私のお友達はバッハ好きが多いから、ドイツに行くとなると、ライプチヒの聖トーマス教会はマスト。強者(つわもの)はそこで歌ってきたりする。だから、私がドイツに行ったことがある、と言うと、「ライプチヒには何回行った?」って話になるのだが、答えは「Niemals!」(一度もない)。そもそも私はベルリン、ハンブルク、ミュンヘンと言った大都会には行ってない。空港があるフランクフルトのほかに行った街で一番大きいのがニュルンベルク。次がフライブルク。後は田舎ばかりである。そこで何をするのか、というと、駅を降りて、遠くの丘の上に廃墟となっている取手(常磐線)ではなく砦(とりで)を見つけると、そこに向かってひたすら歩く。じゃあ、日本でやってる山歩きと同じじゃんて?Genau!(その通り)。結局、日本でもドイツでも私は「Wandern」が好きな、根っからの田舎者なのである。ただし、ドイツの牧場にいる牛にはびっくり。スターウォーズに出てくるような、想像上の生き物のようなのだが、あちらでは普通の牛である。
そんな山歩きをこの一月半ほどさぼっている。このところ心身が下降線にあるのはそのせいかもしれない。よし、リフレッシュしよう、と思い、天気の良かった昨日、高尾方面に向かう。例によって高尾山頂から富士山が見えたのだが、
最近の私としては珍しく、雲のかかっている富士山に出くわした。わが心にかかる雲のごとし?だが、こういう富士山も乙なものである。どっちかと言うと、頂上付近よりも、麓に雲があって、頂上付近がラピュタ(天空の城)のように忽然と現れてる方が好みだが。
それから、大山もよく見えた。
もう4,5年登ってないだろうか。今度行くからね。待っててね……なーんて言わなくても、少なくとも私が生きている間は、大山はそこにある(そうは言っても、例えば、華厳の滝は、数十年前に岩が落下してその形状が私が子供の頃写真で見たのとは変わってしまっている)。因みに、大山は「おおやま」である。こんな断り書きを書くのは、鳥取にある大山が「だいせん」だから。最近、凋落傾向のわがブログが持ちこたえているのは、案外、地方にいらっしゃる「岩盤支持層」のお陰かもしれない(モーツァルトの「フィガロ」も、ウィーンの初演では当たらなかったが、プラハでは熱狂的に支持された)。鳥取に読者がいらっしゃるかもしれない。ということで、読み仮名を付けた次第である。
この日は、しかし高尾山頂が目的地ではない。ここは出発点であり、目指すは、南高尾(津久井湖のあたり)である。ということで、高尾山頂を早々に後にして大垂水峠を経由して、そっち方面に向かう。しばらく歩くと、出てきた、出てきた、津久井湖が!
元神奈川県人のワタクシとしては、懐かしい名前である。相模川をせき止めて造ったダム湖で、ほんの少し上流には相模湖がある。この辺りの地理は小学校で習ったものだ(今では相模原市に編入されているが、当時は津久井郡だった)。
しばらく津久井湖に沿った山道を歩いた後、道は北に向きを変えて津久井湖とはお別れである。ここからスタート地点の高尾山口駅を目指すのだが、あれえ?また湖が出てきたぞ。
元の方向にワープした?違う。これは城山湖である(津久井湖のダム名が「城山ダム」なので紛らわしいが、こっち(城山湖)は相模川とは関係なく、穴を掘って水を入れた人造湖である)。この湖にはなじみがない。習ってない。できたのが1965年というから、私が小学生のときはできたてのほやほや。そのせいで当時の教材には間に合ってなかったのかもしれない。因みに、宮ヶ瀬湖ができたのは2000年だというから、私が子供の頃は影も形もなかったもので、だから、そんな湖が神奈川県にあることを最近まで知らなかった。
途中、見晴台がいくつかあったのだが、その一つがこれ。
「立入禁止」になっている。危険だから?このあたりがドイツと違うところ。ドイツでは、危険な建造物に張られている札は「立入禁止」ではなく「Auf eigener Gefahr」(自己責任で)。例えば、半分倒壊した砦の二階に上がって窓から眼下を見ると垂直に切り立っていて怖い。それがいつ崩れるか分からないと思うと一層怖い。でも、そこに登るかどうかは、ご自分で決めなさい、あくまでも自己責任で。ケガをしても苦情は一切受け付けません、ということである。因みに、ドイツの賛美歌であり、それをもとにバッハがカンタータを書いている「神はわがやぐら」の「やぐら」は「Burg」であり、私が「砦」と言っているのと同じである。
さて、今回のルートだが、高い山はないのだが、傾斜の厳しいアップダウンが永遠に続く感じで、決して侮ってはいけない。道が整備されている高尾山登山とはまったく異なる。例えば、こんな感じである。
きれいなおべべを着ておデートをする場所では決してないことに留意すべきである。なんてったって、猿が出る場所だし。そう、今回、目の前を茶色い物体が高速で横切った。猿だった。写真を撮ってる暇はなかった。そりゃそうだ。猿からすれば、森で遭遇した私はもしかしたら猿食い人種かもしれない(映画「インディ・ジョーンズ」の「魔宮の伝説」を思い出す)。三十六計逃げるにしかず、である。
高尾山口駅まで残り300メートルになったというのに、
相変わらず森の中。時刻は16時半を回っている。1か月前なら日の入りで私は遭難するところである。と思ってたら、忽然と民家が現れた。そうだ、高尾山口駅の周りは山に囲まれていた。だから、駅のすぐ近くまで山道なのである。
この日、高尾山口駅から出発して、同駅に帰ってきたのは駅前のイタリアンでピザを食べたかったら。だが、そのお店は平日は16時半で閉店なのだそうだ。がっかりしたが、「申し訳ございません」と仰るお店のお姉さんはとっても丁寧だった。
だもんだから、そのまま京王線に乗って帰路についたのだが、車窓から夕陽に沈む「赤富士」がくっきり。
昼間かかっていた雲もとれて、もしかしたら、これがこの日一番の絶景だったかもしれない。
今回は相当足にきた。やっぱりさぼってたせい?と思ったら、この日歩いた歩数は3万4000歩。平地換算だら5万歩くらいにはなるだろう。足にきたはずである。消費カロリーも1500キロカロリー。相当な数値だ。だから、高尾で食べ損ねたピザを綾瀬で食べようか。よし、もし千代田線が北綾瀬行きだったら(北綾瀬から歩いて)おとなしく帰る、常磐線直通だったら綾瀬で下車してピザを食べよう。で、来たのが北綾瀬行き。「O!Mensch!」(この文を「おう、人間!」などと訳してはいけない。「ちぇっ、なんてこったい」の意味である)。