20××年。結婚(けっこん)できない人工(じんこう)が増(ふ)え続けるのを抑(おさ)えようと、政府(せいふ)は財界(ざいかい)を巻(ま)き込んで思い切った政策(せいさく)を打ち出した。それは、会社婚(かいしゃこん)である。全国の様々(さまざま)な企業(きぎょう)に新たに婚姻部(こんいんぶ)を設(もう)けて、いろいろな企業同士(どうし)でお見合(みあ)いを薦(すす)めるのだ。とある企業でも…。
「部長(ぶちょう)、わたしに結婚しろとおっしゃるんですか?」
婚姻部長を前にして中堅(ちゅうけん)の女子社員(しゃいん)が言った。部長はにこやかな顔で、
「わしもね、君(きみ)みたいな優秀(ゆうしゅう)な社員を失(うしな)うのは辛(つら)いところなんだ。でもね、君もそろそろ大台(おおだい)だろ? どうかね、ここらで、考えてみないかね」
彼女は、ちょっと困(こま)ったような顔をした。すかさず部長は先を続ける。
「もし、君に好きな人がいるんなら、この話はなかったことにしてもいいんだ。でもね、そうじゃなかったら…。どうだろ、君にとっても、けして悪(わる)い話じゃないと思うんだ」
彼女はまだ迷(まよ)っているようだ。今から別の会社へ行くなんて…。部長は、
「転職(てんしょく)するのは、不安(ふあん)もあるだろう。しかしね、向こうの会社へ行けば、君のスキルをもっと磨(みが)くことができるはずだ。――ああ、わしとしたことが…」
部長は突然(とつぜん)声を上げて立ち上がると、デスクの上の見合(みあ)い写真(しゃしん)を持って来て、彼女にそれを見せ、「なかなかの人物(じんぶつ)と思うんだが…。今は課長(かちょう)をしててね。仕事一筋(ひとすじ)で、女性とは全く縁(えん)が無(な)かったみたいだ。もちろん夫婦(めおと)社員として、君には課長待遇(たいぐう)で――」
<つぶやき>夫婦社員とは、お互(たが)いに補(おぎな)い合って仕事(しごと)と家庭(かてい)を両立(りょうりつ)させる特別制度(とくべつせいど)です。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます