MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

春を恨んだりはしない

2012年05月17日 22時42分16秒 | 読書
池澤夏樹の「春を恨んだりはしない」を読む。

池澤夏樹氏が、震災後の東北地方を訪れて様々なボランティア活動を行いながら書き綴ったエッセイである。

「自然にはいかなる意思もない。自然が今日は雪を降らそうと思うから雪が生まれて地表に達する。それを人間は降る雪として受け取り、勝手に喜んだり嘆いたりする。その感情に自然は一切関与しない。無関心は冷酷よりもっと冷たい。感情の絶対零度」

当たり前のことなんだけど、震災+津波のような巨大な自然災害に見舞われたあと、人はその理解を超えた不条理極まりない自然の所作にただ呆然としてこれを受け入れるしかない。

「津波があと1メートル下で止まってくれていたら、あと20秒遅かったら、と願った人が東北には何万人もいる、。何万人もの想いは自然に対しては何の効果も影響力もなく、津波は来た。それが自然の無関心ということだ」

この章の中で、池澤はヴィスワヴァ・シンボルスカの「眺めとの別れ」という詩を引用する。

  またやって来たからといって
  春を恨んだりしない
  例年のように自分の義務を
  果たしているからといって
  春を責めたりはしない

  わかっている わたしがいくら悲しくても
  そのせいで緑の萌えるのが止まったりはしないと・・・


「この春、日本ではみんながいくら悲しんでも、緑は萌え、桜は咲いた」のである。
自然とは(あたりまえだけど)そういうものだ。
自然を目の前に、人は深く頭を垂れてただただそのものを受け入れるしかない。
“もののあわれ”とは、この緑のことであり、桜のことだ。

「深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染めに咲け」

そんなことが起こりっこないことは承知の上で、尚、そう願うのだ。
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