである。その際の聴衆は大学院生及び素粒子論、物性物理学あるいは一般相対論を専門とする当教室のメンバーであった。講義はインフォーマルな雰囲気の中で行われたが、本書においても出来うる限りこの点を守るように心がけた。定理の証明はそれが教育的であるものに限って与え、極端にテクニカルなものは省略した。省略した場合は定理の内容が確証できるようにいくつかの例を与えることにした。また、図を出来るだけ多く挿入することで、内容に関する具体的なイメージが把握できるように読者の便宜をはかった。
IIの第9章から第12章ではトポロジーと幾何学を統一的に扱い、第13章と第14章は現在盛んに研究されている物理学の分野におけるトポロジーと幾何学の最も魅力ある応用となっている。
理論物理学を学ぶ際に必須な現代数学のエッセンス。物理学に広く応用されるトポロジーと幾何学を解説。経路積分の説明を補い、内容を再編成した。数学的な補足も充実。
I: 2018年11月27日刊行、400ページ
II: 2021年9月18日刊行、264ページ
著者:
中原幹夫(なかはら みきお)
プロフィール:https://ss.scphys.kyoto-u.ac.jp/TQP/member/profile/profile_b01_nakahara.html
1981年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1983年イギリスロンドン大学数学Diploma課程修了。1981-82年南カリフォルニア大学物理学科研究員。1983-85年カナダアルバータ大学物理学科研究員。1985-86年イギリスサセックス大学数学物理教室研究員。1986-93年静岡大学教養部助教授。1993-99年近畿大学理工学部数学物理学科助教授。現在、近畿大学理工学部数学物理学科教授、理学博士。
通称「中原トポ」として知られる名著である。I巻が発売されたままII巻の発売を長い間待っていた。待望のII巻がようやく発売されたので発売情報記事を書いておこう。
勉強をする時間がなかなかとれないうちに、次々と良書、名著が刊行されていく。本書の旧版は2014年に読み、詳しい紹介記事を書いているので、新版との差分が気になるところだ。旧版の紹介記事は、下のほうの「関連記事:」からたどっていただきたい。
旧版は長らく絶版状態が続き、一時期転売屋が異様な高値で販売していた。このように不健全な状態が解消できたという意味でも、今回の新版刊行は物理学徒にとって喜ばしい限りである。
科学に馴染みのない一般の方に、この教科書で何が解説されているかを説明するとすれば、次のようになる。
高校までに幾何学では3次元空間内の図形の性質を学ぶが、大学や大学院以上では4次元以上、曲がったり伸び縮みする空間、複素数の座標軸をもつ空間、距離の概念を外したり穴が開いたりしているトポロジーの空間やそれらの空間にある形やそのつながり方を研究するようになる。トポロジーは位相幾何学とも呼ばれ、「距離」という概念を取り除き、形と形のつながり方だけに注目し、その一般的な性質を研究する分野である。
私たちの視覚や直観ではとらえることができない抽象化(一般化)された空間や図形がもつ性質、その抽象的な世界で普遍的に成り立つ定理を学ぶのが現代幾何学だ。これは純粋に数学の世界だけで成立している理論的な構築物である。
私たちは3次元空間やその中になる物の形を視覚を使って認識している。けれども全盲の視覚障碍者は、聴覚や歩き回るなどの運動を通じてそれらを把握する。視覚や直観ではとらえられない抽象的な空間、幾何学を研究する数学者は、いわば視覚障碍者に例えることができる。視覚や直観は頼りにすることができないから、数学者は論理的な思考、演繹など数学的な手段を手掛かりとして抽象的な幾何学がもつ性質を発見し、定理を証明しながら研究を進めていくのである。
しかし、これら純粋に数学の世界だけで証明され、発展してきた幾何学の理論や定理が、相対性理論、量子物理学、素粒子物理学、超弦理論など現代物理学で明らかにされてきたさまざまな法則と結びつき、物理法則の正当性を裏付けていることがわかってきた。この教科書は抽象的な現代幾何学を紹介し、現代物理学の法則との結びつきを解説した本なのである。
すでに発売されているI巻と合わせて購入される方は、このリンクを開いてほしい。
「理論物理学のための幾何学とトポロジー I [原著第2版]」
「理論物理学のための幾何学とトポロジー II [原著第2版]」
旧版との差分を目次レベルで比較してみた。左が旧版、右が新版の目次である。第9章からがII巻である。新版では各章に「補足」が追加されているから旧版をお読みの方でも新版はじゅうぶん買う価値があると思う。
今回発売された原書第2版は、もともと英語版が先に書かれている。英語版はKindle書籍でもお買い求めいただける。
「Geometry, Topology and Physics 2nd Edition (Paperback): Mikio Nakahara」(Hardcover)(Kindle版)
関連記事:
理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef0b2fcb7c87aabfcd68bbe2a567840e
理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fd93716929786316ee234a66ec4d32b
ゲージ理論とトポロジーの年表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1050f5ac88c40f83f566ba52c142c565