「見たまえ、この見事(みごと)な壁画(へきが)を」教授(きょうじゅ)は興奮(こうふん)した声で言った。「保存状態(ほぞんじょうたい)も申(もう)し分ない」
真っ暗な洞窟(どうくつ)の中、みんなのどよめきがこだました。調査(ちょうさ)を始めると、かなりの数の動物(どうぶつ)の壁画が見つかり、中には人の姿(すがた)らしいものも発見(はっけん)された。ほどなくして、洞窟の奥(おく)の方を調べていた隊員(たいいん)が叫(さけ)んだ。
「教授、来てください。文字(もじ)らしいものを見つけました」
教授たちは転(ころ)びそうになりながら、声のする方へ急いだ。教授がそこで見たものは、細(こま)かな線(せん)がいくつも引かれていて、それは何かの形を示(しめ)す図形(ずけい)にも見えた。
「教授、ここを見てください」隊員は壁(かべ)の一点(いってん)を示して、「これって、絵文字(えもじ)じゃありませんか? あの携帯(けいたい)メールで使う顔文字に似てると思うんですが」
教授は灯(あかり)を近づけ、食い入るように覗(のぞ)き込む。確(たし)かに笑ってVサインを出している顔に見えてきた。隊員は別の場所(ばしょ)を指(ゆび)さして、「これなんか、いびつですがハートマークじゃ」
「どういうことだ」教授は頭をかかえた。「この時代(じだい)に、こんな図形を書いていたなんて」
教授はさらに詳(くわ)しく調べ、驚(おどろ)くような仮説(かせつ)を打ち立てた。
「これは何かの盟約(めいやく)かもしれん。文字の全体(ぜんたい)を見ると二つのグループに分かれている。それぞれ書き方が違(ちが)うから、別の人物(じんぶつ)が書いたものだろう。そして、最後(さいご)のサインだ。人の手形(てがた)がそれぞれつけられている。もしこれが解読(かいどく)できたら、歴史(れきし)が変わるかもしれんぞ」
<つぶやき>壁画はその時代を生きた人の証(あか)し。私たちは未来(みらい)に何を残せるのでしょうか。
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