MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

虐殺器官

2012年04月22日 22時35分21秒 | 読書

「最近更新してないですね」と知人から指摘をうけました。

確かに、ここのところ、かつてと比較して一段と更新頻度が落ちております。

ということで、本を読んだり映画を見たりしたそのたびごとに細々と更新してみるという方法を試してみることにします。

まず、昨日読了したのは、「虐殺器官」というSF小説です。著者は伊藤計劃。

この人のことはよく知らなかったけれど、この本が「ベストSF2007」国内篇第一位、「ゼロ年代SFベスト」国内篇第一位。第1回PLAYBOYミステリー大賞【国内部門】第1位など、あちこちの賞を総なめにしていることから察するに、かなり凄い書き手なのではないか?という予感はありました。

また、本の帯には、宮部みゆきの「3回生まれ変わっても、私にはこんなに凄いものは書けない」というコメントもあり、いやがうえにも期待は高まりました。

さて、読後の感想ですが、

確かに、宮部みゆきが3回生まれ変わっても絶対に書けない小説であることは間違いありません。そんな小説です。ある意味凄いです。普段それほどSF小説は読みませんが、たぶん日本にはこの手のSF小説はかつて存在しなかったといっていいのではないでしょうか。

どこが凄いか。とにかく、この作家は様々な分野について非常に造詣が深いことが窺い知れます。テロ問題、貧困問題、南北問題などのさまざまな国際的な社会問題に対するかなり突っ込んだ記載がありますし、そのほかにも映画や文学、現代思想、世界史、宗教学、言語学、社会学など筆者の守備範囲は相当に広いものと推察されます。

ですから、しいて言うと、ある意味ウンベルト・エーコの小説を読んでいるときのような知的好奇心をぐらぐら揺さぶられるようなあの感覚に似たものがなくはありません(褒めすぎか?)。

しかし一方で、人物描写が不十分だったり、敵側の男が為したことの動機の説明にいまいち説得力が欠けていたりと、評価を下げざるを得ない部分がそれなりにあることは否めません。

ストーリーを要約すればおそらく数ページで済むところ、いろんな尾びれ背びれがついて、実に400ページもの大作に仕上がっていますが、特に、登場人物達の、物語の筋に直接関係がないと思われるような冗長な会話がまるで禅問答みたいに続いたりするところなどは、どうしてもテンポ感に欠けてしまいます。

ただし、伊藤計劃氏にとって、この小説がはじめての長編小説であり、しかも第一稿をわずか10日で書きあげたなどという話を聞いてしまうと、これらのマイナス点を差し引いても、尚、その筆力は凄いとしかいいようがないと思います。

この作家は、本作のデビューからわずか2年後にがんのため齢34才で早逝してしまったそうです。
おそらく伊藤計劃は末長くSFファンの間で伝説として語り継がれてゆく存在となるでしょう。

以上、更新おわり。

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