水木涼(みずきりょう)は、神崎(かんざき)つくねの後から屋上(おくじょう)へ出た。そして、彼女は薄暗(うすぐら)い中に人影(ひとかげ)を見つけた。よく見ると、それは柊(ひいらぎ)あずみだった。あずみは涼に言った。
「こんな時間に呼(よ)び出してごめんなさい。ちょっと確(たし)かめたいことがあって」
涼はつくねに呟(つぶや)いた。「どういうことだよ? 話があるって…」
「だって、先生が待ってるって言ったら、来てくれなかったでしょ。ごめんね」
つくねはそう言うと、あずみの方へ駆(か)け寄った。涼は戸惑(とまど)いの表情(ひょうじょう)を浮(う)かべた。
「簡単(かんたん)なことよ」あずみは指(ゆび)さして、「あそこに竹刀(しない)が置いてあるでしょ。それを取って」
少し離(はな)れた所に竹刀が置かれていた。涼は面倒(めんど)くさそうにそちらへ取りに行こうと歩き出した。あずみはそれを止めるように言った。
「動かないで! その場所(ばしょ)で取りなさい。あなたならできるはずよ」
「そんなのムリでしょ。ここから手が届(とど)くわけないじゃん」
「そうかしら? 確かめてみましょ」
あずみが手を上げると、突然(とつぜん)、間近(まぢか)で雷(かみなり)の音が鳴(な)り響(ひび)いた。涼は驚(おどろ)いてしゃがみ込んでしまった。しばらくして涼が顔を上げると、そこは戦場(せんじょう)の真っただ中に変わっていた。
鎧(よろい)を着た武士(ぶし)たちが刀(かたな)を交(まじ)え、弓矢(ゆみや)が飛び交(か)い、足下には息絶(いきた)えた者たちが地面(じめん)を覆(おお)いつくしている。大勢(おおぜい)の人の叫(さけ)び声や、刀や鎧のぶつかる音が耳に飛び込んで来た。涼は足がすくんでしまった。その時だ。涼の目の前に大男の武士がものすごい形相(ぎょうそう)で現れた。
<つぶやき>幻覚(げんかく)の世界へようこそ。現実(げんじつ)じゃないとしても、こんな怖(こわ)いことはないです。
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