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リートリンの覚書

「千歳」 二の巻



はじめに
この小説『千歳』は、
平安時代の大嘗祭の様子を
題材に妄想した小説です。
フィクションですが、
その当時の風景を
感じていただければと思います。


・大嘗宮



大嘗宮は、
悠紀・主基地方の奉仕者によって
朝堂院の中庭に造られる。

これらの建物を建てる時間はわずか5日間。

大嘗宮の造りは、黒木が使わる。
屋根は青草、
天井板の代わりにむしろが使われ、
そして壁もむしろをあてる。

建物の内部の地面の上には束ねた草を敷き、
その上に竹の簀子、
さらにその上にむしろを敷き重ねて床にした。

大変、単純で自然な建物なのだ。

大嘗宮に付属する廻立殿と呼ばれる建物は、
宮内省に付属する木工寮が
建てることが習わしになっていた。

大行列は、
朝堂院内の大嘗宮へ向かうと、
繒服・麁布は正殿に納められた。

そして、
悠紀・主基両地方の奉りものは
まず膳屋に運び込まれる。

荷物を無事送り届けた両地方の奉仕者は、
ほっと安堵し肩の荷を下ろした。

奉りものが到着すると、
神事の稲が臼でつき始められる。

その際には、
造酒童女が稲舂歌を歌うのだ。
少女は神に感謝を込めて歌う。

その調べは清らかで、
辺りになんともいえぬ芳香が漂う。

その間、
女官が心を込めて杵で稲をつく。

少女の調べと稲をつく音が
何とも言えぬ諧調をつむぐ。

つき終わると
内膳司の伴造が御飯を炊き上げる。

新米の美味しそうな香が
女官たちの鼻腔をくすぐった。
彼女たちは思わず微笑みあった。

御飯は整えられた
他の神饌とともに盛り付けられる。

神饌に使われるのは、
鮮魚が四種、干魚が四種、
菓子の四種あわせて十二種。

それと合わせて
内膳司高橋氏の作る鮑の汁漬、
安曇氏の海藻の汁漬も添えられる。

欠かせないのは、
悠紀・主基の斎田でとれた
稲の初穂で造られた
白酒・黒酒の御酒である。

それらは膳屋の盛殿に準備された。
これらは
「御膳」(おわもの)と呼ばれている。

最高の賓客である神をもてなすために、
聖別された最高の海の幸、山の幸が、
神膳が供されるのだ。

それらは、
奉仕者たちの神に対する
感謝の思いが込められている。

十一月の卯日。
初冬の夜の訪れは早い。
辺りは夜の帳が下ろされ、闇が訪れる。

午後6時になると、
明かりが一斉に燈される。

暗闇の中、橙色の光が辺りを照らす。

篝火は、
パチパチと音を鳴らしながら燃え上がった。

時折上がる火の粉は、
ふわりふわりとまるで蛍のように飛び、
そして消えた。

妄想は、続く


・朝堂院
主に、朝賀や即位、饗宴など、主として朝廷の盛典、儀礼に用いられていた。大嘗宮はここに建てられた。

・大嘗宮
大嘗宮は正殿(しょうでん)である悠紀殿・主基殿、御厠(みかわや)、膳屋(かしわや)、臼屋(うすや)、神服柏棚(かんみそのかしわだな)などからなる。

・黒木
皮を削っていない丸木の材木

・繒服(にぎたえ)
参河の民のなかから占いにより奉仕者が決められた。奉仕者は、参河国の神服部(かんはとりべ)がたてまつる調糸(つきのいと)をもって、10月上旬に上京し、繒服をつくった。

・麁布(あらたえ)
阿波の忌部氏が献上した。麁布は織り目のあらい麻布。

・稲舂歌(いなつきうた)
大嘗祭の卯日に、稲をつく際に造酒童女によって歌われたもので、稲のもつ霊魂を発動させる特殊な呪歌であるとも言われている。

・白酒・黒酒
悠紀・主基の斎田でとれた稲の初穂で御飯がつくられ、残りで白酒・黒酒の御酒が造られる

・須恵器
御贄を盛る器は、河内・和泉・尾張・参河・備前・でつくられた。

・鮮魚
甘塩鯛・鮐鮑(すしあわび)・雑魚腊(ざこのすし)、醤鮒(ひしほふな)の四種が準備された。

・干魚
蒸鮑・干鯛・堅魚・干鰺の四種が準備された
※、海の幸は、紀伊なら賀多郡の海女、阿波なら麻植郡の忌部氏と那賀郡の海女の者が採る決まりだった。

・菓子(くだもの)
干棗(ほしなつめ)・搗栗(かちくり)・生栗・干柿の四種が準備された。



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