5月の連休に14年振りで新緑のウイーンを訪れ、国立歌劇場でクリスティアン・ティーレマンの振るワーグナー作曲の歌劇「ローエングリン」の公演二日目を観た。私自身この劇場を訪れるのは今回が1980年12月以来8度目となるが、ルティーン公演の中にはかなり手抜きの舞台もあることを知っている。しかし今回は2022年ザルツブルク復活祭で初演されたJossi WielerとSergio Morabitoによるプロダクションのウイーン引っ越公演だけあって、指揮者を始めキャスティングにはかなり力が入っていたと思われる。それゆえに演奏の方は音楽的にはかなりの水準だったと言って良いだろう。取り分けティーレマン指揮するオケの雄弁さには流石ウイーンと思わせるところが随所に聞かれた。タイトル・ロールのDavid Butt Philipは力感みなぎるクセのない歌唱、一方敵役テルラムントのMartin Gantner 及びオルトルートのAnja Kampeの悪役ぶりには説得力があって充実したドラマが展開した。ハインリッヒ王のGeorg Zeppenfeldはザルツブルク初演でもこの役を歌っており、安定の歌唱は申し分なかった。エルザのMalin Bystroemは個人的な好みで言えばもう少し声にクリヤーさが欲しかったが悪かったわけではない。ただ今回の舞台の問題は明らかに演出にあった。時代を全体的に第一次大戦頃に設定したような視覚的印象の作りであったが、それより何より病的なホームレスのような出で立ちでエルザが道端にうずくまって登場した時点で悪い予感がした。しかしその予感は残念ながら的中した。第三幕のフィナーレに及んで、出自を問われエルザのもとから去らざるを得なくなったローエングリンは、用水路に身を投げ、それはゴットフリートの死体となってエルザによって救出されるが、水から上がった瞬間に死体は生き返ってエルザを剣で刺し復習を果たすという幕切れには開いた口が塞がらなかった。しかしエンディングの音楽は決してそんな内容を決して語っていないではないか。これは明らかにワーグナーの音楽を冒涜した自己満足的な解釈である。そしてこのような陳腐な舞台を見せられてもティーレマンへの大声援以外、ブーの連呼も聞こえないウイーンの聴衆にも私の開いた口は塞がらなかった。
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