みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0763「解読」

2020-01-02 18:25:35 | ブログ短編

 妻(つま)がパートから帰って来ると、中学生の娘(むすめ)が食卓(しょくたく)の椅子(いす)に座(すわ)って頭を悩(なや)ましていた。手には一枚の紙(かみ)が握(にぎ)られている。妻は娘に訊(き)いた。
「どうしたの? テストの点数(てんすう)でも悪(わる)かったのかな?」
「違(ちが)うわよ」娘はそう言うと手にした紙を妻に手渡(てわた)しながら、「これが置(お)いてあったの。これってパパの字だよね。何て書いてあるんだろ?」
 妻が受け取った紙に書かれていたのは、アルファベットと数字(すうじ)、それに漢字(かんじ)の羅列(られつ)、それに何かの動物(どうぶつ)の…、小さな子供(こども)が書くような下手(へた)くそな絵(え)だった。妻はため息(いき)をついた。
 夫(おっと)は推理小説(すいりしょうせつ)が大好きで、たまに面倒(めんど)くさいことを仕掛(しか)けてくる。きっとこれもそれだわ。――妻はさばさばとした性格(せいかく)で、細(こま)かいことは気にしない質(たち)だった。妻は言った。
「ほっときましょ。きっとたいしたことじゃないわ。夕飯(ゆうはん)の支度(したく)をするから手伝(てつだ)って」
 ――夕飯の時間になっても夫は帰って来なかった。妻は時計を見ながら呟(つぶや)いた。
「もう、どこへ行ったのかしら? せっかく作った料理(りょうり)が冷(さ)めちゃうわ」
「電話(でんわ)してみたら?」お腹(なか)を空(す)かせた娘が、料理を前にして不機嫌(ふきげん)な顔で言った。
 ちょうどその頃(ころ)、夫は駅前(えきまえ)で震(ふる)えながら立っていた。しきりに時間を気にしながら、
「もう何してるんだよ。せっかく外食(がいしょく)に誘(さそ)ってるのに…。あんな簡単(かんたん)な暗合(あんごう)も解(と)けないのかよ。信じられないな――」
<つぶやき>コミュニケーションの取り方、間違(まちが)ってませんか? 通(つう)じなきゃ意味(いみ)ないよ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする