リートリンの覚書

麁服と繒服 4 「今昔物語」 三河国に犬頭糸を始めし話


「今昔物語」
ー三河国に犬頭糸を始めし話ー


昔、
三河のある郡司が、
二人の妻に蚕を飼わせ、
糸を紡がせていました。

ところが、
本妻の蚕が全部死んでしまいました。

そのため郡司が寄りつかなくなり、
本妻は嘆き悲しみました。

すると、
桑の葉に
一頭の蚕がついているのを見つけました。

本妻はこれを大切に育てました。
その蚕は大きく育っていきました。

ところがあるとき、
飼っていた白い犬が
この蚕を食べてしまいました。

本妻は、
これも何かの因縁かと思い悲しくなり、
犬を咎めることなく、
犬を見つめて泣いてしまいました。

すると突然、犬がクシャミをしました。
その鼻から白い二筋の糸が、
一寸ばかり出ていました。

本妻は不思議に思い、
その糸を手に取ると引っ張ってみました。

すると…
糸はとめどもなくどんどん出てきます。

本妻はあわてて、
糸枠に糸を巻き始めました。

次々に、枠に巻いていき、
200、300もあった枠が
尽きてしまいました。

そこで
竹竿を差し渡して糸繰をし、
桶にまで巻き取り
4000から5000両ばかり巻き取ると、
犬は糸を出し切って死んでしまいました。

本妻は、
これは神様、仏様が
犬となり私を助けてくださったのだと思い、

犬の屍を
裏畑の桑の木の根元に手厚く葬り、
草花を供えました。

その後、
久しぶりに本妻の元を訪れた夫は、
沢山の白い生糸を見て驚き、
その生糸の素晴らしさに見とれました。

一方、
第二夫人の作った糸は、
節があり黒ずんでいて
品がありませんでした。

本妻の糸は、
雪のように白く、
光沢があり、
それはそれは、上品で立派な生糸でした。

そこで郡司が不審に思い、
本妻に尋ねると、

本妻はことの成り行きをありのまま、
夫に語りました。

郡司はこれを聞くと、
自分は、神仏に助けられた人を、おろそかにしていたのか。愚かであった…」
と後悔し、

それからは
本妻の家に留まるようになりました。

すると、
犬を葬った桑の木には、
蚕が暇なく繭を作るようになりました。

そして、
その繭から引いた糸は、
限りなくそれは美しいものでした。

やがて、この話が国中にひろまると、
この糸は
「犬頭糸(いぬがしらのいと)」
と呼ばれるようになりました。

そして犬頭糸は、
朝廷に奉納され、
天皇の御衣の御料となりました。


赤引糸(あかびきのいと)


「赤引糸(あかびきのいと)」
は、三河の宝飯郡赤孫郷の、
赤日子神社から奉納されていました。


感想

犬頭糸、赤引糸が気になり
調べてみました。

犬頭糸の伝説、
中々面白いお話ですね。

こういった昔話しには、
真実が紛れ込んでいますから、
無下にはできませんね。

しかし…
本妻の蚕が死んでしまった。
その死因に第二夫人の影が見えるのは、
自分だけ?

腹黒だったから、
作った糸も黒ずんでいた…

いや〜、
昔は、一夫多妻制でしたからね。
嫉妬、怖い、怖い😰

このお話を聞いて
ちょっと不敬ながら思ったのは、
犬の鼻から出た糸の主原料は🧵

…鼻水🤧

さて、
「赤引糸(あかびきのいと)」とは?
と思い調べてみますと、
犬頭糸のような伝説はみあたらず。

そこで、
赤引糸を奉納していた
赤日子神社を調べてみました。

赤日子神社の祭神は、

・綿積豊玉彦命

(わたつみとよたまひこのみこと)

・彦火火出見尊

(ひこほほでみのみこと)

・豊玉姫尊

(とよたまひめのみこと)

です。


綿積豊玉彦命は、

安曇連(あずみむらじ)の

祖神とされています。


赤日子神社のある、

蒲郡市ホームページによりますと、


三河地方は養蚕の伝統が古くからあり、なかでも赤日子神社は養蚕の祖神をまつる代表的な神社で、拝殿の西には養蚕祖神をまつる塚があります。渡来族である安曇族が養蚕を日本にもたらしたことを考える


とあります。


なるほど、

養蚕は安曇氏が

日本にもたらしたとされているのですね。


安曇氏が祖神として祀っているのは、

海神見三神、詳しくこちら、


日本の神様23・海神見三神(底津少童命・中津少童命・表津少童神) - リートリンの覚書


しかし、

安曇氏が渡来族とは、

初めて聞きましたよ😳


祖神とされる
綿積豊玉彦命は、
伊弉諾尊が禊をして生まれた神さま。
国津神系ですね。

自分は、
海人族は、
古代から海路を使い各地で
交易をしていた民族と覚えていました。

そう、
縄文時代に黒曜石を
全国に運んでいたのは
彼らではないかと推測していましたが…
(自分的には、彼らが日本列島に最初にやってきた民ではないかと思っています)

渡来族?🧐


蒲郡市近辺では、
そのように口伝されているのか?
ソースは何処からでしょうか?

まぁ、安曇氏は海人族ですから
外国との貿易で様々な技術を
日本にもたらしていますから、

もしかすると、
日本に最初に絹をもたらしたのは、
安曇氏かもしれませんね。

さて、今日はこれで。

最後まで読んで頂き
ありがとうございました。


参考にさせていただいた本

・シルクのはなし 
小林勝利 鳥山國士

・絹の文化誌 
篠原昭 嶋崎昭典 白倫 編著

・皇后さまとご養蚕 
扶桑社

・麁服(あらたえ)と繪服(にぎたえ)
天皇即位の秘儀 践祚大嘗祭と二つの布
(著)中谷 比佐子・安間 信裕 監修 門家 茂樹

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