四日後に大きな段ボールに入ったカーテンが届いた。
厚手のカーテン全てを取り替えると、見違えるように家の中が明るくなった。
やっぱりこのカーテンに変えて良かったと、百合子は亮太のことを忘れさせるほど心が晴れ晴れとしていた。
土曜日も出勤し、毎晩遅くに帰り、朝慌ただしく家を出て行く壮介は、まだカーテンに気付いていない。
日曜日に壮介は遅く起きてきた。
リビングの窓際で庭のヒマワリを見ながら、手を上げて大きく深呼吸をした。
そのとき新しいカーテンが壮介の目に入った。
ダイニングにも行って窓を見るとここのも新しくなっている。
「いつカーテンを替えたんだ?」
「あら、もう三日も前よ。
前のカーテンは暗いし、もう汚れていたから、家中のを替えたの。」
「家中だって!
そんなに汚れているようには見えなかったけど。
それでいくら掛かったんだ?」
「30万円よ。」
「なんだってそんな無駄遣いをするんだ。
汚れていればクリーニングをすればいいだろう。
亮太の進学の費用も要ることだし。」
「30万円くらいかまわないでしょう。
それで家の中が綺麗になれば、何も無駄遣いじゃないわ。」
「俺の勤めている会社が今、大変なのは分かっているだろう。
この冬のボーナスもグンと減るだろうし、給料だって減るかもしれないのに。」
せっかく晴れ晴れとした気分になっていた百合子は、また気が滅入ってしまった。
翌日は手芸の集まりの日だが、クッキーを焼く気力もない。
気晴らしに思いっきり派手な服を着て行こうと、昨年ネットのオークションで買って派手過ぎて着ていなかった、ハワイアン風の白地に赤と緑の大きなハイビスカス柄のミニワンピースを着て、その下に細いジーンズをはき、差し入れも持たずに真理の家に向かった。
途中で出会った人が振り返って見ているような気がする。
真理の家にはもう秋絵も美代子も来ていた。
自分の服装が派手な柄なのを気にしていた百合子は皆の服装を見て驚いた。
美代子は何時も派手だが、モノトーンの服に拘っていた秋絵が、今日はどうしたことかショッキングピンクのTシャツに、黒地に黄色い柄のあるパンツをはいている。
おまけに厚化粧をしていて、パープルのアイシャドウをしっかり塗ってアイラインまで引いているではないか。
目を丸くしている百合子に、
「秋絵さんには驚いたでしょう。」
そう言う真理まで、胸の大きく開いたフリルのついた真っ赤なブラウスを着ている。
「ここは姥桜の狂い咲きが満開ね。」
そう言って美代子が大口を開いて笑いだした。
それにつられて皆もお互いの服を批評しながら笑った。
秋絵も真理も何か心の変化があったのだろうか、とそっと二人の顔をうかがった。
しかし彼女たちは自分のように、抱えている心の辛さの裏返しではなく、二人とも普段より饒舌で本当に楽しいことがあるように思える。
「百合子さん、冴えない顔をしているけど、何か悩みでもあるの?」
真理が百合子の顔の表情を読み取った。
「息子が携帯ばかりして、勉強に身が入らないようなので、少し注意をしたら反抗して何も話さなくなってしまったんです。」
「その年頃は大抵の男の子がそうじゃないかしら。亮ちゃんは少し遅い方よ。
うちの息子なんか中学から高校まで、『別に。』とか『うるさい。関係ねえだろう。』としか言わなかったわよ。
でも大学生になったら、急に優しくなったわ。男の子って扱い難いわね。」
「真理さんの息子さんもそうでしたか。」
「うちの息子の時代は、まだそれほど携帯電話が流行っていなかったから、そちらの心配はなかったけど、お友達に変な人がいなければ大丈夫だと思うわ。
もう少しそっと様子を見守ってあげては?」
とりとめのない話題に花を咲かせるこの集まりは、百合子にとって家での鬱憤を晴らす場にもなっている。
幾分軽くなった気持ちで家に帰った百合子は、いつものようにパソコンの前に座った。
ブログに書き込みをしていたが、気が付けばいつのまにか通販の画面を出していた。
昨日夫にカーテンのことで叱られたので、腹いせに値段の高い靴でも買いたいところだが気持ちを抑えた。
壮介の帰りが遅いので、夕飯は亮太と二人でとることが多い。
今日も食事中に亮太の携帯が何度も鳴っている。
その度に食事を中断してメールを返す息子に注意をしたいが、これ以上悪い関係になるのが怖くて何も言えない。
厚手のカーテン全てを取り替えると、見違えるように家の中が明るくなった。
やっぱりこのカーテンに変えて良かったと、百合子は亮太のことを忘れさせるほど心が晴れ晴れとしていた。
土曜日も出勤し、毎晩遅くに帰り、朝慌ただしく家を出て行く壮介は、まだカーテンに気付いていない。
日曜日に壮介は遅く起きてきた。
リビングの窓際で庭のヒマワリを見ながら、手を上げて大きく深呼吸をした。
そのとき新しいカーテンが壮介の目に入った。
ダイニングにも行って窓を見るとここのも新しくなっている。
「いつカーテンを替えたんだ?」
「あら、もう三日も前よ。
前のカーテンは暗いし、もう汚れていたから、家中のを替えたの。」
「家中だって!
そんなに汚れているようには見えなかったけど。
それでいくら掛かったんだ?」
「30万円よ。」
「なんだってそんな無駄遣いをするんだ。
汚れていればクリーニングをすればいいだろう。
亮太の進学の費用も要ることだし。」
「30万円くらいかまわないでしょう。
それで家の中が綺麗になれば、何も無駄遣いじゃないわ。」
「俺の勤めている会社が今、大変なのは分かっているだろう。
この冬のボーナスもグンと減るだろうし、給料だって減るかもしれないのに。」
せっかく晴れ晴れとした気分になっていた百合子は、また気が滅入ってしまった。
翌日は手芸の集まりの日だが、クッキーを焼く気力もない。
気晴らしに思いっきり派手な服を着て行こうと、昨年ネットのオークションで買って派手過ぎて着ていなかった、ハワイアン風の白地に赤と緑の大きなハイビスカス柄のミニワンピースを着て、その下に細いジーンズをはき、差し入れも持たずに真理の家に向かった。
途中で出会った人が振り返って見ているような気がする。
真理の家にはもう秋絵も美代子も来ていた。
自分の服装が派手な柄なのを気にしていた百合子は皆の服装を見て驚いた。
美代子は何時も派手だが、モノトーンの服に拘っていた秋絵が、今日はどうしたことかショッキングピンクのTシャツに、黒地に黄色い柄のあるパンツをはいている。
おまけに厚化粧をしていて、パープルのアイシャドウをしっかり塗ってアイラインまで引いているではないか。
目を丸くしている百合子に、
「秋絵さんには驚いたでしょう。」
そう言う真理まで、胸の大きく開いたフリルのついた真っ赤なブラウスを着ている。
「ここは姥桜の狂い咲きが満開ね。」
そう言って美代子が大口を開いて笑いだした。
それにつられて皆もお互いの服を批評しながら笑った。
秋絵も真理も何か心の変化があったのだろうか、とそっと二人の顔をうかがった。
しかし彼女たちは自分のように、抱えている心の辛さの裏返しではなく、二人とも普段より饒舌で本当に楽しいことがあるように思える。
「百合子さん、冴えない顔をしているけど、何か悩みでもあるの?」
真理が百合子の顔の表情を読み取った。
「息子が携帯ばかりして、勉強に身が入らないようなので、少し注意をしたら反抗して何も話さなくなってしまったんです。」
「その年頃は大抵の男の子がそうじゃないかしら。亮ちゃんは少し遅い方よ。
うちの息子なんか中学から高校まで、『別に。』とか『うるさい。関係ねえだろう。』としか言わなかったわよ。
でも大学生になったら、急に優しくなったわ。男の子って扱い難いわね。」
「真理さんの息子さんもそうでしたか。」
「うちの息子の時代は、まだそれほど携帯電話が流行っていなかったから、そちらの心配はなかったけど、お友達に変な人がいなければ大丈夫だと思うわ。
もう少しそっと様子を見守ってあげては?」
とりとめのない話題に花を咲かせるこの集まりは、百合子にとって家での鬱憤を晴らす場にもなっている。
幾分軽くなった気持ちで家に帰った百合子は、いつものようにパソコンの前に座った。
ブログに書き込みをしていたが、気が付けばいつのまにか通販の画面を出していた。
昨日夫にカーテンのことで叱られたので、腹いせに値段の高い靴でも買いたいところだが気持ちを抑えた。
壮介の帰りが遅いので、夕飯は亮太と二人でとることが多い。
今日も食事中に亮太の携帯が何度も鳴っている。
その度に食事を中断してメールを返す息子に注意をしたいが、これ以上悪い関係になるのが怖くて何も言えない。
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