水木涼(みずきりょう)は倒(たお)れている男の顔を見た。自分(じぶん)とそんなに変わらない。いや、自分より若(わか)いんじゃないのか、と涼は思った。アキが男の身体(からだ)を調(しら)べ始めた。足を捻挫(ねんざ)してるだけで、他には怪我(けが)はないようだ。アキはそばに立っている涼に言った。
「ねぇ、そんなとこに突(つ)っ立ってないで、どこかに何か隠(かく)してないか探(さが)してよ」
涼は思わず、「ごめん。そ、そうだな…。分かった。探そう…」
どっちが年上(としうえ)か分からなくなっている。涼が音楽室(おんがくしつ)を探し回っている間に、アキは男の治療(ちりょう)を始めた。涼がピアノの下から大きなリュックサックを見つけるのに時間はかからなかった。その時、音楽室に柊(ひいらぎ)あずみと神崎(かんざき)つくねが駆(か)け込んで来た。
あずみは二人が無事(ぶじ)なのを見てホッとしたが、「もう、何してるのよ!」と思わず口から出てしまった。つくねが倒れている男の顔を見て呟(つぶや)いた。「貴志君(たかしくん)…? 何でここに…」
あずみも覗(のぞ)き込み、「ほんとだ。こっちに来てるなんて知らなかったわ」
アキが興味津々(きょうみしんしん)の様子(ようす)で訊(き)いた。「この人のこと、知ってるの?」
つくねがそれに答(こた)えて、「ええ。しずくの弟(おとうと)よ。で、大丈夫(だいじょうぶ)なの? 貴志君…」
アキは得意気(とくいげ)に、「もちろん。ちょっと気絶(きぜつ)させちゃったけど、問題(もんだい)ないわ」
――その頃(ころ)、川相初音(かわいはつね)と琴音(ことね)は烏山(からすやま)の近くに到着(とうちゃく)していた。しかし、登山道(とざんどう)には銃(じゅう)を持った見張(みは)りが立っていて、ここからどうするか考え込んでいるようだ。
<つぶやき>避難(ひなん)していたのに、どうして戻(もど)って来たのでしょう。姉(あね)と再会(さいかい)できるのか?
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