ウイーンのフォルクスオパーのレパートリの中には、オペレッタのみならずミュージカルも多く含まれている。そこで予てより、この劇場でオーストリアを舞台とした「サウンド・オブ・ミュージック」を観てみたいと思っていたのだが、今回のウイーン滞在中に運良く巡り会うことが出来たので、これ幸いと出かけた。演目のせいか、レイバー・デイという休日のせいもあってか、劇場は家族連れで一杯だった。そもそもこの演目は、リチャード・ロジャース&オスカー・ハマーシュタインというミュージカル界の大御所二人が作り、1959に初演されたブロードウエイミュージカルなのだが、それを基にして1965年に制作されたジュリー・アンドリュース主演の映画の方が数段有名になっている。このミュージカルのフォルクスオパー初演は2005年で、今回観た舞台はその再演ということになる。そんなわけなので、聞き知っている物とは筋は同じでも曲の順番は異なるし、知らないメロディもあったような気もするし割愛されている情景もある。それでも手際よく舞台化されていて、今回の目的だった本場感は十分に満喫した。しかしマリアを歌ったLaurence Urquhartの歌に独特のコブシがあり、かなりの違和感を感じてしまったのは事実である。まあこちらにはあのジュリー・アンドリュースの適役振りが染み込んでいるだけに辛いところはあるのだが、それにしてもちょっと癖がある歌唱だった。今回一番感動的だった情景は、逃亡の直前にザルツブルグ祝祭劇場の舞台で家族が歌う場面だ。なにせフォルクスオパーの客席をザルツの舞台に見立てる演出で、下手Parterre席にはナチスの将校2名が陣取って居るし、Parkett席の方々には鉄兜を被ったドイツ兵が居るし、サーチライトは客席をグルグルと照らすしと、それはもう臨場感満点で思わず緊迫感のあるドラマの中に引きづり込まれてしまった。しかし不思議だったのは愛国歌と知られている「エーデルワイス」が歌われる場面で、客席に向かって舞台から歌うように促すのだが、観客からの歌声がほぼ聞き取れなかったことだ。実はそのあたりは客席を含めての大合唱になるんじゃなかろうかと期待していたのだが、それは期待外れに終わってしまった。1938年のナチによるオーストリア併合と言うと、それにより多くのユダヤ人芸術家が散々に亡命していった歴史などから、オーストリアにとっての歴史的悲劇と勝手に刷り込まれている我々とは、実際の認識はいささか違うのかもしれないなと思った次第。
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