MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

患者よ、がんと闘うな 2

2014年01月08日 22時58分30秒 | 読書
前回の続きです。

近藤誠氏の主張の大きな柱の一つに“9割の癌には抗がん剤は無効であるから、そのような患者は抗がん剤治療を受けてはならない”というものがある。

近藤氏によれば、抗がん剤の有効性が明らかなのは血液腫瘍など悪性腫瘍全体の約1割に過ぎず、残りの9割の悪性腫瘍には抗がん剤は無効であり、そのような癌にたいして抗がん剤を使用すると、無効であるばかりか、副作用のために寿命を縮める可能性があり、最悪の場合アナフィラキシーなどで“即死”することすらある(!?)ので、抗がん剤治療など決して受けてはならないという。

ちなみに、近藤氏の言う“抗がん剤が無効”であるというのは、抗がん剤治療により全生存率が改善するということが臨床試験で証明されていないということを意味する(抗がん剤が無効な癌として、脳腫瘍、頭頚部がん、甲状腺がん、非小細胞性肺がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、大腸がん、副腎がん、腎がん、尿管がん、膀胱がん、子宮頚がん、子宮体がん、前立腺がん、皮膚がんなどが挙げられている。ただし1990年代前半に著された本の記載なので、2014年現在のエビデンスがどうなっているのかについては不明)。

近藤氏はさらに、十分なエビデンスがないのにもかかわらず、学会主導で編纂された「がん治療ガイドライン」にしっかりと「抗がん剤治療」が標準治療として盛り込まれているのは、結局のところ、製薬会社やoncologistなどの食い扶持を維持することが目的なのではないかと疑問を呈する。

この辺りの議論については、私自身、文献を参照しているわけではないので個人的な判断は差し控えるが、抗がん剤を使うと“即死”するとか、製薬会社の利権がからんでいる、などといった、悪意に満ちた(?)表現を除けば、一概に的外れな主張とは言いいきれないものがある。

確かに、最近の抗がん剤を用いた臨床試験は、全生存率は改善しないけれども、腫瘍が再増大するまでの期間が延長したとか、一時的に腫瘍の縮小効果があったとか、一時的に腫瘍の増大が抑えられたとか、そういった事象をもって“効果あり”と結論づけているものが多いのは事実だし、専門家の中にも「全生存率が改善していないのに効果ありと結論するのは問題だ」と考えている人は多い。

実際、医師にすすめられて、抗がん剤治療を受けてみたはいいが、副作用でつらい思いをした挙句、結局余命は改善しなかったというのであれば、抗がん剤治療は“受け損”だったというしかないわけで、近藤氏が主張するように、十分なエビデンスがないのに標準治療と位置付けられているものがもしあるのだとするなら、由々しき問題だと思う。

ところで、昨今、いわゆる“抗がん剤”とは違う“分子標的薬”なるものが数多く開発され、数々の臨床試験が進行中である。
これらの中にはpromisingなものもいくつか含まれており、今後、化学療法の領域に大きなパラダイムシフトがもたらされる可能性は十分にある。

ということで、続きはまた次回。
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