緊急事態が起こったとして

　警察官が家に見回りに来ました。
　一年前に来た人と同じかもしれません。
　「変わりありませんか？」
　はい。何もありません。
　そのとき、ふと何かあったのかと疑念が生まれました。
　近所で空き巣とか、事件とか。
　何かあったのですか？　と聞くと、
　「いや、何もないです。何かありましたら、交番まで連絡ください。
　平和でよかった。

早とちり早がってん

　駅前の小さな食パン専門店が閉まっています。
　昼だというのにシャッターが下りているのです。
　壁に貼り紙があります。
　潰れてしまったのか。
　駅前とはいっても、活気のない街です。
　新しい店ができても長くもちません。
　パン屋に近づいて貼り紙を見ます。
　いつ閉店したのだろう。
　値上げのお知らせでした。
　今日は定休日。

もう買ってはいけない

　部屋の模様替えで、本棚を移動させました。
　一度全部の本を出し、読んだ本と、未読のものを分け、まだ読んでいない本を一番目立つ場所に置いていきました。
　読んでしばらく経った本の中から、売る本を抜きます。
　その空いたスペースは、ほかの部屋にある本を持ってきて埋めます。
　未読の本は、あっという間に棚ひとつを埋めてしまいました。
　思っていたよりたくさんあります。
　この人生で読み終わりそうにありません。
　絶望的な気分になりました。

来るぞ来るぞと

　マンションのエレベーターが、昨日は止まっていました。
　地震のせいかもしれません。
　今日は動いています。
　でも乗りたくない。
　乗っているときに止まったらと、つい考えてしまいます。
　普段はなんでもないことなのに、災害を身近に感じると用心する。
　でもそのうち、また何も考えずにエレベーターに乗るようになります。
　そしてそのうち、エレベーターに閉じ込められるかもしれない。
　怖い話です。

走る 急いで 店内を

　プラスチックのケースに入った4個のキウイ。
　レジに持っていくと、店の人が横から下から見ています。
　潰れていないか確認しているのか？
　「値札のシールがないので見てきます。少しお待ちください」
　そう言ってキウイ売り場へ走って行きました。
　やがて同じ商品を持ってくると、そのケースに貼ってある値札を読み取りました。
　この人の仕事を増やしてしまった。
　でも、値札シールを貼り忘れたのは、ぼくではありません。