蔵王歌集 氷の花より
少年は目ざめた
芯をほそめた昨夜のランプが
火屋(ほや)のなかで黄いろい蝶になっていた
崖をお負た山の湯宿のふかい廂には
まだ闇が立ちこめている
ブナや菩提樹の肌を濡らし
こけももの花をふるわせた山気が夜具の襟にもしみついている
どこからともしれぬ妖精たちのさざめきが
近づいては遠のいていく
その幻聴に少年はおののいた
朝が待ちどおしかった
夜明け
少年の胸は弾んだ
朽ちた階段をふんで湯殿に下り
湯げむりのなかにずぶりと身を沈める
そのときふと
まぶしいかがやきに少年は撃たれた
湯気をすかして
白い花びらともまごうおとめのからだが
湯舟のなかにひかっていたのだ
近づきもできず逃げられもしない
わずかな波にもあの位置はくずれる
少年はじっと身をすぼめた
おとめはひとりのときを
人魚のように泳いでいたのだろう
黒く長い髪も塗れている
湯殿の窓には
赤青紫黄緑の色ガラスがはまっていて
朝の斜光がそこから射しこんできた
その色が朝ひる夕と変わるのを
少年はたのしんできた
いま
おとめの肌に
緑のガラスが影をひいている
白い花びらに苔のいろが漂っているのだ
硫黄華のきつい湯の香が
ふたつの皮膚にしみとおる
時間がそこに釘づけされていた
・・・・・それから
白いかがやきの花びらと
五色のいろガラスのまぼろしが
来る朝ごとに
少年の目ざめをさわやかにした
少年は目ざめた
芯をほそめた昨夜のランプが
火屋(ほや)のなかで黄いろい蝶になっていた
崖をお負た山の湯宿のふかい廂には
まだ闇が立ちこめている
ブナや菩提樹の肌を濡らし
こけももの花をふるわせた山気が夜具の襟にもしみついている
どこからともしれぬ妖精たちのさざめきが
近づいては遠のいていく
その幻聴に少年はおののいた
朝が待ちどおしかった
夜明け
少年の胸は弾んだ
朽ちた階段をふんで湯殿に下り
湯げむりのなかにずぶりと身を沈める
そのときふと
まぶしいかがやきに少年は撃たれた
湯気をすかして
白い花びらともまごうおとめのからだが
湯舟のなかにひかっていたのだ
近づきもできず逃げられもしない
わずかな波にもあの位置はくずれる
少年はじっと身をすぼめた
おとめはひとりのときを
人魚のように泳いでいたのだろう
黒く長い髪も塗れている
湯殿の窓には
赤青紫黄緑の色ガラスがはまっていて
朝の斜光がそこから射しこんできた
その色が朝ひる夕と変わるのを
少年はたのしんできた
いま
おとめの肌に
緑のガラスが影をひいている
白い花びらに苔のいろが漂っているのだ
硫黄華のきつい湯の香が
ふたつの皮膚にしみとおる
時間がそこに釘づけされていた
・・・・・それから
白いかがやきの花びらと
五色のいろガラスのまぼろしが
来る朝ごとに
少年の目ざめをさわやかにした
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