「まだ帰ってこないよ。どうしちゃったんだろ?」小学生(しょうがくせい)の娘(むすめ)が訊(き)きに来た。
「もう来るわよ。心配(しんぱい)しなくても大丈夫(だいじょうぶ)だから」
私は子供の頃(ころ)を思い出す。そう言えば、私も春になると軒先(のきさき)を眺(なが)めては母に訊いたものだ。その時の母と同じように答えている自分に、私はクスッと笑(わら)ってしまた。
「ねえ、ここが分からないんじゃないかなぁ。空(そら)から見えるように目印(めじるし)をつけなきゃ」
「それじゃ、びっくりしちゃうかもしれないわ。いつも通りにしてた方がいいのよ」
「でも、帰ってこられないと大変(たいへん)だわ」
私は心配そうな顔をしている娘に言った。
「今年は、まだ寒(さむ)いからね。ゆっくり旅(たび)をしてるのよ。暖(あたた)かくなったら、きっと帰って来るわ。もう少し待(ま)ってあげましょ」
娘はこくりと頷(うなず)いた。
それから何日かして、外で遊(あそ)んでいた娘が駆(か)けこんで来た。
「ねえ、いたよ。空を飛んでたの」娘は目を輝(かがや)かせて、早口(はやくち)でまくしたてた。
「きっと、うちのツバメだよね。また、帰ってきたんだよね。そうだよね」
毎年やって来るツバメたちは、我(わ)が家では家族同然(どうぜん)になっている。私は、はしゃいでいる娘を見ながら、いつまでもこんな優(やさ)しい気持ちを忘(わす)れないで、と願(ねが)った。
<つぶやき>春を運んで来てくれる家族(かぞく)がいたら、とっても幸せな気分になれるかもね。
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