NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

仮想の狭間(3)

2010-04-14 11:04:36 | 仮想の狭間
秋絵につられて百合子も美代子も手芸の材料をテーブルの上に出した。
三人ともお互いの作品を見て、「みんなあまり進んでないわね。」と
安心している。
「あらあら みなさんお話が進んでいるようなので、先にお茶でもと思って入れてきたのよ。」
真理が盆に紅茶ポットとカップを載せて運んできた。
「そうよね。今日は先にお菓子を食べてお喋りしましょうよ。」
美代子が真っ先に手芸の材料を片付けて、百合子の方をまじまじと見た。
「百合子さんの服 素敵ね。
さっきから気になっていたの。どこで買ったの?」
「これネットの通販で買ったんですよ。
この頃、何でも通販で買う癖が付いてしまって。」
「パソコンは便利よね。
欲しいものを探したり、何でも調べることが出来るんですもの。」
と秋絵が大きくうなずいて言った。
「でも直接現金を払って買うわけじゃないので、つい買い過ぎたり、高いものにも平気で手が出てしまうわ。
自重しなければ、と最近思っているの。」
「そうよね。請求書を見てびっくりなんて嫌だものね。
みんなパソコンを利用しているようだけど、私はあまり使ったことないの。」
美代子が珍しく沈んだ声になった。
そして訊ねた。
「真理さんは?」
「うふふ 私も使ってるわよ。
この前 秋絵さんに紹介してもらったコミュニティーサイトはまだ友達が少ないので楽しむところまではいっていないけど、秋絵さんは結構楽しんでいるようね。」
急に話題が自分に振られた秋絵は、口に入れたクッキーを紅茶で飲み込んだ・
「ええ、毎日楽しませてもらってるわ。
うちの主人は出張が多いし、娘も勤めに出たら夜まで帰ってこないし、とにかく暇なのよ。
手芸に精を出せばいいのでしょうけど、こればかりやっていてもつまらなくてね。」
秋絵の家は電子機器メーカにへ勤める夫と娘の三人暮らしである。
「ふう~ん、そんなに楽しいの。」
美代子が興味を示してきた。
菓子やお茶を堪能すると、やっと各々が手芸に取り掛かった。
真理はクロスステッチ刺しゅうといって、小さく糸をクロスさせながら絵を描いていく刺しゅうをしている。
時間がかかるので常に嘆いている。
リビングの壁には真理が作ったタペストリーが品良く掛けられている。
真理の夫は今日は出勤日らしく姿が見えない。
夫がいる日は皆 気を使って大声で話をしないし、話も当たりさわりのない話題になる。
真理も夫のいない日は表情も明るく話も弾む。
夫が退職した当時は、二人であちこち旅行をして、その土産話を手芸仲間はさんざん聞かされたものだ。
しかし、あれからまだ二年ほどしか経っていないのに、最近は「旅行に行くのなら友達と行く。」などと夫と行きたがらない。
毎日顔を突き合わせていると、少しでも離れていたいのだろうか。
百合子にはこの夫婦の気持ちが理解できない。


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