背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

クリスマス大作戦 【3】

2008年11月26日 04時27分48秒 | 【別冊図書館戦争Ⅰ】以降


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喋って食べれるのが売りのそのコンビニで、中華まんを買い、二人は窓際の席に移動した。
向かい合って座り、さっそく戴く。
柴崎はチーズ明太子が品切れだったので、カレーまん。手塚は特製黒豚まんだ。
「あんたってさらっと何の躊躇もなく特製とか買っちゃうところがセレブよね」
「セ、セレブ?」
思わず手塚は吹いた。
熱さのため口をはふはふとやりながら柴崎は「ん」と頷く。
「なんで豚まん食ってる時にそんな似つかわしくないセリフが出るんだよ?」
「さあ。ねえ、あんたの美味しそう。ひとくち頂戴?」
じっと手塚の手元を覗きこんで言う。
手塚は硬直した。
「あ、ああ」
「あたしのもどうぞ」
「ってかそれ、俺が奢ったんだろ」
「固いこと言わないの」
柴崎は持っていたカレーまんと、手塚の豚まんを交換させた。
一口と言いながらもぐもぐとかじりつくその唇に目が吸い寄せられる。
たとえいま食ってるのが肉汁したたる豚まんであろうと、心から美味そうに食べ物を戴く柴崎はとてもキュートだった。
彼女の正面の席をキープできる幸せを、手塚は手にしたカレーまんの温もりから知る。
手塚はちょっとためらってから、柴崎が口をつけてない部分に歯を立てた。ぱふんという空気が抜けていくような頼りない歯ごたえがする。
その時、背後にかかっていた有線がクリスマス特集に切り替わった。
一曲目は「サンタが街にやってくる」
「ありがと」とまたとりかえっこをして、カレーまんをぱくつきながら、聴くとはなしに曲を聴いているといった表情の柴崎に手塚は言った。
「そういやお前、イブ、結婚式なんだって?」
言ってから自分で驚く。
あれ、こ、こんなにあっさりを話を向けてよかったんだろうか?
でも柴崎は「そうなのよ」とこくりと顎を引く。
あ、れ……。
話の流れをそっちに向けていいものやら、踏ん切りがつかぬまま、手塚は、
「浮かない顔だな」
「そう見える」
「うん」
「実は、ゼミが一緒だったってだけで、あんまし仲のよかった子じゃないの。たぶん新婦側の友達の数合わせで呼ばれたんじゃないかなあ。東京に勤務してるからって理由で」
だからちょっとね。と言葉を濁した。
おめでたい話に、それ以上水を差すのもどうかという配慮だろう。
「でも行くんだろ」
「行くわよ。招待されたからにはね。それに、ホテルがあの○○なのよ。あそこの料理、美味しいって評判じゃない? 行くからにはフルコースがっつり食べてくるわよう」
力説する柴崎に、つい手塚は笑みを漏らす。
参加の理由がそれかよ。
昔の男に再会して、とか甘い期待とかじゃないんだな。
「お前は見かけによらず食いしん坊だからな」
そんなに細いのにな。と少し憚って小声で付け加えると、柴崎はつまらなさそうに鼻を鳴らす。そして、
「誰の前でもぱくつくわけじゃないわよ」
と返した。
「……そうか」
「そうよ」
自分たちが座る席はガラス張りで、交通量の多い道路に面している。
陽が出ている間なら外の様子も見えるが、今は完全に暮れてしまって、店内の様子と、互いの向かい合う姿しかそこには写されていない。
外から見たら、カップルに見えるだろうか、俺達。
そんなことを手塚は考える。
少なくとも、気心知れた関係に見えてるだろうか。
軽やかな曲のメロディをなぞって、しばらく二人は無言だった。ややあって、昔聴いたその歌詞を思い出しながら手塚は言った。
「あのさ……。お前さえよかったらの話だけど、結婚式の後、迎えに行こうか」



「お前、今年のクリスマス、どうするんだよ」
「俺か、俺はな……」

男子寮でもそんな会話がぽつぽつと聞かれ始めるようになるのは、12月も半ばを過ぎたあたりからだ。
それまでは互いに腹の探り合いというか、なかなか本心を明かそうとしないのがオスの習性。本命やそれ以外との予定調整と当日のシフトのやりくりに追われ、なかなか目処が立たないなんていう不埒者もいるせいでもある。
でも、その頃には大体イブの動向も定まってくる。大幅な変更を生じることもない。
ようやく、自分の予定を人にも話したくなってくるし、相手が彼女のために一念発起で組んだデートスケジュールを聞いておきたいという思いも頭をもたげてくる。後学に生かすため。自分の立てた計画のグレードをはかるため。
だから、12月中旬あたりから、男子寮ではイブネタが解禁だ。


と、いうことで。
「手塚はどうするんだよ。今年のクリスマス」
共有エリアのロビーで新聞を読んでいるとき、風呂あがりか、自販機の前で飲み物を片手に雑談している輪の一人に声をかけられた。見ると同期だった。
手塚は新聞から目をあげ、答えた。
「俺か。俺は夜からちょっと出かける」
「なに? 女か」
「そんなんじゃない。家に用事があるだけだ。頼まれてた物があるんだよ」
「ああ。お前地元だもんな」
「色っぽい話とかないのかよ。お前なんかあちこちの女子から話振られてたくせに、全部断っちまうんだからなー。もったいない」
話がややこしくなりそうな気配がしたので、手塚は手早く新聞を畳んだ。
ソファから腰を上げる。
「残念だけど、ないな」
「柴崎さんは?」
ひとつ上の先輩だったか。階級は同じその人に話しかけられ、手塚は浮かしかけた腰を止めた。
「さあ。知らないですけど」
無難な線で答えを返す。
その先輩はそっかーと首をひねった。
「お前の本命、彼女だっていうもっぱらの噂だけどな」
俺ってそんなにバレバレなのか。とほほ、という気分で手塚は首を振った。
「相手にしてもらってませんよ、俺なんか」
「図書隊の花だからなあ、柴崎女史は」
そこで、名前の知らない後輩が、おずおずと話に割って入った。
「なんでも、女子寮からの情報によると、柴崎さん、イブの日早上がりなんだそうです。ご存知でしたか」
なに!? と風呂あがり集団に一斉に緊張感が走る。
「ご存じでないぞ、それ。ほんとか。信ぴょう性はあるんだろうな」
先輩が後輩に食って掛かる。手にしていたコーラの缶をほとんど握りつぶさんばかりの勢いで。
「ほ、本当です。たぶん。……寮監も外出届受けてるとか」
「なに~!」
先輩は吠えた。
少し離れたところでテレビを見ていた女子二人が、あからさまにうるさげな視線を投げてよこした。
「外出届なのか? 外泊じゃなのか? どうなんだ」
先輩は後輩の胸倉を掴んで前後に揺さぶった。
「わ、わかりませんよ。俺には。ただ俺は、イブの日夕方から柴崎さんが基地を出るらしいってだけしか……」
あまりの剣幕に、後輩もしどろもどろだ。
手塚はそこで「お先に」と席を立った。後ろでまだがやがやと楽しそうに騒いでいる集団から距離を置いて部屋に戻る。
その途中、廊下を歩いているときジャージのポケットに突っ込んでおいた携帯が震えた。
手塚はほとんどマナーモードだ。フラップを開いて見ると、柴崎からメールが届いている。
「明日、10時半に駅前ね」
内容はそっけない。あいつらしい。
でも手塚は目を自然とカーブさせた。立ち止まり、その場で返信する。
さっきまでロビーでは見せなかった、柔らかい顔つきで画面を見つめながら手塚は操作をし終えた。
「分かってる」
それだけ打って、送信した。

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2 コメント

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え、えっとぉ (たくねこ)
2008-11-26 10:42:27
手塚はちゃんとお誘いできたのでしょうか??
どきどきどき…
まだ、イブの前じゃないですよね?↑の日。
ヘタレな手塚をみると、ハリセンですぱ~~んと叩きなる私です。
でもって、そんな隙だらけな手塚スキーです(^^;)
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ネタバレになるため、 ()
2008-11-27 17:19:57
レスが遅れてごめんなさいね>たくねこさん

お誘い、したみたいですよ。うちの手塚。
あまつ、その前のお約束まで。。。
ちゃっかりさん♪

今月、東京に出張で言ったんですが、東京の人、駅の中歩くの速いですねえ。
何かの加速装置ついてるみたいで、いっつも驚かされます(田舎者)
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