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And This Is Not Elf Land

A Passage To India

E. M. Forster 『インドへの道』

舞台は英国植民地下のインド。インドは一枚岩の国ではない。ここに描かれているのはヒンドゥー教の伝統に生き、回教が支配するインドである。

小説の中ではインドと英国、或いはヨーロッパの対立が語られているかのようであるが、それは通俗的に言われる東西の対立というものの範疇には収まりきらないところがある。インドやその文化に造詣の深い人は言う-インドが理解しがたいと感じるならば、それはもっと宇宙的な意味での対立である。インドは無限の宇宙の中に息づいている。

この小説は、インドの息遣いの一つひとつが魅力的に表現されている。

比較的冷静に英国人と交流しようとするインド人医師、アジズ。しかし、逃れられぬ非礼な仕打ちを受けることもある。回教寺院で初めて出会った英国人のムア夫人に、思わず怒りをぶちまけてしまうのだった。

アジズには初対面のムア夫人に、最初からどことなく「心通うもの」を感じていた。
「あなたは人の気持ちの分かるお方だ。他の英国人たちも皆あなたのような人たちだったら。」という彼に夫人は「私は他人の気持ちがそんなにわかる人間ではありません。分かるのは、あの人が嫌い、この人が好き、ということだけです。」「じゃあ、あなたは東洋人です。」とアジズは言うのだった。

ムア夫人の息子の婚約者、アデラはインドに興味を持ち、英国人のインド人に対する態度を恥じていた。また、教育者、フィールディングも偏見なくインド人に接することに努めてきた人物だった。彼は理知的で我慢強く、教育の力を信じていたが、気の毒なことに、同国人との間には溝が出来ていた。

アジズはアデラ、ムア夫人、フィールディングらを洞窟旅行に誘った。

アデラはアジズと連れ立って歩きながら、婚約者との不満足な関係に思いをはせていた。ふと目をやったアジズは典型的な東洋の美男子であった。アデラは、単なる好奇心からであったのだが、彼の妻子や結婚生活の事まで問い詰めてしまうのだった。アジズはアデラのぶしつけな質問に不愉快になっている。アデラは、なぜ淑女らしからぬ質問をしたのか分からなくなっていた。

そうこうしているうちに洞窟に到着する。

その後、混乱したアデラが発見され、アジズは逮捕される。洞窟の中で、彼女に屈辱的な振る舞いをしたとの嫌疑をかけられたのだった。

アジズの逮捕は民衆の関心を集め、反英国感情が湧きあがる。英国人はますますインド人への蔑視と警戒を強める。

フィールディングは何とか平和的に解決しようと奔走する。彼はアジズと面会し、話し合いを持とうとするが、不当逮捕に絶望しきったアジズの口から出たのはは、アデラの容貌を激しく中傷する言葉だった。呆然とするフィールディング。高度な教育を受けたエリート医師ではあっても、男尊女卑の考えが強く根付く社会で生きてきた人間の感覚はしみこんでいた。

法廷が開かれ、アデラは自分の身に起きたことを冷静に思い出そうとする。彼女の眼を引いたのは、法廷の手動式扇風機の紐を引っ張る役目の人間だった。おそらく、法廷内では最も卑しい身分に属する人間なのだろう。しかし、その男は呪われた運命の生まれとは裏腹に、見事な肉体の持ち主だった。

自然は神(キリスト教ではない異教の神)のごとき見事な肉体を創りだす。自然は差別など意に介していないのだということを、こうやって社会に示すのだ。この男は、法廷とは何ものであるかさえ知らないだろう。

やがて、アデラはありのままを証言し、アジズは釈放された。その頃、インド人からも慕われていたムア夫人は帰国するために洋上にいたが、船の中で病死し、亡骸はアラビア海を回りきらない海上に流された。
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