【読んだ本】
◆宮尾登美子『朱夏』
著者の自伝的小説。
旧満州で終戦を迎え、極限状態に置かれた人々を描く。
満州人やロシア人の襲撃に怯え死を覚悟する一夜。赤い水をすすり、一粒の稗をめぐって隣人を憎む。主人公の綾子は、饅頭ひとつのために我が子を売ろうとさえ思うのである。
毎年8月になると戦争の悲惨さや原爆の恐ろしさをよく耳にする。
が、渡満した人々や中国残留孤児のことを知る機会はあまりなかった。
衝撃だった。
最後には、命からがら乞食同然で日本への引き揚げ船に乗るが、日本を捨てて満州へ渡った人たちに帰る場所はあるのだろうか。
綾子のその後が書かれた『仁淀川』も大事に読みたい。
◆谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』
猫を溺愛する男と、その男を取り合う二人の女の心理戦。男は女を選んでいるようで、実は猫をのみ愛している。
よくもまあ猫だけで一冊書けるなあ!
それにしても、これに似た話を聞いたことがあるような……
【映画DVD】
◆『人生はシネマティック!』(2017年)
1940年代、ロンドン。
若い男性は戦争に取られ、執筆経験のない女性が脚本家として映画作りに関わる。
映画に夢中になっていく主人公の心を表すように、タイプライターの音が小気味よく響く。
喜びも悲しみも心に沁みるいい映画だった。
◆『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』(2018年)
ゴーギャンが描く女性像は一度見たら忘れられない。
日に焼けた肌、意志の強そうな眉。
南国の汗ばむ熱気の中で、匂いたつ色香を醸し出す。
俳優はゴーギャンの絵から抜け出てきたような人ばかりだし、アトリエの一番見えるところには、葛飾北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」があった。映画の細部までこだわりを感じる。
ゴーギャンの老いとの対比だろうか、タヒチの風景と若い恋人が美しかった。