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蛍のひとりごと

徒然に、心に浮かんでくる地唄のお話を、気ままに綴ってみるのも楽しそう、、、

三絃のおネジが動かないときには・・・

2009年06月19日 | 楽器のおはなし
ちょうど菖蒲の花咲くころ・・・

蒸しっと暑くて、そろそろ薄もののお着物にお袖を通したいお日和に、それとなく箪笥の抽斗を開け閉てしながら、まるでいつものように何気なくお三味線を手に取って、まるでいつものようにお調子をとろうと糸巻きに手をかけたそのとき・・・あらっと突然、お三味線のネジがビクとも動かなくって、お困りになったことってございませんか?


お三味線のおネジは、まるで魔法のように、ほんの紙一重の手加減で止まっております。


だんだん気温が上昇してゆく季節には、その温度差で 天金(テンカネ/おネジをはめ込んでいる金属製の筒のようなもののことです)が わずかに膨張いたします。そのわずかな膨張のせいで、昨日はちょうどよかったはずのおネジがきつく締まり、今日はびくとも動かなくなってしまうのです。

白ネジ(お象牙製のネジ)のついた高価なお三絃ほど、使われているGOLDの量が多いものですから膨張しやすく、つまり、この事故が起こりやすいので、余計に気をつけなければなりません。この時期、お稽古を終えて大切なお三絃をおしまいになるときには、おネジをぜひ少し緩めておかれることをお勧めいたします




それでも動かなくなってしまった場合には・・・

どうぞ、くれぐれも慌てないでくださいませ。
あ~ら大変と大慌てで、おネジをやみくもに強くまわして壊してしまっては一大事です!!!

金属が熱膨張しているだけですから、天金の温度を下げれば大丈夫です。

私が以前にこうなったときには、上棹を外して、濡らさないようビニール袋に包み、ちょっとだけ冷凍庫に入れましたら、あっという間にクルリと難なく外れました。
軽症でしたら、アイスノンをおネジの近くにそっと寄せて冷気を送るだけでも外れます。


そんなわけで、楽器を濡らしてしまうことのないよう、温度だけを下げたくて、いろいろと苦心をするのでございますが、先日、お稽古にお見えになったお弟子さんに、『冷えぴたシートを ピタッと貼ったらとてもうまくいきました』 っという耳よりな体験談を教えていただきました
これでしたら、うっかり湿らせてしまう心配もなく、簡単におネジが外れるのだそうでございますヨ。
常温で保存出来て、そのうえ持ち運びも出来ますので、お出かけ中でも大丈夫とのこと・・・なるほど!!! 便利な世の中になりましたね
いざというときに慌てないですむように、念のために買い置きをしておかれるとよろしいかもしれません。






大蛍 ゆらりゆらりと 通りけり・・・  



しのつく雨の夏至の夕暮れ、ぼんやり明るいお外を眺めながら、去年出会った蛍を思い出しております。
昨年のちょうど今頃のこと、熊本県の川辺の露天風呂でせせらぎを聞きながらのんびりしておりましたら、蛍が一匹 ゆうらりゆらりと遊びにきてくれて、ほぅ~ほぅ~っと可愛く光りながら、ゆらりゆらりと通り過ぎてゆきました。お顔が綻んで、なんだかとっても幸せな気持ちになりましたワ・・・。
いつかまた そんな蛍に逢いたいです













お象牙の不思議

2007年01月30日 | 楽器のおはなし
かつて、薄赤く色づいた丸撥(お象牙の撥)を拝見したことがございます。
滝沢先生は、見事な真っ黄色に色づいた丸撥に某所でお出会いなさいましたとか・・・。

お象牙には、ナント、まわりの色が移ってしまうという不思議な性質があるのです。

前記の赤く色づいた丸撥は、そうとは知らない方が、赤いつや布巾をお使いになっていらしたために、そういう残念なことになってしまいました。悲惨な状況でしたが磨きにかけましたら、なんとか目立たなくなりました。少し安心です。
ですから、お象牙の撥は、必ず真っ白なつや布巾に一旦包んでから、撥入れにおしまい下さい。
白いつや布巾をお持ちでない場合には、白い無地のハンカチを二枚重ねてお使いになられればよろしいでしょう。では、豪華なレースをあしらってあるステキなハンカチは?・・・真っ白でしたら、もちろん大丈夫です。





お象牙の箏柱も同様ではございますが、こちらは、つや布巾に包んだりいたしませんので、これまでは幸いにも、色づいたお道具に愕然とさせられるという悲しい経験をしないですんでおりました。

ところがつい先日のことでございます。
極くうっすらと、いくらか生成りのような色に染まり始めているお象牙の箏柱に出会ってしまいました???。不思議に思って拝見いたしましたら、お象牙の柱入れの中のビロードが可愛い橙色で出来ているのでございます。しばし茫然・・・。

私は、この柱入れを製造なさった業者様に苦情を申し上げたいと思いました。こんな高価な柱入れに、まさか、プラスティックの柱を入れるはずもございませんのに・・・。
ブツブツ・・・
大切なお道具でございますから、どうぞ皆様、ご購入の際にはくれぐれもご注意下さいませ。

もっとも、このお柱の場合は幸いなことに、まだあまり年月を経ておりませんでしたので、私のような神経質なものが目を尖らせない限り、殆ど気がつかない程度の色づき具合でございました。すぐさま、まっとうな柱入れのお買い替えをお薦めいたしましたので、今はお象牙もヤレヤレとさぞホッとしていることでしょう。

余談でございますが、このお柱は、面取りをしておりませんでした。箏柱が角張っておりますと、お柱を動かすたびに、大切なお箏のお顔を少しずつ削ってしまいます。お箏が痛がって泣いているようで可哀相。
お柱は必ず面取りをして、どうぞ優しくしてあげて下さいませね。





昨日は、わざわざ横浜のお教室まで亀屋さんにお越し頂きまして、サワリの具合などはその場で直していただき、棹直しの分はお持帰り頂きました。いつも面倒な修理ばかりお引き受けいただいて、有難く思っております。それぞれにご縁があって、いつの間にか集まっているマイファミリーの11丁のお三味線と13面のお箏達、どれも継子にしないよう、公平に変わりばんこに弾いてあげたいので私も必死です。そして定期的に必要なメンテナンスは、お三味線屋さんやお箏屋さんの大きなお力を頼りにいたしております。





今日は久しぶりのお休みの午後。
窓から見える柔らかな明るい日差しにうっとりしながら、『夕べの雲』のひとうための作譜に取り掛かっております。


       憂しと見るも月の影
       嬉しと見るも月の影
       薄雲のたなびきて
       心の色ぞほのめく

そのうち、ご披露できると嬉しいです・・・



ベトナムの一弦琴

2007年01月16日 | 楽器のおはなし
どこにおりましても、何をしていても、稽古のことが頭を離れない不器用な性格が習い性となって長年暮らしておりますので、外国、なかでもとりわけ、南の方の国にまいりますと、大きな深呼吸と一緒に、心の底からの開放感に包まれます。今年は、南ベトナムでノンビリとしたお正月を過ごしてまいりました。

広大なメコン河のゆるやかな流れの中を、心地よい風に吹かれながら手漕ぎボートでゆるゆると進むとき、日頃は大好きでたまらないはずの日本文化の、きりりと身の引き締まるような緊張感や気概など『どこ吹く風』という気分にさせてくれるのが、たまさかの気分転換には何より有難いのでございます。




クルーズの途中に立ち寄った小さな島でお茶を頂いておりましたら、思いがけずベトナムの一弦琴と胡弓、それにお唄を聴くことが出来ました。

日本の一弦琴は、左指に輪管を嵌めて絃を押さえることで音程を変えながら、右手でお箏の様に弾きますが、ベトナムの一弦琴は違います。右手に、竹をちょうど爪楊枝のように細く削ってつくったピックを握り、ハーモニクス奏法で鳴らします。太い竹を半分に割った上に絃を一本張ったというシンプルなつくりのものの左に、金属製のレバーのようなものが立っておりまして、このレバーを左手で操作することで、ヒューンヒューンとさらに変幻自在に音程を変化させるのです。音が小さすぎるからといって、大胆にもスピーカーを取り付けてありました。
(上のお写真は、付け焼刃で魅惑の音色に挑戦しているナリキリ蛍でございます。)

二胡は、ココナッツ胴に蛇皮を張ってありまして、弓は、本来でしたら馬のしっぽの毛、でも普段はナイロン製ですとか・・・。そこへ何故か普通のギターも加わって、三人でベトナム音楽を演奏してくれました。この暢気さがまたよろしいものです。類推いたしますに、ベトナム民謡といった類のものでございましたでしょう。気分もほどよく盛り上がってまいりましたところへ、ほっそりとした御姉さまがササッと前へ進み出て、ベトナム語で少しお話をなさってから、とても綺麗なお声で、お唄を唄って下さいます。
うっとり・・・


私達が小さかった頃、お盆に里へまいりますと、お三味線や太鼓、お笛に合せて、のどに覚えのある方達がさも得意げに盆踊り唄を披露し、私共は、大人達と一緒に輪になって踊り、初盆のお家からふるまわれるお精進の煮物を頂いたりしたものでございます。ふと心懐かしく思い出されると同時に、苦い気持ちが一瞬、胸をさしました。懐かしいような羨ましいような・・・そして、いつまでもこの唄を手放さないで下さいと心のそこから願いながら、爽やかな笑顔と美しい歌声に時を忘れておりました。



日本人が、本当の唄を唄えなくなってしまったのはいつの頃からなのでしょう。



そもそも、学校での音楽授業とはなんなのでございましょう。一体、何を教えたいのでしょう。
疑うことを知らない純真な子供時代の私にとりまして音楽のお授業は、楽しくてたまらない大好きな時間ではございましたけれども、今、大人になって改めて思い起こしてみますと、謎だらけ???の不思議なお時間でございます。幸か不幸か私自身は、云われた通りのことは器用にこなす子供でございましたが、三拍子や四拍子がとれなかったり、平均律がとれなかったりするのは当たり前の日本の子供達が、なぜ、音痴ということになっちゃうのでございましょうネ?どなたのご趣味で、あのような発声で唄うことを皆に強要されるのでしょう。ウブな蛍も、さすがに思春期を迎える頃には、割り切れなさと不信感でいっぱいになってしまっておりました。私がまいりました高校では、結果的には粋なはからいと申しますか、音楽の授業が選択制になっておりましたので、おかしな音程やおかしな発声の無理強いは、中学校までの辛抱で終わりにさせて頂くことが出来ましたことは、精神衛生上、全く幸いでございましたけれども・・・。

「学校に音楽の授業は必要ありません。学校で音楽など教えるせいで、日本人はとうとう唄が唄えなくなりました。」
数年前のある日の午後のことでございます。六本木クローバーで大好きな山岡知博先生と美味しいコーヒーを頂きながら、さまざまなお話を伺っておりましたら、先生が慙愧に耐えないといった面持ちで呟かれました。それまでの長い間、私ひとりの心の中で悶々と自問自答を繰り返すばかりで、口に出して上手に云えなかった言葉を、こんなお偉い先生から突然、キッパリと伺うことが出来て、私はどれほど驚いたことでしょう・・

『花は野にある様 炭は湯の煮ゆる様』とは、私の好きな利休七則でございますが、お唄の心も同じことかと心得ております。



唄を忘れた悲しい私達日本人に、もとのような美しいお声が戻ってくる日は、また再び訪れるのでしょうか?






すっかりお話がそれてしまいましたけれども・・・
旅のもう一つの大きな目的は、土地の美味しいものをいただくことなのは云うまでもございません。
毎朝のフォーを楽しみにしながら始まるベトナムのお料理は、どれも美味しくて・・・
大変結構なお国でございました

『ハ』の高い三絃

2006年07月05日 | 楽器のおはなし
先だって嬉しい御縁がございまして、紫檀棹の古いお稽古三味線が一丁、私共のところに参りました。


三絃棹の材料には、花梨か紫檀か紅木を使いますが、お舞台用にはもっぱら紅木棹を使用いたします。
紫檀棹は、あくまでもお稽古三味線という割りには硬くて加工が大変なので、最近はあまり作られないとか伺っております。そのせいでしょうか、殆ど見かけなくなってしまいました。

子供の時分のお稽古初めに、最初に誂えて頂いたお稽古三味線が紫檀棹でございましたが、そしてそれは今でも上永谷のお教室で大切に使っておりますけれども、それ以来、紫檀棹とは絶えて御縁がございません。かくして、私にとりましては、二丁目の紫檀三味線ということになります。



さて・・・
その嬉しい紫檀三味線なのでございますが、残念ながら、ちょっと『ハ』が高くて弾きにくいつくりでございました。1ミリとは違わない寸法といえども、『ハ』が高いのは、パンパンしたような音がしてどうにも気に添いません。



『ハ』の高いお三絃を弾きこなすには、三つの手立てがございます。

   1、ほんの少し高いという程度でしたら、幾分、撥を浅く持って弾けば、まずまずよろしいでしょう。

   2、低い駒をあつらえるという方法もございます。

   3、それでも難しい場合は、お三味線屋さんにお願いして、『ハ』を低く直して頂くことになります。




いろいろ考えましたけれども、今回の場合は思い切って、棹直しに出すことにいたしました。
碑文谷の『琴光堂さん』にお願いしましたら、お陰様でとても良い調子に出来上がって参りまして、お稽古場で一日中、気持ちよく響いてくれました。

すっかり調子付いた私・・・
近頃、お知り合いになりました豪徳寺の『亀屋さん』がちょうどお見えになられたものですから、他の御用のおついでに、もとからあった何とも弾きにくい並紅木をそおっと差し出してみましたら、さすがですね。それこそあっという間に丁寧なお仕事を仕上げて届けて下さいました。
いつの間にかすっかり出番をなくしていた可哀相なお三絃をよくしてくださって、ほんとに有難いこと・・・ましてお仕事のお速さには全く脱帽でございます。




ところで・・・
平素より何かと大変お世話になっております『鶴屋さん』に数年前、拵えていただいた『のべ棹』のお三味線は、万事に亘ってお加減がよろしくて、それにはやはり九州の駒がピッタリ合います。それに九州撥をあてましたら、これ以上はないほど弾きやすく、お師匠様のお陰でお道具の運に恵まれる私はなんて幸せ者と感謝しております。


そういうふうに慣れ親しんだお道具であっても、
「リハーサルも済ませて、これで万全と調整してあっても、何かの加減で音に張りが無いと思ったら、たとえお舞台で幕が開いてからでも、弾きながらサッと撥を深く持ち替え、逆にパンパンするようなときにはツルリと浅く持ちかえる位の臨機応変さがなければいけません。」と、目白のお師匠様に教えられます。
師匠よし、楽器よし・・・あとは私の精進あるのみ・・・最後は必ず、ここに行き着く結論でございますネ






今日のようなお休みの日に限って、お陽様が覗いておりますけれども、ここのところのお稽古日は雨降りばかり。
お足元のお悪い中、お休みもなさらずお稽古にお通い下さる皆様、ありがとうございます。調整をすませて、すっかりお加減のよくなったお稽古三味線の弾き心地を、せめてご堪能いただければ幸いでございます。

津軽三味線

2006年04月11日 | 楽器のおはなし
テレビ東京の新番組『豪腕コーチング』で、タレントさんが三味線に挑戦するという企画がございまして、その練習風景の録画撮りが、昨日、私共のお稽古場で行われました。(4月24日20:54オンエア)

師匠は正司歌江さん、お習いになるのはヒロシさん。

タレントさんって大変でございますね。
たった五日間かそこいらで、見たこともないような楽器をとにかく何とか格好をつけて、テレビで生演奏をするというのですから・・・。

今回、ご使用になられる楽器は津軽三味線。
お弾きになられる曲は、『帰ってこいよ』という歌謡曲です。
普通の津軽三味線の曲でしたら、それなりの手の流れというのもございましょうが、今回、挑戦なさるのは歌謡曲ですので、なおさら難かしかったことでしょう。

ヒロシさん、スタジオでの本番、頑張ってくださいね。




歌江師匠のサポート役として付き添って来られた津軽三味線の長谷川一義先生は、青森で、お父様の代からの津軽三味線のお家柄でいらして、現在は大阪にお住まいでいらっしゃいますとやら・・・とても素敵な方でございました。

お持ち物もオシャレで凝っていらして、総鼈甲の撥には、螺鈿の蒔絵・・・。
お三味線の長袋には、目立たないようにさりげなくご家紋がほどこしてあります。
目ざとく見つけた私、「そのご紋は、縫い紋でございますね?」
長谷川先生は、恥ずかしそうに「ええ、マアそんなところで・・・。」
なぁんてにごされて、そそくさとお仕まいになられましたけれども、
『私の長袋にも近いうちに縫い紋を入れさせて頂きましょ
ミーハーな私は、心ひそかにニッコリ頷いたのでございました。




とわずがたりに・・・

『六段』と申しますのは、地唄箏曲の専売特許かと思っておりましたら、何でも、『津軽じょんがら六段』という曲があるそうでございます。
お箏の『六段』と同様に、等拍の六つの段で構成され、全国的に統一された基本曲という位置付けとのこと。
撥の基本、ハジキの基本を一年間、みっちり仕込んた後で初めて取り掛かるのが一番よろしいのだそうで、私共が馴染んでおります『六段』と似た感じがいたします。やはり「もとはお箏から来たのかもしれません。」とのことでございました。
最近の若い方が基本の習得に時間をかけず、すぐにアレンジ弾きをしたがるのが、お悩みの種でいらっしゃますとか・・・。
そのあたりは、いずこも同じでございますね。


ところで、長谷川先生は、たまにはお頼まれして、津軽三味線で地唄を弾かれることもあるそうでございます。
そのときは、駒を地唄駒に替え、撥も津山に持ち替えられ、「そうしましたら自然に構え方も地唄風に変わります。」とのおはなしにもご造詣が伺われます。


ずっしりと持ち重りのする太い見事な棹のお三味線を持たせて頂きました。
皮は犬皮を強く厚く張り、撥皮は長四角。東サワリに頑丈そうな太いおネジ・・・。
拝見しているだけで、雄雄しい音色が聴こえてきそうです。
それに較べて、細く繊細な竹駒が印象的でございました。


今でこそ津軽は太棹を使いますが、以前は地唄と同じ中棹をお使いになっていらしたこと。
昨今は、音を少しでも大きくということでこうなりましたが、昔の門付けでは、
こんな重たいものは下げて歩けませんでしょうとのお話もごもっともでございます。





お大切な素晴らしい楽器やお道具も見せていただき、また、さわらせてもいただきまして、
すっかり楽しませていただきました。
本当にありがとうございました