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And This Is Not Elf Land

Once Victim, Always Victim

Thomas Hardy (トーマス・ハーディ)
Tess of the d'Urbervilles(テス)


Hardyが描く世界は、彼の故郷でもある美しいイングランドの自然を背景として、そこに生きる農民が主人公となる。美しいパノラマを見るような自然描写、そこに生きる人々の描写が生き生きと描かれる。それらを通じて、彼は人生の意義、果ては宇宙の意志を探る。そして、結局、宇宙を支配するのは一個の盲目的意志、つまり彼が名づけている「内在意志」であり、人間は翻弄されるに過ぎないのだという。人間の持つ理想や意志、努力も所詮むないしいものであるといい宿命論に到達する。

Tessは貧農の生まれであり、思慮浅く愚かな父母、大勢のきょうだいの中で暮らしていたが、類まれな美貌の持ち主でもあった。大勢の女性に混じって、村に伝わるの農業の女神を祀る踊りを舞っていたときも、その美しい姿は偶然通りかかったAngel Clareの目を捉えるに十分だった。

自然がTessに与えた魅力は、時として彼女自身も力の及ばないものであり、果ては彼女を脅かすようになっていく。つぶらな目元、魅力的な唇…。貧農の生まれではあったが、初等教育も受けており、美しい標準語も話した。その豊かな発声も口元の美しさを際立たせた。

父親がふとしたことから、由緒ある家系であることを知る。世が世ならば、貧農に身を落としているはずはないのだと…。家は飼い馬が死ぬという悲運にも見舞われ、Tessは元の家系の血筋と分かった屋敷へ奉公に行くことになる。

しかし、そこは予期していたものとは全く違っていた。この家系は、そこの息子のAlecによって偽造されたものであったからだ。Tessの美貌に魅せられたAlecは芝居がかったやり方で彼女に近づく。田舎娘のTessは戸惑うばかりで、自分ではどうする事もできないのであった。やがて、彼に陵辱され、逃げるように実家へ戻る。しかし、彼の子を身ごもり、子どもを産むが、赤ん坊は亡くなってしまう。彼女は赤ん坊のSorrow(悲しみ)という名前を付けて洗礼を受けさせるのであった。

数年後、彼女は過去を振り切るように、新たな農場で働く。朝から晩まで乳絞りをする苛酷な労働であったが、そこで牧師の息子Angel Clareと出会う。大きな自然に抱かれた農場で二人が愛をはぐくむさまは楽園のアダムとイブを思わせる。Tessにとって、あの受難の後、最も幸福なひとときであり、厳しい労働を通しての慎ましい幸福は宗教的でさえある。

Angelは倫理的理想主義の信奉者であったが、実際には狭量な人間であり、伝統的な教区気質から抜け出していなかった。彼はTessに惹かれ、結婚を申し込む。

地位の違いを超えて二人は結婚するが、Tessの過去の告白によってそれは破られた。AngelはTessを赦す事ができず、思いやりのかけらもない、世俗さの最たる言葉を投げかけ、去っていく。彼は「主義の問題」としてTessを受け入れられない。Tessは悲しみに打ちひしがれながら、田舎の人間に典型的な「宿命論」に知らず知らずのうちに取りつかれていった。

Angelはブラジルの奥地に渡り、そこで暮らしながら「これまで、キリスト教を犠牲にしても、古代ギリシア風異教主義に徹しよう」と努めてきたにも拘らず、Tessを許せなかった自分の狭量に気づく。

その間にAngelの父が堕落したAlecを信仰へ導くという伏線がある。しかし、Tessと再会したAlecはあっさりと信仰の生活を捨て、再び彼女をものにするのだった。TessとAngelがエデンの園をモチーフに描かれているとすれば、Alecはさしずめサタンであった。家が破産した彼女はAlecに従うしかなかった。

Angel Clareが戻ってきた時は既に遅かった。
’Once Victim, Always Victim!’
悲痛に叫びながら、彼女は自らの手でAlecを殺める。その決定的瞬間は、主要人物を離れ、宿屋の主人の視点で描写されているのが興味深い。彼女の行為はまた、家系に伝わるnatureの影響であるとも暗示される。

その後のAngelとTessの短い逃避行は、石器時代の遺跡であるStonehengeで終わる。

石器時代の祭壇の上にTessは眠り、太陽神に捧げられた生贄のごとく囚われの身になっていくのだった。

コメント一覧

Elaine's
ななさま、コメントありがとうございます。
ここに書いていることは、講義等にはあんまり役にたたないかもです。でも、この作品に関しては、エンジェルにおける矛盾というのが重要になるでしょう。
なな
講義の試験に出るので検索したら、とても興味がもてる内容だとわかりました!
ありがとうございました。
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