バスを降りて5分も歩かないうちに、汗がだらだらとたれてきました。もうだめだ。目の前の上島珈琲に飛び込みました。冷気が、すーっと身体の温度を下げます。
コーヒーを手に奥へ進むと、壁際の席に渡辺さんが座っていました。同じマンションの上階に住む、上品なおばあさん。
声をかけると、「こちらへどうぞ」と隣りの席へ手を向けました。
「信じられない暑さね。お買い物? 私はいま終わったところ」
渡辺さんの向かいの椅子に、大きく膨らんだエコバッグがのっていました。
「あなたのお家は、洪水とか大丈夫だったの?」
幸いなことに親戚はなく、広島に住む友人も無事でした。
「大変なことね。命が助かっても、住むところが流されたり、親しい人が亡くなったり。本当にどうしたらいいのかしら。どうしようもないわね」
ぼくだったら、きっと立ち直れません。
「私もそうかしら。もうこんな年齢だし。もし生きていたら、先のことなんか考えられないでしょうね。でも、生きているってことは、生きるってことなんでしょうね」
生かされているということですか?
「そんなに大きなことではなく、もっと簡単に、生きているから生きる」
それで希望を持てますか?
「目の前のことを、ひとつひとつこなしていくしかないでしょうね。先のことを考えて悲しくなるより」
刹那的に生きる方がいいのかな。
「人間だからね、あまり動物的に、その瞬間だけ良ければいいというのも困るけれど。そうね、とにくか少しずつよね」
アイスコーヒーを飲み終えた渡辺さんは、バスの時間だから、お先にと、暑い暑い外へ向かって歩いて行きました。
コーヒーを手に奥へ進むと、壁際の席に渡辺さんが座っていました。同じマンションの上階に住む、上品なおばあさん。
声をかけると、「こちらへどうぞ」と隣りの席へ手を向けました。
「信じられない暑さね。お買い物? 私はいま終わったところ」
渡辺さんの向かいの椅子に、大きく膨らんだエコバッグがのっていました。
「あなたのお家は、洪水とか大丈夫だったの?」
幸いなことに親戚はなく、広島に住む友人も無事でした。
「大変なことね。命が助かっても、住むところが流されたり、親しい人が亡くなったり。本当にどうしたらいいのかしら。どうしようもないわね」
ぼくだったら、きっと立ち直れません。
「私もそうかしら。もうこんな年齢だし。もし生きていたら、先のことなんか考えられないでしょうね。でも、生きているってことは、生きるってことなんでしょうね」
生かされているということですか?
「そんなに大きなことではなく、もっと簡単に、生きているから生きる」
それで希望を持てますか?
「目の前のことを、ひとつひとつこなしていくしかないでしょうね。先のことを考えて悲しくなるより」
刹那的に生きる方がいいのかな。
「人間だからね、あまり動物的に、その瞬間だけ良ければいいというのも困るけれど。そうね、とにくか少しずつよね」
アイスコーヒーを飲み終えた渡辺さんは、バスの時間だから、お先にと、暑い暑い外へ向かって歩いて行きました。