日本書紀 巻第二十三 息長足日広額天皇 十四
・舒明天皇9年の出来事
九年春二月二十三日、
大きな星が、
東から西に流れました。
すなわち、
雷に似た音が有りました。
時の人は、
「流星の音だ」
といいました。
または、
「地雷(つちのいかづち)だ」
といいました。
ここにおいて、
僧旻(そうみん)という僧が、
「流星ではない。
これは天狗(あまつきつね)だ。
その吠えた聲が雷に似ているだけだ」
といいました。
三月二日、
日蝕がありました。
この歲、
蝦夷が叛(そむ)き、
朝しませんでした。
卽ち、
大仁の上毛野君形名
(かみつけのきみかたな)を将軍に拜し、
討つように令(いいつけ)ました。
かえって蝦夷に敗れ、
走り壘(とりで)に入りました。
遂に、
賊(あた)に囲まれてしまいました。
軍衆(いくさにひとども)は、
悉く、城から漏れて空になりました。
将軍は迷い、
どうしていいのかわからなくなりました。
時に、
日が暮れ、
垣を乗り越え、
逃げようとしました。
ここに、
方名君の妻が歎(なげ)いて、
「なげかわしいかな、
蝦夷の為に、
まさに殺されようとは」
といいました。
則ち、夫に語り、
「汝の祖等は、
蒼海を渡り、
萬里を踏み越えて、
水表(おちかた)の政を平らげ、
威武(いぶ)を後葉(こうよう)に伝えた。
今、汝が、
先祖の名を頓(とど)まらせ、
屈(くぐ)ませたなら、
必ずや後世に、
あざわらいを見るだろう」
といいました。
乃ち酒を酌み、
強いて夫に飲ませました。
自ら夫の剣を佩(お)びて、
十の弓を張り、
女数十人に命令して、
弦を鳴らさせました。
既に夫は更に起き、
仗(つわもの)を取り、
進みました。
蝦夷は軍衆が猶も多いと思い、
しだいに引いて退きました。
ここにおいて、
散った卒がさらに集まり、
また旅(たび)を振るいました。
撃たれた、
蝦夷は大敗し、
悉く虜(とりこ)にしました。
・賊(アタ)
敵
・軍衆(いくさにひとども)
軍兵
・水表(おちかた)
海外
・威武(いぶ)
勢いが盛んで、強く勇ましいこと。威光と武力
・後葉(こうよう)
後世、後代
・仗(つわもの)
ほこ。つわもの。刀や戟(ほこ)の総称
・旅(たび)
軍隊。いくさ。「旅団」。昔の軍制で五〇〇人の軍団を「旅」といったこといい、その軍隊が移動することから、たび、たびをする意味が生じた
(感想)
舒明天皇9年春2月23日、
大きな星が、
東から西に流れました。
この時、
雷に似た音が鳴りました。
時の人は、
「流星の音だ」
といいました。
または、
「地雷だ」
といいました。
この時、
旻僧という僧が、
「流星ではない。
これは天狗だ。
その吠えた声が雷に似ているだけだ」
といいました。
3月2日、
日蝕がありました。
前回のお話に引き続き、
流星に日食。
奇怪な出来事が続いていますね。
人々は、
流星だとしていますが、
僧は天狗だと、
言っていますね。
…当時の僧って、
今で言う高学歴な方々ですよね。
学者さんが非現実的なことを言って、
大衆が現実的なことを言う…
普通逆じゃね
(⌒-⌒; )
いや、本当に天狗だったのかも。
この歲、
蝦夷が背き、
朝貢しませんでした。
そこで、
大仁の上毛野君形名を将軍に拝命し、
討つように命令しました。
しかし、
かえって蝦夷に敗れ、
逃げ出し砦に入りました。
遂に、
敵に囲まれてしまいました。
軍兵は、
みな、逃げ出し城が空になりました。
将軍は迷い、
どうしていいのかわからなくなりました。
時に、
日が暮れ、
垣を乗り越え、
逃げようとしました。
ここで、
方名君の妻が嘆いて、
「なげかわしいこと。
蝦夷の為に、
まさに殺されようとは」
といいました。
すぐに、夫に語り、
「あなたの祖先たちは、
蒼海を渡り、
万里を踏み越えて、
海外の政治を平定し、
威光と武力を後世に伝えました。
しかし、今、あなたが、
先祖の名を
とどまらせ、
屈まらせたら、
必ずや後世に、
嘲笑いとなるでしょう」
といいました。
あー
冷ややかな、
さすような眼差しで
夫を見下ろす婦人の姿が脳裏に浮かぶ〜
すぐに、
酒を酌み、
強引に夫に飲ませました。
自ら夫の剣を身につけ、
十の弓を張り、
女数十人に命令して、
弦を鳴らさせました。
婦人、
カッケー
ついに、
夫は再起し、
武器を取り進みました。
蝦夷は軍兵が猶も多いと思い、
しだいに引いて退きました。
ここにおいて、
散った兵卒がさらに集まり、
また軍隊を振るいました。
撃たれた、
蝦夷は大敗し、
悉く捕虜にしました。
婦人がいなかったら
大変なことになっていましたね。
上毛野君形名、
良い嫁さんもらったね。
さて、明日に続きます。
読んでいただき
ありがとうございました。
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