夫(おっと)が帰宅(きたく)すると、待っていた妻(つま)が言った。「ねえ、あたしのこと愛(あい)してる?」
夫は一瞬(いっしゅん)ビクッとした。別にやましいことがあるわけじゃない。それは断言(だんげん)できる。でも、突然(とつぜん)そんなことを面(めん)と向かって言われると、何かあるのかと勘(かん)ぐってしまう。今日は、特別(とくべつ)な日ではないと思うのだが…。妻は、夫の反応(はんのう)に不満(ふまん)なのか、さらに言う。
「ちゃんと答(こた)えて。あたしのこと、愛してますか?」
夫は、ぎこちなく答える。「ああ…。もちろん、愛してるさ」
「そう。分かった」妻は満足(まんぞく)げに微笑(ほほえ)むと、夫から離(はな)れていく。夫は妻を呼(よ)び止めて。
「ちょっと、何なの? 何かあるなら、はっきり言えよ」
「別にないわよ。ただ、テレビで言ってたの。夫婦(ふうふ)の間(あいだ)で、愛の確認(かくにん)は大切(たいせつ)だって。声に出して相手(あいて)に伝えるだけでも、離婚(りこん)の危機(きき)を何パーセントか回避(かいひ)できるって」
「離婚って? えっ、俺(おれ)たち、そんなこと――」
夫はあたふたして、妻のことをどんなに大事(だいじ)にしているかを力説(りきせつ)した。そして、最後(さいご)に夫は妻に訊(き)いた。「俺のこと、愛してるよな?」
妻は、わずかに微笑(ほほえ)んだだけで、そのまま台所(だいどころ)へ行ってしまった。夫は追(お)いかけて、
「なあ、どうなんだよ。俺のこと、愛してるだろ? 愛してるって、言ってくれ」
妻は夕食の準備(じゅんび)をしながら、「そうね…。もう少し、考えさせて」
<つぶやき>こういうとき、女性の方が抜(ぬ)け目がないのかもしれません。見習(みなら)いたいです。
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