ウイーンの「フォルクスオパー」というと”オペレッタ”と連鎖的に思ってしまうが、それは日本固有のイメージであってどちらかと言うとウイーンという街に於いてはシュターツオパーに続く2番目の常設小屋という位置付だ。あくまでもセカンド・ラベルなのだから、こちらには世界的な超一流のキャストが揃うこともないし観客にVIPが混じることも決してない。しかしだからと言って出し物が面白くないことは決してないし、むしろ小回りが利いて興味深い良い舞台ができることもあるだろう。思い返せば最初にウイーンでオペラを観たのはこの劇場の「ウイーン気質」だった。1972年のことである。パブリックスペースが狭くって、ろくなロビーもなくて休憩時間には皆外に出てミモザなんかを飲むのだが、観客が皆寛いでいる独特な雰囲気が私は大好きだ。そんな魅力一杯の劇場で今回はオットー・ニコライ作曲の歌劇「ウインザーの陽気な女房達」を観た。この演目は2012年5月のこの劇場の来日公演で観たこともあり、その時は気の利いた舞台とサッシャ・ゲッツエルの切れ味良い指揮に感心した覚えがある。今回はそれとは別の2023年プリミエのNina Spijkersによる新プロダクションだったが、今回もとても楽しく観た。このプロダクションの一番の特色はジェンダーの問題を裏に漂わせていることだが、しかし深刻にそれに切り込まずに楽しさに変えているところが何とも気が利いている。時代設定は1918年、すなわちオーストリアで女性参政権が確立する前年である。女性達がヒゲを生やして登場したり、男性が女装したり誠に楽しい。そして歌手達は皆若いが立派な歌役者達で何とも生きが良く気持ちの良い舞台だった。その中で2012年の来日公演時には「ライヒ氏」を歌っていたMartin Winklerが、タイトルロールのファルスタッフ役で実に味のある存在感を醸し出していたのが嬉しかった。そして一番印象に残ったシーンは第3幕の大きな月に照らされたウインザーの森。ここでは音楽もそれまでのドタバタとは趣を大いに変えて幻想的で美しかった。指揮はKeren Kagarlitskyという女流。こちらは元気で統率力はあるのだが些か一面的かなと感じさせるところもあった。
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