NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

仮想の狭間(7)

2010-04-13 11:28:38 | 仮想の狭間
スーパーの食品売り場で苺を選んでいた真理は、粒の美しいパックを取ろうとして、同時に手を出した隣の人と手が当たってしまった。
「ごめんなさい。」
謝って横を見ると、なんと秋絵ではないか。
二人で笑い転げて、4階にある喫茶店でお茶にすることにした。
コーヒーを注文して秋絵を見ると、いつもとは何となく感じが違うように見える。
「秋絵さん、今日は若く見えるわね。」
後ろで一つに括っていた長い髪を肩までに切って、ストレートのボブスタイルにしている。
普段は化粧っけのない顔だが、今日はファンデーションも口紅も付けて薄化粧までしている。
「今日はどこかへお出かけだったの?」
「うーうん、ここへお買い物に来ただけよ。どうして?」
「だってキレイにしているもの。」
「うふふ、貴女だけに本当のこと話すわね。
誰にも言っちゃだめよ。」
秋絵は運ばれてきたコーヒーのカップを肉付きのよい指で持ち上げ、口に運ぶと嬉しそうに曰くありげな笑顔を真理に見せた。
(この人こんなに美しかったかしら)
真理は急に綺麗になった秋絵に内心驚いていた。
「誰にも言わないから話して。」
「実はね、ネットのコミュで知り合った人と明日会うことになっているの。
それで今日、美容院へ行って来たってわけ。
ついでに化粧もしてみたのよ。」
「ふう~ん。相手は男性なの?」
「そうよ。彼は45歳なの。
私は50歳なので、5歳も年上は嫌でしょう。
だからネット上では40歳にしているの。
10歳もサバを読んでいるなんて可笑しいでしょう。
それで少しでも若く見えるように、髪を切って化粧して、彼に会いに行こうと涙ぐましい努力をしているってわけ。
どう? 40歳に見えるかしら。」
「そうね、40歳でも老けて見える人もいるから。
でもこれまでより、ずっと若く見えるわよ。」
真理は言ったが、40歳にはとても見えないと思う。
笑うと出来る目じりの皺や、頬齢線が少し出てきた秋絵の顔をまじまじと見た。

 次の日、真理は秋絵のことが気にかかって仕事が手に付かない。
歳がバレないで上手く行ったのだろうか。
掃除をしていても、料理を作っていても手が疎かになっている。
夜に電話をしたかったが、興味を持ち過ぎている自分に気付かれるのが嫌だった。
次の手芸仲間の集まりまで待ち切れず、一週間ほどたったある日、秋絵を自宅でのお茶に誘った。
 やって来た秋絵は、遠目にはこの前会った時よりまだ若く見える。
それまではモノトーンの服装に凝っていたのに、今日は薄いパープルの若い子が着るようなヒラヒラした長いブラウスにレギンス姿である。
太めの脚がレギンスを思いきり横へ広げているようだ。
真理がコーヒーとショートケーキを出すと、
「コーヒーだけ頂くわ。
この頃 太ってきて困っているの。」
いつもはコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れていたのに、今日はブラックで飲んでいる。
先日のデートの話を訊きたいが、話を切り出しかねていると、秋絵の方から話し出した。
「この前のデートの話ね。
こっちの歳がバレないかとヒヤヒヤして行ってみたら、それがお笑いなの。」
目尻に皺を寄せながら大きな口を開けて笑いだした。


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