彼は世界中の言葉(ことば)を習得(しゅうとく)していた。ここまで来るには大変(たいへん)な努力(どりょく)が必要(ひつよう)だったことだろう。だが彼は、今まさに目の前で起きていることを見て愕然(がくぜん)としていた。子供たちが遊(あそ)んでいるのだが、何を話しているのか、彼らがしゃべっている言葉が理解(りかい)できないのだ。
彼は子供たちに駆(か)け寄り話しを訊(き)いてみた。すると、彼らが自分たちで作った言葉だということだ。彼は、自分の知らない言葉があることに我慢(がまん)できなかった。そこで、子供たちからその言葉を習(なら)うことにした。
この挑戦(ちょうせん)は、思いのほか大変(たいへん)なものになった。子供たちの使う言葉はどんどん変化(へんか)しているのだ。昨日覚(おぼ)えた言葉が、今日になると別の意味(いみ)を持つようになる。そこで彼は、言葉の変化を記録(きろく)することにした。何日もかけて公園に通(かよ)い、子供たちと行動(こうどう)を共(とも)にして、泥(どろ)だらけになって記録を取り続けた。
――彼のこの努力は、報(むく)われることなく終わりを告(つ)げた。それは突然(とつぜん)のことだった。子供たちが、彼らの言葉を使わなくなってしまったのだ。彼は、子供たちに訊いてみた。
「どうして、あの言葉を使わないんだい?」
子供たちは口を揃(そろ)えて言うのだった。「だって、面倒(めんど)くさくなっちゃったんだもん。もっと他に楽しい遊(あそ)びを思いついちゃったんだ」
<つぶやき>子供たちの想像力(そうぞうりょく)には無限(むげん)の可能性(かのうせい)があると思います。子供たちに限界(げんかい)なし。
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