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リートリンの覚書

『千歳』 一の巻



はじめに
この小説『千歳』は、
平安時代の大嘗祭の様子を
題材に妄想した小説です。
フィクションですが、
その当時の風景を
感じていただければと思います。


・大行列

十一月卯の日、北の斎場。

都を囲む山々の木々は錦を織りなしている。
晴天の青空、太陽の日差しは温かい。

しかし、
初冬の風が吹き
カサカサと音をなし枯れ草が揺れる。

肌寒さを感じる季節。

しかし、その場に集まる人々は、
緊張のあまり寒さを感じることはなかった。

出発の準備はすでに済んでいる。
人々が見守る中、
造酒童子と呼ばれる少女が牛車に乗り込んだ。

彼女はこの神事に
欠かすことが出来ない
重要な役目を帯びた少女だ。

彼女が座るのを確認すると
静かに御簾が下ろされた。

午前10時、
北野の斎場から神事に使う
稲、白酒、黒酒、御贄、繒服などが
運びだされる。

これらは大嘗宮へと運ばれるのだ。
大行列の奉仕者の数は、約5千人。

色とりどりの装束を
身に纏った人々が整列する。

準備が整うと、
彼らは、気を引き締め直した。
そして、厳かに歩き出した。

大行列には、
標の山と呼ばれるものが引かれている。

それは山の形を模したものに、
榊が植えられ、その枝には木綿が、
ひらひらと風に揺れている。

その横には、
太陽の形をなぞらえた像と
半月の像が飾られた。

それらは、
日の光を浴びて、キラキラと輝いている。

標の山はたいそう大きく、
これらを引く男の数は二十人。

大切な稲は輿にのせて担ぎ運ばれている。

悠紀・主基の大行列は、
おのおの別ルートを通り
朱雀門を目指すことになる。

参道には大行列を見ようと
大勢の人が駆けつけていた。

それは、
貴族から民にいたるまで、
様々な階級の者が沿道にひしめき合っていた。

大行列がやって来ると
人々は歓喜の声をあげる。

彼らはみな満面の笑みを浮かべていた。
ある者は、感極まりうっすらと涙を浮かべ、

また、ある者は手を合わせ、
祈りを捧げていた。

斎田地方に選ばれてからというもの、
常に気を張り、働き続けた。
肉体的にも精神的にも
ほとほと疲れ切っていた。

だが、沿道に集まる人々の笑顔に、
疲れが一気に吹き飛ぶ。
自分達は民衆の代表として選ばれたのだ。

悠紀・主基両地方の奉仕者たちは、
誇らしげに道を練り歩いた。

午後2時。大行列は、
無事朱雀門に到着することができた。



妄想は、続く


・北野の斎場
各地から集められた稲やそのほかの物は、いったん北野の斎場に集められた。

・造酒童女(さかつこ)
造酒童女には“斎部”の郡司の未婚の娘の中から、占いで選ばれた者があてられた。

・標の山
山の形をした模型に、榊を植え、木綿(ゆう)、日像、半月像をつけたもの。以前はシナ風の飾りを豪華に飾り付けていたが、平城天皇朝時代に禁止され、簡素なものに変わった。



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