日本書紀 巻第十二 去来穂別天皇 四
・太子、弟・瑞歯別皇子を疑う
太子はすでに
石上振神宮(いそのかみふるじんぐう)
に居ました。
ここにおいて、
瑞歯別皇子(みつはわけのみこ)は
太子が不在なことを知り、
尋ねて追ってきました。
然るに、
太子は弟王の心を疑って、
喚(よび)に応じませんでした。
時に、
瑞歯別皇子は謁えて、
「僕は黒心(きたなきこころ)はありません。
唯、太子の不在を愁いて参じただけです。」
といいました。
太子は人伝に告げて、
「我は仲皇子の逆を畏れ、
独り避けてここに至った。
ここで、汝を疑わずにいられるだろうか。
仲皇子が在すること、
それだけが我の病むところだ。
遂に除(はら)おうと欲(おも)う。
故に、汝に異心がまことにないというのなら、
更に難波に返り仲皇子を殺せ。
然るが後に会おう」
といいました。
瑞歯別皇子は太子に申しあげて、
「大人、何を甚だ憂いているのですか。
今、仲皇子は無道で、
群臣及び百姓は共に悪(にく)み、
怨(うら)んでいます。
また、
その門下の人も皆叛き賊(ぞく)となり、
独り居て誰とも議(はか)っていません。
臣はその逆を知っていましたが、
太子の命を受けておらず、
故に一人慷慨(こうがい)し、
これを耳にしていました。
今は既に、命を受けました。
仲皇子を殺すことは難しくありません。
唯、独りこれ懼(おそ)れることは、
仲皇子を殺した後も、
なおもまた臣を疑うのではないのか。
願わくは忠直者(ただしきひと)を得て、
臣の欺きがないことを
明らかにしたいと思います」
といいました。
太子は則、
木菟宿禰を副えて遣わしました。
・賊(ぞく)
君主にそむくもの
・慷慨(こうがい)
正義にはずれた事などを、激しく憤り嘆くこと
(感想)
太子はすでに石上振神宮に居ました。
ここにおいて、
瑞歯別皇子は太子が不在なことを知り、
尋ねて追ってきました。
ですが、
太子は弟王の心を疑って、
呼びに応じませんでした。
時に、
瑞歯別皇子は謁見して、
「僕は汚き心はありません。
ただ、太子の不在を愁いて参じただけです。」
といいました。
太子は人伝に告げて、
「我は仲皇子の叛逆を畏れ、
独り逃げてここに至った。
ここで、
汝を疑わずにいられるだろうか。
仲皇子が存在する、
それだけが我の病むところだ。
であるから、排除しようと思う。
こういうわけで、
汝に異心が本当にないというのなら、
再び難波に帰り仲皇子を殺せ。
然るが後に、会おう」
といいました。
瑞歯別皇子は太子に申しあげて、
「大人、何を大変憂いているのですか。
今、仲皇子は無道で、
群臣及び百姓は、
共に憎み、怨(うら)んでいます。
また、
その門下の人も皆主に叛き、敵となり、
独り居て誰とも議(はか)っていません。
臣はその反逆を知っていましたが、
太子の命を受けておらず、
ですから、
ひとり激しく憤り嘆き、
これを耳にしていました。
今は既に、命を受けました。
仲皇子を殺すことは難しくありません。
ただ、
ひとり恐れることは、
仲皇子を殺した後も、
なおもまた私を疑うのではないのか。
願わくは、
正しき人を得て、
私の欺きがないことを
明らかにしたいと思います」
といいました。
太子はそこで、
木菟宿禰を副えて遣わしました。
兄弟で争うとは。
なんだか、悲しいことですね。
兄から
他の兄を討伐するよう命をうけた
瑞歯別皇子。
彼は今後どのように行動するのでしょうか?
明日に続きます。
読んで頂き
ありがとうございました。
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