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リートリンの覚書

「千歳」 七の巻



はじめに
この小説『千歳』は、
平安時代の大嘗祭の様子を
題材に妄想した小説です。
フィクションですが、
その当時の風景を
感じていただければと思います。


・主基殿の神事

午後十一時、主基殿の御膳の準備が始められる。
天皇は悠紀殿から廻立殿へ一度お帰りになられ、禊をなされた。そして、祭服を改められると、主基殿にお入りになられた。

暗闇の中、烏たちは主基殿が見える場所に集まりだした。彼らは、奇妙な三本の足の烏だ。彼らはその足を器用に操り木に泊まると、主基殿を注意深く見守り始めた。それは、中で行われている神事が手に取るように分かっているかの如く。



主基殿でも、大嘗宮南門外の庭上での様々な儀式や主基殿内陣での天皇の神事など、悠紀殿と同じように行われた。

儀式が始められると、大地から吹き上げるように、黄金色の光の柱が立ち昇り始めた。
烏たちは、その黄金色に輝く光の柱を恭しく見つめた。
そう、あの方がいらっしゃられたのだ…

神事の途中で主上は、先ほどとは違う感覚が訪れた。先ほどは、春の日の如く優しい神気。しかし、今回は明らかに違う。
それは荒々しく、そして厳しく、地中を駆け巡る紅蓮の炎の様な、力強い神気が目の前から感じられた。

それは、主上を観察する様に睨んでいるように感じられる。その神気に以前の主上なら、逃げ出していたかもしれない。だが、以前の自分とは違う。彼は、一人ではないのだ。
主上は拳を胸の辺りに置くと、毅然とした態度をして見せた。
それを見て、相手は納得したのだろう…

悠紀殿の神事とは、違い全身に鋭い痺れが走る。それは、ゆっくりゆっくりと事は進んだ。主上は、側近たちに気づかれぬよう、平静を取り繕い神事を続けた。

大切な大地を我々に預け、眠りに入られた神の意志が…貴い方の思いが伝わる。

翌朝の午前五時頃。全ての神事が終わり、天皇が主基殿からお出になられた。その姿は、昨晩とは明らかに違う。
精悍なお顔立ちになられ、威厳を放っている。天津神と国津神を結ぶ架け橋となられ、真の皇命となられたのだ。

烏たちはまだ明けぬ夜空に一斉に飛び立った。北の空に輝く北極星を目指し。
夜明けの空に彼らの鳴き声が響く。

烏は鳴く…

神は、
人を愛するが故に自由をお与えになられた。

選択の自由を…

悪しき者たちの言葉に耳を傾け
地に堕ちるのも自由…

内なる良心に従い善に生き
天を目指すも自由…

再び烏は鳴く

豊葦原瑞穂国の民よ、新しい皇命の下、お前たちは、あの方に何をお見せするのだろう…

悪に満ちた醜い地獄か…

それとも、慈愛に満ちた美しい楽園か…



あとがき

この物語はフィクションです。
実際の事象・人物・団体名等と無関係です。

大嘗祭が行われる理由の様々な説論を色々取り込んで妄想してみました(笑)。
あと、できるだけ当時の風習を調べて書いてみましたが、一部分からない所は妄想ですので、ご了承ください。


今回、大嘗祭を調べて一番気になったのは、D.Cホルトムです。ネットで調べてみたらウィキペディアには、出てきませんでした。
何とかD.Cホルトムの著書「日本と天皇と神道」を発見。しかし、amazonでまさかの、¥22,256、マジ!読みたいけど…手が出ない。
国会図書館には、あるみたいですが、正直敷居が高い。残念です。
いつかは、読んでみたいです。

大嘗祭のシリーズこれにて終了です。長い間、ありがとうございました。

(参考)大嘗祭と古代の祭祀 岡田莊司
(参考)大嘗祭の起こりと神社信仰 森田勇造
(参考)大嘗祭の構造 平野孝国
(参考)大嘗祭の本義 ―民俗学からみた大嘗祭― 折口信夫 現代語訳 森田勇造
(参考)大嘗祭 真弓常忠
(参考)天皇と国民をつなぐ大嘗祭 高森明勅

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