夫(おっと)が仕事(しごと)から帰って来ると、玄関(げんかん)に大きなロボットが置(お)かれていた。夫が唖然(あぜん)としていると、家の奥から〈おかえりなさい〉と、妻(つま)の天真爛漫(てんしんらんまん)な声がした。夫は壁(かべ)とロボットのわずかな隙間(すきま)をくぐり抜(ぬ)けて、妻の声がした居間(いま)の方へ向かった。居間に入ると、夫は妻に言った。
「なあ…、あれ、何なんだよ。玄関にあった、あれ…」
妻は嬉(うれ)しそうに答えた。「あれね、家政婦(かせいふ)ロボなんだって。すごいのよ。家事全般(かじぜんぱん)、何でもやってくれるの。あたしは、ボタンをピピッて押(お)すだけでいいの」
「家政婦ロボって…。あんなのどうすんだよ? あんなにデカいんじゃ、台所(だいどころ)にも置けないだろ。それに、こんな狭(せま)い家で、邪魔(じゃま)になるだけじゃないか――」
妻は急に不機嫌(ふきげん)な顔をして、「あたしは、あなたのために…。少しでも美味(おい)しいもの食べさせてあげたかったの。それに、ロボちゃんに家事をやってもらえば、二人で一緒(いっしょ)に過(す)ごす時間が増(ふ)えるじゃない。あたし、あなたのそばにいたいだけなのに…」
夫は、泣(な)きそうになっている妻をなだめるしかなかった。妻はさらにつけ加えた。
「でも、心配(しんぱい)ないのよ。この家、リフォームしましょ。そうすれば――」
「ちょっと待ってくれ。そんなお金(かね)…。それに、あのロボット、いくらしたんだよ?」
「大丈夫(だいじょうぶ)だって。あのロボちゃん、計算(けいさん)にも強いのよ。あなたが、もう少し残業(ざんぎょう)を増やしてくれれば、家計(かけい)には何の問題(もんだい)もないんだって」
<つぶやき>これって亭主(ていしゅ)は元気で留守(るす)がいい、的(てき)なやつ? 一緒にいたかったんじゃ…。
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