みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1364「輪唱」

2023-03-04 17:35:30 | ブログ短編

 何となく付き合い始めた二人。それから二年。好きだとかそういう告白的(こくはくてき)なこともなく、今だに何となくが続(つづ)いているようだ。そろそろ先(さき)のことを考えないと…。二人とも分かってはいるのだが、何となくから抜(ぬ)け出せないでいた。
 ぎくしゃくしはじめた頃(ころ)…。彼がぽつりと呟(つぶや)いた。「合唱(がっしょう)でさぁ。輪唱(りんしょう)ってのがあるだろ。あれって、最初(さいしょ)に歌い始めたヤツが止(や)めない限(かぎ)り永遠(えいえん)に続くんだよなぁ」
 彼女は、何を言っているのか分からず、「えっ? 何が言いたいのよ」
「だからさ、合唱だよ。高校(こうこう)の文化祭(ぶんかさい)の出(だ)し物で、クラスで合唱をやることになったんだ。俺(おれ)は輪唱をやることになって。男子(だんし)だけで十人ぐらいいたかなぁ。真面目(まじめ)に練習(れんしゅう)してさ…」
「へぇ、あなたが合唱ねぇ。なんか、そういうイメージないわぁ」
「そうかなぁ…。で、本番(ほんばん)の時にさ、最初に歌い始めたヤツが何度(なんど)も繰(く)り返すんだよ。一緒(いっしょ)に歌ってたやつら、何とか止めさせようとしたんだけど…。そいつさぁ、楽(たの)しそうに歌ってんだよ。それ見てたら、こっちまで楽しくなっちゃって。結局(けっきょく)、持(も)ち時間、使い切ちゃって…。俺たちの後(あと)に歌うことになってた女子(じょし)たちからブーイングの嵐(あらし)だよ。もう、みんなで土下座(どげざ)して…。でもさぁ、いま考えてみると、あの時はほんとに…真剣(しんけん)に楽しんでたんだよなぁ。――でさぁ。俺たちのことも…そろそろ……」
「あ…、そう。分かったわ。じゃあ、別(わか)れましょ。あなたが、そうしたいなら…」
「えっ? そうじゃなくて…。ちゃんと気持(きも)ちを伝(つた)えたくて…。好(す)きです。愛(あい)してます!」
<つぶやき>気持ちは、思ってるだけでは伝わりませんから。ちゃんと口にしないとね。
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