NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

仮想の狭間(5)

2010-04-13 11:31:05 | 仮想の狭間
真理は朝遅い時間に出勤する夫を送り出すと、掃除をして、手芸の集まりのためにリビングのテーブルの周りにイスを並べた。
庭の花を切ってガラスの花瓶に挿し、その置き場所に迷った。
玄関には真理の作ったクロスステッチのスミレの刺繍が額に入れられて掛けてある。
真理は満足げにその刺しゅうを見て、下の靴箱の上に先程の花瓶を置いた。
一人だけの簡単な昼食を済ませると、今日の集まりに出す紅茶の用意を始めた。
食器棚から紅茶カップを人数分だけ出していたが、「めぐみさんは来るかしら。」と出したカップとソーサーを一人分また戻した。

午後2時前に、いつもの明るい笑顔で美代子がやってきた。
色とりどりのキャンディーの入った小さなバスケットを持っている。
続いて秋絵と百合子が二人で転げるように玄関に入って来て、花瓶の花が美しいと褒めている。
差し入れは秋絵がケーキ類で、百合子がクッキー、美代子は近くの店で買ってきたものと大体決まってきた。
真理は部屋を提供しているので、紅茶かコーヒーを出している。
「めぐみさん、今日も来ないのかしら。」
秋絵が心配顔で誰にともなく言うと、
「今日は何も連絡なかったわ。」
と真理が答えた。
すると美代子がいつもの得意げな顔をして話し出した。
「あら! みんな知らなかったの?
この前話したダンスに通っている私の友達、めぐみさんと同じ教室で習っているって言ってたでしょう。
その人の話では、めぐみさんも 7つ年下の彼も二人とも最近はダンスに顔を見せていないそうよ。
二人で何処かへ行ってしまったのではと、もっぱらの噂らしいわ。」
「かけ落ち?」
百合子が遠慮がちに美代子に訊ねた。
「そうかもしれないわね。
彼女の家の雨戸が閉まったままなのよ。
彼女はそれで良いかもしれないけれど、彼の方には奥さんや二人の子供がいるんだから、夫がいなくなったら大変よ。」
「もし駈け落ちなら、彼は無責任すぎるわね。
ただの浮気では済まされないでしょう。
親としての責任をどう思っているのかしら。」
真理は本気で怒っている。
みんな めぐみの恋の行方に興味が向かって、趣味の手は動いていいない。
秋絵が突然言い出した。
「私たちは本当の恋にならないように気を付けましょうね。」
「ふふ そうね。」と
真理が応えたので、百合子も美代子も怪訝そうな顔で秋絵と真理を見つめた。
「いえ、何でもないのよ。
ほら、この前コミュニティーサイトに入っているって話したでしょう。
あそこのメンバーの男性の中には、冗談で甘いメールをしてくる人がいるのよ。」
真理が誤解されては大変と弁解したが、美代子に対しては逆効果であった。
「えっ! 甘いメールってどんなメール?
それであなた達は返信メールをどう書いているの?」
と矢継ぎ早に質問してきた。
「だって相手はどんな人か分からないし、本当に男性なのかも分からないから、こちらも冗談で甘いメールを返したり、無視したりで。
単なる言葉遊びなのよ。」
美代子にどこで誰に伝えられるか分からないと、秋絵はつまらない話を出したと後悔した。


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