みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1366「映画三昧」

2023-03-10 17:28:25 | ブログ短編

 彼はどういう訳(わけ)か映画(えいが)の世界(せかい)に迷(まよ)い込んでしまった。いろんな映画のワンシーンに登場(とうじょう)してしまうのだ。でも、彼が演(えん)じるのは主役(しゅやく)でも脇役(わきやく)でもないエキストラだ。その他(た)大勢(おおぜい)の一人。ほとんどが引きの映像(えいぞう)なので、彼が目立(めだ)つことはまったくなかった。シーンが終われば、まったく違(ちが)う映画に飛(と)ばされてしまう。これはもうジェットコースターに乗ってるみたいに、めまぐるしく変化(へんか)していく。
 そんななか、彼は妄想(もうそう)した。「もし、主演女優(しゅえんじょゆう)と仲良(なかよ)くなったら…。映画の中で付き合うことはできるのか? これは試(ため)してみる価値(かち)はありそうだなぁ」
 そして、そのチャンスがやって来た。今度の映画の主演女優は彼が憧(あこが)れている人だった。彼女の出ている映画はすべて観(み)ているはずだが、このシーンは観た記憶(きおく)がない。もしかしたら新作(しんさく)なのかもしれない。彼は途中(とちゅう)から飛び込んだので、この映画のラストがどうなるのかまったく分からない。だからこそ、彼は主役を取ってやると意気込(いきご)んだ。
 このシーンの場面(ばめん)は何かのイベント会場(かいじょう)。屋外(おくがい)にテーブルや椅子(いす)が並(なら)んだ飲食(いんしょく)スペースのようだ。彼が座(す)っているところから二十メートルほど離(はな)れた場所に彼女は座っていた。彼と同じテーブルには女性のエキストラが座っていて、カップルということなのだろうがそんなの関係(かんけい)ない。彼は立ち上がると、彼女に向かって駆(か)け出した。途中で邪魔(じゃま)が入るかもしれないからだ。彼女のテーブルに着(つ)いたとき、彼女の姿(すがた)はそこにはなかった。
 彼は思わず叫(さけ)んだ。「しまった。このシーンは別撮(べつど)りだったんだ」
<つぶやき>この直後(ちょくご)、彼は別の映画に飛ばされたのは言うまでもない。彼は戻(もど)れるのか?
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