月島(つきしま)しずくは檻(おり)の前に立つと、ひとつずつ扉(とびら)を開けていった。もちろん鍵(かぎ)を使うことはなかった。閉(と)じ込められていた人たちは大喜(おおよろこ)びで外へ飛(と)び出した。しずくは、
「さぁ、行って。あなたたちを止める人はいないから。もう、捕(つか)まらないでね」
――しずくは、一番奥(おく)の最後(さいご)の檻の前に立った。その檻には誰(だれ)もいないのか、扉まで来ている者(もの)はいなかった。薄暗(うすぐら)いなかへ目をこらすと、奥の方に人影(ひとかげ)が見えた。薄汚(うすよご)れた毛布(もうふ)をかぶり、目だけが異様(いよう)にギラギラと輝(かがや)いているように見えた。
川相初音(かわいはつね)がライトを檻の中へ向けた。光の中に浮(う)かび上がったのは、しずくと同じ年頃(としごろ)の娘(むすめ)だった。その娘は、ただじっと座っているだけだった。初音が声をかけても何の反応(はんのう)も示(しめ)さない。しずくはしばらく彼女を見つめていたが、その娘に声をかけた。
「あなたは、ここにいた方がいいようね。また会えるのが楽しみだわ。じゃあ」
言い終えるとしずくは出口(でぐち)の方へ向かった。初音は追(お)いかけながら、
「ねぇ、どういうこと? あの娘(こ)は何だったの。ほんとに助(たす)けなくても…」
「あの娘(こ)には助けなんていらないわ。自由(じゆう)に出られるんだから。ずっとここにいてくれればいいんだけど…。でも、それはムリね」
「ねぇ、教えなさいよ。自由に出られるって、どういうことよ」
しずくは立ち止まることなく答(こた)えた。「あの娘(こ)が、最強(さいきょう)の敵(てき)になるってことよ」
<つぶやき>新たな敵が現れたのか…。これからの展開がまったく見えなくなりそうです。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます